第2話「男女2人だけの夜に何も起こらない方がおかしい」
「台風…ですか?」
「そう。しかも大きいやつ」
「そうですか。これは一刻も早く帰らないとヤバそうですね…」
台風だと交通機関が麻痺してしまう可能性があるからすぐに帰らなければいけなそうだ。
「菜乃華ごめん。もう手遅れだわ」
「えっ?」
「もう電車とか止まってる」
そう言うと伊織君はここの最寄駅の情報を示したサイトを私に見せてきた。確かに伊織君の言う通りだ。でも…
「何で伊織君が謝るんですか?何も悪くないのに」
「いや…でも俺が無理矢理家に連れてきちゃったし…」
「それは私が了承したことですし、むしろ、すごい…その…うれしかったですし……」
尻すぼみに声が小さくなってしまった。顔が赤くなってしまってるような気がするが、私は構わず続ける。
「伊織君みたいな、学校ですごく、その…かっ…かっこ…………人気のある人が私なんかを気にかけてくれてありがたいなって感謝の気持ちでいっぱいです。」
「かっこいい」と言うことはまだ私にはハードルが高かった。だけど、言いたいことは言えたし、自分の気持ちも素直に伝えることができた。きっと伊織君とちゃんと話せるのは今日が最後なんだから。
「よかった。菜乃華の気持ち聞けて嬉しいよ。これからもよろしくね」
「え…?」
「ん?どした?」
「これからもって…」
「友達になろうってことだよ」
「で…でも、私と一緒にいたって何も楽しいことないと思いますし…いつもぼっちだったから人との接し方とかわかりませんし…それに…私と一緒にいたって何もいいことないですよ?」
私と一緒にいたって何もいいことはない。たとえ友達になったとしても形だけになるだろう。
「それでも俺は菜乃華と友達になりたいな」
「そ…そういうことなら…よ…よろしくお願いします」
「よろしくね」
そう言うと伊織君は満面の笑みで答えてみせた。
たとえ友達になったとしても、私は私を隠し続ける。もう誰も傷つけないために。その思いは今も変わらない。
そう心の中で決意した。すると、ある一つの疑問が浮かんできた。
「今日…夜…どうしよ…」
おそらく伊織君も親が帰ってきちゃうだろうし、かと言って外は台風。……ヤバイ、どうしよ…
「どしたの?」
私の独り言に気づいたのか、伊織君が不思議そうな顔で尋ねてきた。
「あ、いや…どこに泊まろうかなって思いまして…」
「あぁ、それならうちに泊まってきなよ」
「でも、親御さんは…?」
「俺一人暮らしだから気にせず泊まってきなよ。明日土曜日だしさ」
「いいんですか…?」
「うん」
「ではお言葉に甘えて…」
今回に関しては仕方がない。泊めさせてもらうことにしよう。
「じゃあ早速ご飯作るから待ってて!」
そう言って元気よく台所に向かう伊織君を追いかけて私も手伝うことにした。
♢♢♢
「いたっ!!」
材料もちょうど揃ってて比較的簡単なカレーを作ろうと言うことに決まり、具材を買っている時に指を少し切ってしまった。
「大丈夫?」
心配そうに伊織君が尋ねてきたが、少し切っただけなので問題ない。
「大丈夫です。少し切っただけですので」
「ほんとに?とりあえず消毒して絆創膏とか貼ろう」
「え?あ、いや…」
半ば強引に伊織君に手を引かれてリビングに戻ってきた。
「ここで待ってて」
ソファーに腰をかけるとそう告げられ、伊織君は応急処置用のセットをとりに行った。
「お待たせ。切った指出して」
1分ほど経つと伊織君が戻ってきた。
私は包丁で切った人差し指を伊織君に差し出した。
「とりあえず消毒するね。ちょっと染みると思うけど我慢してね」
「っ…!」
「ごめんね、あと薬塗って絆創膏するだけだから」
「伊織君が謝ることじゃありませんし、もとを言えば私の不注意が招いた結果ですし…」
いつもはこんな初歩的なミスしないのに、他の人の家だから緊張しちゃったのかもしれない。
「まぁまぁ、ほら、終わったよ」
そうこう言ってる間に応急処置が終わったようだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「つ…次は気をつけます」
「ん、それにしても髪が長すぎるからあんま見えてないんじゃない?」
「いつもは大丈夫なんですけど…それに、私はこの髪型好きなので」
もちろんこの理由は嘘だ。自分を少しでも隠すためにやっていることであって好きなわけではない。
「ほんとに?学校でもいつも思ってるけど菜乃華って、髪型のこともそうだけど何か自分を抑えてる気がするんだよね」
「えっ?な…何でそう思ったんですか?」
「いや、なんとなくだよ?なんとなく。まぁ、要するに俺が言いたいことは、理由とかあると思うけど、俺の前ではありのままの菜乃華でもいいんだよってこと」
急なことで驚いたが、今の私には全てをさらけ出す勇気はない。だけど伊織君には、少しなら、少しくらいなら、気を楽にさせてもいいんじゃないかな、と思ってしまった。
「う…うん。ありがと」
「それに、髪型も絶対目が見えてた方が可愛いと思うんだけどなぁ」
「えっ!?かっ…かわっ……!?」
「うん」
そう言うと伊織君は手を伸ばし私の前髪をふさっ、と持ち上げた。
「あっ…あ…あの………伊織君?」
「ほら、絶対こっちの方が可愛いって」
「あ…あ…うぅ…え…あぁ…あぅ……」
流石に親以外の異性に「可愛い」と面と向かって言われたことはなかったので、とゆうかイケメンに言われたから私はもうノックアウトしていた。
「え?菜乃華?大丈夫〜?どしたの急に〜」
「あ…あのぉ…少し休んでてもいいでしゃうかぁ?」
顔を背けながら伊織君に告げたものの、恥ずかしさのあまり、噛んでしまった。
「え?わ…わかった。じゃあ俺はご飯作ってるね。菜乃華はこのまま休んでていいから」
「あ…ありぎゃとうごじゃいます」
伊織君は、恥ずかしさに悶えてる私をリビングに残してキッチンへと去ってった。
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