第7話 思えば遠くへ来たもんだ



「──……んぅ……?」



 薄っすらと目を開ける。

 と、陽の光が遠慮無しに目の中に飛び込んできて、思わず乱暴に目を擦った。



「……ここは?」



 上体を起こし辺りを見回す。見えるのは、弱い陽の光を受けてキラキラと葉を輝かした木々だけ。



 「……あぁ、そうか。俺は気を失ったんだっけ」



 あのクソッタレなゴブリンと戦って、その後意識を失ったんだ。


 ふと横を見る。

 そこにゴブリンヤツの死体は無く、変わりにヤツの使っていたこん棒が、朝露か何かで濡れてキラリと光を放っていた。ゴブリンの死体が無いところを見るに、どうやらこの世界では、魔物は死ぬと消えてしまうらしい。どこかゲームっぽいな。



「ゴブリンの死体が無くなる時間がどのくらいだか解らんが、取り合えず死んでなくて良かった」



 何日気を失っていたのかは判らないが、死んでいないって事は時間はそこまで経っていないのかもしれない。



 ──とそこまで考えて、思わずガバっと体を捻る。そしてボロボロになったジャケットを脱ぎ、ワイシャツを捲って脇腹を見た。そこはゴブリンに蹴られ、血反吐を吐くほどのダメージを負った場所……なのだが、



「──あれ、痛く、ない?」



 あまりの痛みに死まで覚悟したのだが、今は触っても叩いても捻っても伸ばしても全く痛みが無い。素人目に見てもかなりの重傷だったはずで、簡単に治るはずも無いのだが、今は完全に治っている様だ。 どうなってんだ、一体?



「……誰かが治してくれた、とか?」



 気を失っていた俺が自分を治せるとは思えない。なら、誰かが治してくれたの考えるのが自然だろう。


 だが、魔物ゴブリンが居るこんな森の中、この世界に来たばかりで知り合いの居ない俺を治療しにわざわざ人が来るとは思えない。

 たまたま通りがかった誰かが治してくれたのだとして、そのまま置き去りにされたとは考えたくも無い。人類皆兄弟。森の中に倒れている人間を置き去りにする人間が居るなんて思いたくもない。って事で、誰かが治してくれたという線は限りなく無いだろう。そもそも勇者である俺をそのまま放っておくなんて、考えれらないしな。

 

 他に残された可能性は、自然治癒で治したって事になるんだが、そんな簡単に治る様なダメージじゃなかった。だとすると──



「やっぱ、異世界を識る者ディープダイバーだよな……」



 それしかない。

 気を失っている間に、無意識にディープダイバーが発動して、自然治癒的なスキルか魔法を得たのかも知れない。もしそうなら、ディープダイバーはクリエイト系スキルの最上級、異世界転生系のラノベやアニメの主人公も真っ青なチートスキルじゃねぇか! このまま知らないうちに、ホ○ミからホー○ーまで使える様になるかもな!



「さてさて、どんな回復スキルを手に入れたんだ?」



 どんな回復スキルが書いてあるかな~と、早速ステータスを開き【スキル一覧】を見る。回復スキルと言えば白魔法が有名だが。



「……あれ? 回復系スキルなんて無ぇぞ?」



 だがそこには【異世界を識る者ディープダイバー】と【無詠唱アンストレッサー】、【火魔法フレイムマイスター】だけ。



「じゃあ、魔法の方か?」



 一旦スキル欄を閉じ、魔法欄を開く。

 が、ファイアボールが書かれているだけで、治癒系の魔法は載っていない。ならどうやって回復したんだ……?



「ん~、どういうこった?」



 首を捻る。

 スキルや魔法でも無く、他人が来た可能性も無いとなると全く分からない。

 まさか、この世界に連れてきた女神様か?!とも思ったが、何故か一番シックリ来なかった。可能性的には一番高いのだが、なにせいまだに一度も姿を見せていない女神様ヤツである。女神様なら連絡を取る方法なんて幾らでもありそうなのに一回も姿を現さないヤツが、わざわざこんな森の奥まで来て俺を治したりするだろうか? 



「まさか、俺と話したくないとか無いよな?」



 勝手に異世界に連れて来てそんな事言われたら、泣いてしまうかもしれない。だって男の子だもん……。



「……まぁ良いや。考えても判らん。取り合えずは保留、だな」



 判らない事をいつまでも考えているなんて、時間の無駄だ。時間は有限なのだ。 

 そんな事よりも、ステータス画面を見た時にもっと気になる事があった。それは──



「おいおい、レベルが上がってるじゃねぇかよ!」



 そう、レベルが上がっているではないか! しかも1から3に! 

 それに伴って、2だの3だのという頼りない数字だった各ステータス値が、10を超えたところまで上がっていた。レベル3といったら、某RPGゲームなら、複数のスライムと戦っても薬草の力を借りずに連戦出来るほどだし、これならゴブリンも恐れるに足らん!



「経験値があるのか判らないが、レベルアップするなんてマジでゲームと一緒じゃん! それでステータスも上がるなんて、ガチでやべぇ!」



 敵を倒し経験値を得て、レベルが上がり強くなる。結果に出るのが楽しい! ヤバい、ワクワクが抑えられない! 



 「よし! 異世界をエンジョイする為に、レベル上げまくろう! それにこの森にはゴブリンよりも強い魔物も居るかもしれん。ならば生きる為にもレベルを上げてスキルも覚えなきゃな!  もうあんな痛い目に遭うのはこりごりだしよ!」



 立ち上がって、むんっ!と気合を入れる。



 あっちの世界じゃあ、勇者になりたくてもなれなかった。それが、異世界に来た事でそれが叶ったのだ。なら、こっちで勇者として存分に生きてやる! その為に強くなるんだ!



 変わらずジョブの欄は空欄とか、【スキル取得可能数】が回復しているとか、色々と解らない事が多いがひとまず置いておこう。強くなる事が判ったこのワクワクは止められん! まさに『ガンガン行こうぜ』だ! 




 さらなるレベルアップを目指す為、それから三日間、俺はひたすら魔物を倒しまくった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る