20・プレゼント

 さて、あと数日で7月になろうという今日この頃。試験のカンニング疑惑や生徒会の手伝いなど、私の頭を悩ませる出来事が目白押しだったが、現在、私が一番悩んでいるのはそんなことではない。

 7月7日は、紗良の誕生日なのだ!


 残念ながら、その日は平日。おそらく放課後はクラスの友達に祝ってもらうだろうから、朝の電車で会った時にプレゼントを渡したい。

 念願の推しへの誕生日プレゼント! まさか画面の向こうの存在だった推しに直接プレゼントが渡せる日が来ようとは! 転生万歳!!

 どうせなら本気で喜んでもらえるプレゼントを用意したいと、最近の私はそればかり考えていた。


「女子高生って何貰ったら嬉しいんだろう」

「こらこら、現役女子高生が何言ってんの?」


 生徒会室での資料整理の手を休めず、すかさず陽子がツッコミを入れる。もちろん、私も手は止めていない。そんなことをすれば、即座に会長の雷が落ちてしまう。


「だってあの子、全然欲しいもの言わないんだもの。陽子だったら何が……あ、ううん、やっぱり言わなくていい」

「ちょっと! 何それ、自分から話振っといて!」

「だって、どうせ『リボンを巻いて、プレゼントはわ・た・し』とか言うんでしょ!? 聞かなくても読めたから!」

「せいかーい! おめでとう、正解者への賞品はわ・た・し!!」

「いらないわよ!!」


 パァン!

 ヒートアップした私達の会話を遮るように、背後から飛んできたペンケースが陽子の顔面に直撃した。わぁい、ストライクだぁ。


「雑談するなとは言わないけど、もう少し静かにな」

「「は、はい……」」


 それからは真面目に仕事をしていたのだけど、しばらく経ってから陽子が「紗良ちゃんのことは詩織や友田から聞いたことしか知らないけど、詩織の選んだものなら何でも嬉しいとか言いそうだよね」と、さっきより声を落として言った。彼女にしては珍しくまともな意見だ。


「そういう子だから、余計に悩むのよ」

「欲がないね。私なら欲しいものリストに100は並べれるのに」

「陽子は欲深すぎる上に、欲しいものリストが18禁になりそうよね」

「あ、やっぱりわかる?」


 えへ、と笑うこの人に、誰か情操教育を施してやって欲しい。もはや手遅れ感がすごいけど。


「ちなみに友田はポーチをプレゼントするって。シンプルで可愛いデザインのポーチなら、すぐに使わなくても貰って困ることはないってドヤ顔してたよ」

「やるわね、友田さん……!」


 やばい。選択肢がひとつ減った。

 ポーチか、確かにアリだ。紗良はシンプルなデザインを好むから、友田さんの言う『シンプルで可愛いデザイン』ならきっと気に入るだろう。


「一緒に選びに行けばいいじゃない」


 そこへ、いつの間にか近くに来ていた会長が、追加のお仕事をドンと机に置きながら言った。

 やっと減ってきたと思ったのに……鬼か。やってもやっても減らない仕事のせいで、なんだか賽の河原で石積んでる気分になってきたんだけど。

 いや、まあ仕事のことは置いといて、一緒に行くっていうのは紗良へのプレゼントの話よね?


「それだとサプライズ感がなくなりません?」

「驚かせたいっていうのは、こっちのエゴでしょ? 貰う側は、一緒に選んで本当に欲しいものを貰った方が嬉しくない?」

「それは一理ありますね……」


 前世での友達が言っていた。プロポーズでお高いお店のダイヤの指輪を渡されたけど、全然好みじゃなくて素直に喜べなかったと。気持ちは嬉しいけど、どうせなら一緒にお店に行って選ばせて欲しかったと。

 今回の話はそんな大層なものではないが、好みじゃないものを渡して困らせるくらいなら、確実に喜んでもらえるものを一緒に選ぶのもいいかもしれない。

 しかも、一緒に選ぶということは二人でお出かけが出来る。紗良だけじゃなくて私も嬉しい! まさに一石二鳥!


「ありがとうございます、誘ってみます」

「うん、そうしなよ。私もさ、先月プレゼントに下着を貰ったんだけど、全然好みじゃない上に、贈ってきた相手の顔がチラついて全く身に付ける気になれなくてね。……プレゼントは貰う人が喜べるものにした方がいいよ」


 なぜか得意げに笑っている陽子をジロリと睨みながら、会長がしみじみと忠告してくる。経験談なだけに説得力は絶大だ。というかプレゼントに下着って……。


「あの、答えたくなければ結構ですけど、どんなデザインだったんですか?」


 ちょっとした知的好奇心で聞いてみたところ、数秒の逡巡の後、渋い顔をした会長が重い口を開いた。


「真っ赤なレースの紐パンとブラのセットだった。しかも局部に穴が開いてるやつ」

「それ、セクハラってレベルじゃないわよね!?」

「いやぁ、似合うと思ったんだよねー」


 想像以上にアレなものだったので、陽子に耐性のある私でもさすがにドン引きだ。というか、私よりよっぽど陽子のセクハラを受けている被害者がこんなところにいたなんて。人手さえ足りていれば、すぐにでも追い出すんだけどな……、なんて疲れた顔で言ってるけど、そういうところに付け込まれてるんじゃないですかね?

 会長、頑張って生きてください。

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