第3話 皇后の頭痛の種3

 アレウス・ヴィクトリユ・ガリア。


 ガリア帝国の現皇帝クロヴィスの第三皇子として誕生したアレウスは、幼少の頃からその類稀なる才覚を発揮していた。勉強だけでなく武術も人並み外れて出来た上に、アレウス本人も教師達によく食い付いていた。皇子としての教育は順調に進んでいた。先に生まれた異母兄達を押さえて皇太子に選ばれたのも「皇后の息子」というだけでなく、アレウス本人の才覚も大いに関係していた。


 ただ、皇室や貴族が持つ古い伝統や価値観に、アレウスは猛反発した。


 お陰で幼少期の数年は大変だった。


 実情を知らない大勢の者達はアレウスの反抗期が終わったと思っているようだが、そうではない。この馬鹿息子は年中反抗期である。悪戯や暴言が飛び交わなくなったけれど、別方面にシフトしたと言ってもいい。それは、一言で言うと「害虫駆除」。特権階級を始めとした「使えない者達」の排除だ。しかも、自分の仕業だと一切の証拠を残さない徹底ぶり。




『え? 使えない処か害にしかならない連中なんていらいでしょう? 見せしめのためにもココは一発ド派手にかましてやりましょう! 汚い花火を打ち上げてやりますよ!』


 そんなことを爽やかな笑顔で言って実行に移す皇太子など前代未聞だろう。

 だが、皇族としては正しい行いだった。

 アレウスは皇位継承権を持つ皇子として、また皇帝となる者として、相応しい教育を受けていたのだ。


 この頃から息子は意識していたのか、それとも無自覚なのかは分からないけれど将来を見越して選別を行っていたように思う。

 自分にとって使えそうな人材だと判断した場合に限り、そこまで厳しい処置をしなかった。


『反省しているんだし、チャンスは与えないとね』


 と言い放ち、実に上手く飴と鞭を使い分けている。

 あれには流石の私も舌を巻いたものだ。アレウスの行動の結果、あの子を公然と悪し様に言う者はいなくなった。「使えない者達」は悉く没落、あるいは墓の下。


 まったく、何処でそんな知恵を付けてきたのか。もっとも、アレウスは膨大な魔力量を秘めているためそれを上手く利用して事に当たっていると考えるべきだろう。


 しかし――

 

『あ~、早く大人になりたいですねぇ。そうしたら思う存分暴れられるんですけどね』


 何度、聞いたことだろうか。

 今も十分好き勝手にやっているというのに。これ以上何をするというのか……。





 

 

「そんなに結婚するのが嫌なのですか?」


「母上。母上は勘違いなさっているようですが、私は結婚するのが嫌なのではありません。なのです。私は自分で妃を選ぶと決めているんですから」


「……それは初耳です」


「今、初めて言いましたから。なにしろ、母上は私の意見を聞かずにといっても過言ではない相手ばかりを見繕ってきますからね。あのような者達から妃を選んだら最後、国が傾きかねません。自意識と名誉欲に目がくらんだ中身空っぽな狡賢い狐は如何に楽をして贅沢をする事しか頭にないようですから。そこに厄介な外戚という名の害虫が王家に蔓延しても困るでしょう。それに、私にも『理想』というものがありますので」


「……理想? そんなものがあったのですか?」


「母上。母上は私を何だと思っているんですか? 当然、『理想の女性』位います」


「そ……う。それは知らなかったわ。で?」


「『で?』、とは?」


「どんな女性が好みなのです」


 まずは息子の女の好みをリサーチしてから次に一手を放とう。

 そう考えた私は悪くない。


 

「そうですね。私の妃になるということは引いては未来の皇后になるということです。そのためには誰もが認めるでなければなりません」


 

 後に、「聞くのではなかった」と後悔する馬鹿息子の『理想の女性』語り妄言はまだ始まったばかりだった。

 




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