異世界王女様リリィ

八幡太郎

第1話 王女様・現世に転移する

 大森雄一おおもりゆういち28歳、雄一は大手広告代理店に勤めるエリートビジネスマンである。


「あ~疲れた。しかし、これで今年も無事に仕事納めができた」


 雄一は年内最後の仕事を終えて、都内某区の高級マンションへと帰宅する。


 雄一がスーツの上着を脱いでクローゼットにかけようと寝室に入ると、クローゼットの中が急に光り、ドサッという音がして中から女性らしき声が聞こえる。


「なんだ空き巣か?」


 雄一は恐る恐るクローゼットに近づき、中を開くと、中には中世ヨーロッパのお姫様のような恰好をした女性が尻もちをついて頭を押さえていた。


「痛~い。頭をぶつけましたわ」


「おい、お前誰だ?」


 雄一は酔っぱらったコスプレイヤーが何かの間違いで家に入ってきたのかと思った。


「どうやら儀式の際に魔法陣に入ってしまったから、わたくしが違う世界に召喚されてしまったみたいね」


「なんだコイツ! 中二病が治らないコスプレイヤーなのか?」


 雄一はお姫様の格好をした女にもう一度何者なのかを尋ねる。


「わたくしはリリィ・フォー・グランデル、リミッタ王国の第一王女ですわ!」


「ダメだ! 警察に電話しよう!」


 雄一は変質者が家に入り込んだと思い、警察に電話しようとするが、リリィは雄一の手を掴んで雄一に電話させないようにしてくる。


「やめなさい! どうせこちらの世界の騎士団に連絡しようとしているのでしょ?

こちらの騎士団は臭い飯を喰わせると聞いてますわ! それに豚箱とかいう檻に入れるのでしょ? させませんわ!」


 リリィの抵抗がことのほか激しかったので、雄一はとりあえず事情を聞くことにした。


「魔王討伐のために勇者をこちらの世界から召喚しようと大司教が儀式をしていたのですが、わたくし好奇心が旺盛なので、ちょっと遊び心で儀式中に魔法陣に入ったらこちらの世界に来てしまいましたの」


「それ完全にお前が悪いじゃねぇか!」


 雄一は呆れると同時に帰る方法を考えたが、クローゼットを開いても魔法陣のようなものは消えていて打つ手もないのでリリィをしばらく家に置くことにした。


「ところで、お腹が空きました。何か食事を用意しなさい!」

「執事風メガネじゃねぇよ! 俺は雄一という名だ! あと、これはシルバーフレームの高級メガネだ!」


 雄一はグレーのスーツにシルバーフレームのメガネをしており、リリィからは王宮では執事に多いタイプと認識されていた。


(食事を用意しろだと! この無職王女め! 適当にペ〇ングでも出せばいいか……)


 雄一は頭に来たのでカップ焼きそばを作ってリリィに出した。


「雄一、この見た目の汚い食べ物はなんですか? こんなモノを王女に食べさせようとする気!」

「うるせぇな! 嫌なら捨てるから喰うな!」

 雄一はカップ焼きそばをリリィから取り上げようとするが、リリィはまたもや力強く雄一からカップ焼きそばを奪い取り、結局は完食するのであった。


「たまには愚民どもの食事もよいものですわ。なかなかの美味でした」

「お前、滅茶苦茶口が悪いな!」


 雄一はこれからどうしようと考えたが、既に時間も遅かったので寝ることにした。


「今日は遅いから、どうやって帰るかは、明日考えよう。とりあえず、俺のベッドで寝ていいぞ!」

 雄一は仕方ないのでリリィには寝室のベッドを譲り、自分はリビングのソファーで寝ることにした。


「わ、わたくしにこんな豚小屋みたいな狭い部屋で寝ろとおっしゃるの!」


「……、すいません家に変質者がいるので直ぐに来てもらいたいのですが!」


 雄一は警察に電話をかけるが、リリィはまたもや女性とは思えない強い力で雄一の電話を阻止するのであった……。

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