第18話 将軍の頭痛の種1


「またかよ……」


 宰相からのムチャぶり。といっても対象が皇太子だからな。無理ないか。


 皇太子はおかしなガキだった。


 


『へぇ、あんたが近衛を一人で倒しちまった奴?』


『これはこれは、皇太子殿下。俺のような庶民に何か用ですか』


『用?勿論!魔力なしで近衛を一人残らずぶっ倒した奴の顔を見に来たんだ!』


 

 第一印象は「変なガキ」の一言に尽きた。


 この国の頂点に立つ皇子が魔力なしの庶民を。一兵卒に過ぎない俺を。わざわざ見に来たと言いやがったんだ。この前の御前試合は優勝賞金が付くことになってやがったからな。俺もつい本気出しちまった。その結果、優勝して大金をせしめたのは良いが悪目立ちしちまった。なにせ、貴族出身者が多い近衛騎士団の大半を病院送りにしちまったからな。


『貴様!皇太子殿下からのお声かけだぞ!態度を改めろ!』


 皇太子の護衛から叱責を受けた。厄介な事になっちまった。


 ここは謝っておいた方が賢明かと思ったその時――。


『うるせえ!』


 黒い閃光が放たれた途端に護衛は倒れ伏し、侍従は悲鳴を上げた。兵士も硬直している。一瞬にして周囲を恐怖のどん底に堕とした張本人はというと、やれやれと言わんばかりの態度だ。


『これで静かになったな。やっと話ができそうだ』


 俺に話はねぇ!

 そう言えればどんなにいいか……庶民は辛いぜ。


『は~~ん。見た処、魔力がからっきしねぇな!そんで魔力持ちをなぎ倒したんだ。いいね!いいね!あんた、気に入った!』

 

 

 こうして、皇太子の気まぐれにより俺は皇太子付きの護衛兼剣術師範に就任した。


 

 



 

「将軍、ピクシーが動きます 」


「……音は拾えるか?」


「問題ありません。映像もクリアです」


 部下の報告を受け、俺は安堵する。

 何事も準備しておくに越したことはない。

 

「よし、それではこれより‟ピクシー会議”を始める!」


 魔道具のペンダントによる盗撮と盗聴だがな。

 はぁ~~。皇太子殿下を陰からお守りするという名目にはなっちゃあいるが、ようは皇太子をダシにつかって他国の情報を抜き取るのが主な任務だ。そんなのは情報機関にやらせろ!俺達はそっちの分野はド素人だってのに。宰相の奴が……。


『何を言っているのですか? 相手は皇太子殿下ですよ。そこら辺にいる魔力持ちの情報部なんかに密偵をやらせたら直ぐにバレてしまいますよ。ここは魔力ゼロの将軍率いる陸軍部隊がやったほうが余程成果が出ます。それに、いざとなった時に皇太子殿下を抑え込める者が必要になるでしょう。将軍なら囮となっても自力で監獄から脱出できますしね』



 ……などとぬかしやがる。

 クソッタレ!結局は人柱じゃねえか!しかも皇太子がなにかする前提で話をする始末だ。

 ……俺も皇太子が何事もなく帰国するとは微塵も考えてねぇが。


 それにしたって、なんでコードネームが「ピクシー」なんだ?

 アレはそんな可愛らしい存在じゃねぇぞ?



 妖精っていうより悪魔だろうが……。

 それも低級じゃなく上級悪魔。


 ああ~~頭が痛くなってきたぜ。さっさと済ませて一杯飲みに行きたいところだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る