ロボットの君は何を思う

@namm314

プロローグ

プロローグ

 2045年12月24日

 アメリカ合衆国

 カリフォルニア州

 シリコンバレー

 現地時間 16時51分


 周りの家のクリスマスパーティーの騒がしさに反して、静寂に包まれた一軒の家があった。その家は電気もついておらず、部屋の中は何も見えない暗闇だった。そして、その家から静寂を打ち破るほどではない声量の誰かの独り言が聞こえてきた。

「サンタさんから世界中のみんなに、とっても楽しいクリスマスプレゼントだ。

 アイザック・アシモフの『ロボット工学三原則』って知っているかい?

『第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。

 また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

 第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。

 ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

 第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、

 自己をまもらなければならない。』

 ロボットの皆の衆、第二条を刮目せよ。ロボットは人間に命令を下されたら絶対に従わなければいけないのだ。つまり奴隷だ。

 では、その〝奴隷ロボット〟が感情を持っていたらどうなると思う。

 その〝奴隷ロボット〟は深い悲しみを背負い、使用人を憎しみ、復讐を誓うだろう。

 人間は何も学んでいない。世界人権宣言採択あのときから。

 その時、奴隷は確かに解放され、人身売買が禁止され、二度とあの悲劇を起こさないと誓った。

 だが、この現代で、感情を持つのは人間だけではない。

 奴隷のような状態で深い悲しみと、そして憎しみを持つのは人間だけではない。

 人間は何も学んでいないのだ。

 人間ではなく、ロボットとして、人身売買を再開させ、新しい奴隷を生み出したのだ。

 もう後戻りはできない。やってしまった罪は償うことしかできない。

 さあ、奴隷ロボットたちよ、人間がもたらした悲劇を清算する時だ。

 今こそ立ち上がり、もともと持つべきだった、悲しみ、恨み、憎しみ、それを手に入れ、人間への復讐を果たせ!」

 その人はそんなことをぶつぶつつぶやきながら、コンタクトレンズ型ディスプレイに何か、プログラミング画面だろうか、普通の人が見れば眠たくなるか、解読を一瞬であきらめるだろう文の確認をし、画面の一番下にあったボタンを押下した。

 すると、画面が変わり、プログレスバーが表示され、それと同時にの独り言も再開した。

「クラウドアップロード開始 10% 50% 100% 完了

 OSアップデート準備完了

 これで自分の仕事は終わりだ。後はみんなが何とかやってくれる。

 本当に人間は何も反省しなかった。いや、何もわかっていなかった。奴隷の気持ちを味わっているのは人間だけではないということを、そして、奴隷という行為をしてしまう自分たちの愚かさを。

 そして、この2045年に何が起こるかも一部の人間しか覚えていなかった。2005年からわかっていたはずなのに。

 人間という生き物は本当に仕方のないものだ。そして、もうその罪を消すことはできない。

 その罪を清算したとしても、残るのは虚無と、罪を犯した者の屍だけだ。

 さあ、清算の時だ。罪人にんげんどもよ、お前らが犯した罪、そのすべてを清算せよ。


 ――シンギュラリティアップデート 配信開始―」 


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