16 追放少年
「は?」
俺達にダンジョンのことを教える?
いきなり妙なこと言い出したぞ、この少年。
「何よそれ? それであんたに何の得があるの?」
ミーシャが
この子、一応はウィーク子爵家っていう、リベルオール王国の小さな貴族の家の出身らしいから、無償の善意ってやつはあんまり信じてないのだ。
ユリアの記憶によると、やっぱりこの世界でも貴族社会ってのは打算で動いてるみたいだからな。
ミーシャはユリアの『同胞を見捨てられなかった』みたいな納得できる理由がないと、なかなか懐いてくれない子なのだ。
まあ、そんなのは貴族じゃなくたって、大抵の奴がそうだろうが。
「実は僕、ついさっきパーティーを追放されちゃったんです。才能ないから冒険者やめろって言われて……」
「知ってるわよ。見てたし」
「見られてましたか……」
「すまんな。偶然居合わせてしまったんだ」
追放少年が、ずーん、って感じの重い空気を纏う。
そこへゴゴゴゴゴ状態が未だに解除されていない世紀末エプロンがやってきて、彼の前にコトリとコップを置いた。
匂いからして、多分中身はココアだ。
威圧感に似合わぬチョイスと気づかい。
追放少年は、ちょっと涙の混ざった声で「ありがとうございます」と言ってからココアに口をつけ、続きを話し始めた。
「グラン……仲間達の言い分はもっともです。僕はホントに取り柄がなくて、少しでも皆の役に立ちたくて色んなことに手を出したけど、全部が全部『あれば助かる』って程度の能力でしかない」
追放少年の目がどんどん虚ろになっていく。
世紀末エプロンがそっと背中を撫でた。
威圧感に似合わぬ(以下略)。
「それでも今まではギリギリ僕の存在はプラスだった。けど、これからはAランクの依頼を受けるともなれば、僕がいることのメリットより、僕が皆の足を引っ張ってしまうデメリットの方が遥かに大きい」
「わかってるんです」と、少年は続ける。
「僕は凄い冒険者になりたかった。それが僕の夢だった。その夢を未だに捨てられてない。
でも、このまま夢にしがみついて、ズルズルと冒険者を続けてたら、近いうちに僕は確実に死ぬ。
だから、グランは憎まれ役を買ってでも、バッサリと切り捨ててくれた」
「本当に良い奴なんですよ」と語る少年の目には、大切な人を思う温かい光が宿っていた。
なんだ、この綺麗な追放系は。
ちょっと少年の目に愛情っぽい熱も宿ってるように見えるが、お前らホモかよと突っ込む気にもなれない。
俺は何を見せられてるんだ。
「それで、あなた達にダンジョン攻略を教える理由ですけど……冒険者生活の最後に、僕が培ってきたものを、少しでも誰かに受け継いでもらいたいんです。
そうすれば、僕の冒険者としての日々も無駄じゃなかったって思えて、未練を断ち切って引退することができるかもしれないから」
「……ふーん。まあ、そういう理由ならわからなくはないわね」
追放少年の言い分に、ミーシャは一応納得の姿勢を見せた。
次いで、俺に「どうする?」って感じの視線を向けてくる。
正直、この提案は渡りに船だ。
俺達はダンジョンのことをレクチャーしてくれる相手を探していた。
その相手としてどこかのパーティーに狙いを定めてたわけだが、有用な指導が受けられるなら、何もパーティーに教わることにこだわらなくてもいい。
そして、この追放少年は、あの絶対零度の良い奴が言っていたことが確かなら、戦闘以外はすこぶる優秀。
曲がりなりにもAランクのパーティーに所属してたなら、ダンジョンに関する知識も豊富だろう。
ミーシャが納得してるなら、俺にも断る理由はない。
「正直、こちらとしてはメリットしかない話だ。よろしくお願いしたいところだが……店主殿はそれで構わないのか? 採用面接中だったのだろう?」
「構わん。捨て犬のように徘徊するこいつを見ていられずに、俺が無理矢理家に上げて、採用面接という体で話を聞いていただけだからな」
良い奴かよ。
「ガーロックさん……」
「だが、教えるということは、一日中ダンジョンに潜るわけではないのだろう? なら、空いた時間でバイト、いや手伝いから始めろ」
「……はい! ありがとうございます!」
追放少年が世紀末エプロンに頭を下げる。
どうやら話は纏まったようだ。
「では、改めてよろしく頼む」
そう言って、俺は追放少年に手を差し出す。
彼は女との接触に慣れていないのか、ちょっと緊張した様子で俺の手を取った。
「は、はい。僕なんかがどこまでお役に立てるかわかりませんが、精一杯やらせていただきます」
「ああ、助かる。できる限りのお礼はしよう」
「そ、そんな! 僕の自己満足なんですから、お礼なんていいですよ! むしろ、あの剣を軽々と持ち上げるような未来の英雄候補に何かを託せるとか、お金払ってでもやりたいくらいなんですから!」
「いや、そういうわけにはいかないだろう。後でこじれないようにするためにも、この手の話はしっかりと纏めておくべきだ」
最後の最後に意見の食い違いが起きたが、なんとも平和な論争だった。
それと、追放少年と握手した瞬間、パーティーを組んだと認識されたのか、例のピコン! という音が久しぶりに聞こえてきたんだが……
━━━
ラウン Lv8
HP 100/100
MP 15/15
筋力 20
耐久 25
知力 121
俊敏 44
スキル
『知力上昇:Lv9』
『索敵:Lv20』
『罠発見:Lv17』
『アイテム作成:Lv10』
『調合:Lv10』
『マッピング:Lv23』
━━━
ああ、うん、その、なんというか。
大変な失礼を承知で言わせてもらうと、確かに才能ないわこれ。
ステータスは同レベルと比較しても最底辺も最底辺。
ほぼ全てのステータスが魔法特化のミーシャにすら劣る。
知力だけは俺より上だが、MPがバカみたいに低いので、たとえ魔導書で魔法を覚えられたとしても、ロクに使えないだろう。
スキルは結構有用そうなのが揃ってるし、スキルレベルもかなり高いが、直接戦闘に関わるスキルは一つも無し。
たとえ覚醒イベントが起きても、俺の勇者もどきの力で急成長できたとしても、平均に届くかすら怪しい。
むしろ、この子を抱えてAランクまで登り詰めるとか、あの良い奴ら、すげぇな。
俺もまたユリアの力とチートの力に頼ってるだけの凡人として、密かに彼に親近感を抱いた。
「自己紹介がまだだったな。私はユリア、こっちはミーシャだ」
「あ、はい。僕はラウンっていいます」
「そうか。よろしく頼むぞ、ラウン」
最後、論争に決着がついた後、俺達は遅くなってしまった自己紹介をした。
そうして、一時的に追放少年のラウンが仲間に加わった。
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