第10話 騎士の頭痛の種2
翌日の朝。
時間よりも一時間早く皇城についた。
皇太子殿下の気まぐれは何時もの事だ。思い付きのまま動かれる方だ。土壇場で取りやめた事だってある。それを踏まえて早くきたものの……どうも嫌な予感がする。城の様子は普段と全く変わらない。門番の様子も、侍従や侍女達も丁寧に挨拶をしてくれる。いつもと変わらない光景に何故だか「ヤバイ」と感じるのだ。
皇太子殿下の元に行かない方が良い――
己の第六感がガンガン警鐘を鳴らしているのが分かる。
天才と名高い皇太子殿下であるが、それ以上にトンデモナイ性質の持ち主だ。破天荒で非常識な性格に幾度となく振り回されてきた自分の感が囁くのだ。
今引き返さなければ後戻りできない――
足が自然と止まってしまった。
皇太子殿下の部屋は目と鼻の先にある。溜息が出る。城の門を通った時から既に皇太子殿下は私が登城した事は知っている筈だ。引き返せない。十中八九、厄介事に巻き込まれる。
「一体全体……何を考えておられるのですか!!!」
避暑地に到着した、その日の深夜に避暑地を抜け出した。私と皇太子殿下は一頭の天馬にまたがっている。天馬を操る皇太子殿下は涼しい顔だ。
どうしてこうなったのか。
避暑地にある離宮についた早々、皇太子殿下は宣った。
『そういう訳で、お前、今から“女”になれ』
はっ!?
何を言われたのか分からなかった。呆然とする私を無視する形で話を進めていく皇太子殿下。何がどうしたら『そういう訳で』になる? そもそも男の私が“女”になれる筈がない。奇行もここまできたのかと頭を抱えてしまった。そんな私の苦悩など知った事かと言わんばかりに勝手に話を進めていくのだから溜まったものでは無い。
『これに着替えろ』
そこにあるのは、女ものの衣装の数々。
まさか……皇太子殿下は本気で私を“女”として扱う気か!?
『殿下!!』
『なんだ、時間がないんだ。さっさと着替えろ』
『……今度は一体どんな遊びを思いついたのですか? 女性用の衣装まで揃えて』
『夫が妻のドレスを用意するのは当然だろう』
『はっ!?』
『今からお前は俺の妻だ!』
とてもいい笑顔で宣う皇太子殿下に眩暈が襲ってきた。
何を始めようとしているんだ?
皇太子殿下は本気で私を妻にする気か?
いやいや、落ち着け。帝国法では同性同士の婚姻は許されていない。
『なんだ。なにが不満なんだ? レイモンドは俺の側近候補だろう? ただ肩書が
本気か!?
本気で仰っているのか!
妻と側近では全く立場が違う!
『んじゃ、そう言う事で』
『ちょ……っ……ま……』
私の反論など聞かずに皇太子殿下に着ていた服を脱がされドレスに着替えさせられた。……殿下の用意したドレスは恐ろしいまでに私の体形にピッタリだった。逆に怖い。どうして私のサイズを知っているんですか!!!
そうして今現在、闇に紛れて帝国を抜け出している最中だ。既に隣国に入国している。しかも……密入国だ。
「殿下、一体どちらへ向かわれているのですか?」
あれから少し頭が冷えた。
皇太子殿下には何らかの目的で行動していると。
「おいおい、殿下は禁句だと言っただろ? 今から『旦那様』と呼べ。な、『奥さん』」
「……では『旦那様』……何処に行こうとしているんですか?」
「ん? 言ってなかったか?」
「……聞いてません」
「バレッタ公国だ!」
「でん……『旦那様』。何故、バレッタ公国なのですか? そして何をしに行く気ですか?」
「決まっている。公国一の美女の顔を拝みにいくんだ!」
アホな事を言われた。
美女の顔を見るためだけにこんな手の込んだ事をするのか?
そもそも、美女など見慣れているだろう!
まだ見足りないのだろうか? それとも皇太子殿下が気に欠ける程の美女だとでもいうのか?
呆れを通り越して感心するしかない。
この時の私は気付かなかった。
皇太子殿下の企みを。
あの皇太子殿下がそんな
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