第5話 ディープダイバー
「【
聞き慣れないスキル名に、おもわず首を傾げた。
ディープダイバーなんてスキル名、数多ある異世界ファンタジーを読破した俺でも聞いたこともないぞ?
まぁ名前から推測するに、おそらく異世界の知識が得られるとかそんな感じだろうけど、この状況でコッチの世界の知識とかどうでもいいわ!
「にしても、戦闘に使えるスキルが皆無とかやる気あんのか!」
チートスキルまでは期待していなかったとはいえ、まさかまともなスキルすら無いなんて! 俺は勇者なんだぞ!
「分かったよ! だったらスキル無しで戦ってやるよ! それで良いんだろ!」
目から流れる心の汗をグイっと強引に拭う。こうなったら、もう
「ギシャアァ!!」
「──へっ? ぐえっ!?」
突然発せられた奇声と同時に、脇腹に走る鈍くて熱い痛みが走る! それを認識した時には、すでに俺の身体は吹き飛んでいた!
「がはっ!」
次いで訪れた、背骨が折れるんじゃないかってほどの衝撃と、口から溢れ出る生温い鉄の味。
パチパチと強制的に切れそうな意識の向こうで、右足を綺麗に上げたゴブリンの姿が見える。
それで理解した。いい加減
……クソ野郎、オマエはさっきまで散々攻撃したんだから、次は俺のターンだろうが。少しは待ちやがれよ……!
ドサリと地面に崩れ落ちる。
目の前にチカチカと白い光が瞬く。
これが俗にいうお星さまってやつかと場違いな事を考えて気を散らそうとするも、脇腹と背中の痛みは全然引く気配がない。
痛い!
痛い!
痛いっ!
なんだよ、コレ! 痛すぎる!!
「ゲシャシャッ!」
「……クソ。やってくれたな、あの野郎……」
ズキズキどころかバキバキと痛む身体は全く言う事を聞かず、仰向けのままフラフラとなんとか顔だけを上げると、持っているこん棒で肩をポンポンと叩きニヤつきながら、俺に近付いてくるゴブリンが見えた。
あぁ、そういやアイツは俺を殺す気だったなと、忘れていたその事実を文字通り痛いほど理解させられた。そんなヤツ相手に思いっきり隙を見せた俺は、馬鹿以外の何者でもねぇ。
「……う、ぐっ」
異世界に来たってだけで馬鹿みたいに喜んで、このまま何も出来ずに殺される。そんな情けない終わりがとても悔しくて悲しくて、涙が出てきた。
「……こんな終わり方、冗談じゃないぜ……」
──そんな気分になったのが良かったのだろうか。そういや良く分かんないスキルがあったな、なんだっけかと、幾分冷静になった頭で思い出す。
ぼやける思考を何とかかき集めてステータス画面を開き、先ほど見た【取得可能スキル】画面を出す。その最後を見れば、【
なんだよ、
……──待てよ?
異世界を識る者?
それって異世界に詳しいって事、か?
途端、何故だか解らないがカチリと頭の片隅に何かがハマった音が聞こえ、霧が晴れる様に意識がクリアになる。
ジワリジワリと戻ってくる感覚の中、さらに考えが重なっていく。
──ってことはだ、ここじゃない、他の異世界にも詳しいって事にならねぇ、か?
ただの思い付きだったモノが
湧き上がった直感が、不安定な道筋を照らし模索していく。
段々と目に力が宿るのを感じ、さらに明瞭になっていく意識の中で、気付けば一つの仮説が組み上がっていた。
──この世界は今のところ、俺の大好きなラノベやマンガ、アニメでお馴染みな異世界と同じ設定だった。なら使えたりするんじゃないか? 今は持っていないスキルがよ──……?
我ながら、あまりに無理やりで強引過ぎるとは思う。だが、有り得ないって事はない筈だ。
──根拠はある。
それは異世界物のラノベやアニメで良くある設定、[世界が違うのに、何故か別の世界の知識や応用が利く]ってやつだ。
例えば、前の世界では常識だった[青い炎の方が赤い炎に比べ温度が高い]という現象が、異世界でも通用し魔法などに応用出来ていた。
そこで俺のスキル──異世界を識る者──だ。
こんな状況になっても相変わらず何のヘルプも無いので想像でしかないが、もしかするとコイツには、他の異世界での色々なスキルや魔法が、この世界でも使えるというスキルなんて可能性は無いだろうか──?
「メチャクチャ、言ってんのは、まぁ、解ってんだ、けどよ……」
自分でも無理筋だってのは理解している。強引過ぎる結論だって事も。
が、どう転んでも、どんなに無い頭を捻っても、今の俺にはソイツに自分の命を
「それに、このままじゃどうせあのアホに殺されるんだ……。だったら最後の悪あがき。色々と確かめてから死ぬのも、悪くねぇだろ……」
震える指先でステータス画面を開き、【取得可能スキル 1/1】から【異世界を識る者】を選択して取得する。
数字が0/1になったが知らん。死んじまうのに比べれば数字なんてどうでも良いし、結局今の俺には、これしか頼るモンが無いのだから。
「死にたくは、ねぇからな……」
せっかく異世界に来れたってのに死んじまったら、絶対に悔いが残るだろう。
まぁ、俺の読みが外れて
全く姿を見せないので、ソイツにどれだけ信頼が置けるか分からないが、何の意味も無しに俺をわざわざこの世界に連れて来たりしないはず。なら今は、そこに期待しておこう。まぁ、今後も姿を現さないかもしれないけどな。
「まったく、どんだけ人見知りを、拗らせてんだよ」
ぶつくさと毒づきながら、ぶつかった太い木に寄り掛かる様にしてヨロヨロと立ち上がる。
体を動かすたびに、あちこちから悲鳴の様な痛みが返ってきた。これ、どこか折れてねぇか?
「がはっ! げはっ!」
喉の張り付いたなにかが不快で咳づくと、乾ききっていない血が勢いよく飛び出した。
結構なダメージだな……。血反吐って、確か内臓に相当なダメージの時しか出ないんだろ? アイツ倒した後、俺生きてんのかなぁ? まぁそんな事、今は関係無いか。
弱々しく笑う。
今はゴブリンを倒す事、それだけを考えればいい。倒さなきゃどっちにしろゲームオーバーなのだ。だから今は、自分の出来る事をやってやる。
──じゃあ、なにが出来る?
身体を少し動かすだけでこれだけ痛みが走るのだから、技系のスキルを覚えても使えない。なら、覚えるのは魔法スキルだ。
「……まずは魔力、か」
魔力があるのはステータス画面で確認してる。まずはそいつを見つけだす!
「っ! ふぐっ!」
痛みが頭の中で激しくシンバルを叩くなか、俗にいう、自分の中にあるという普段とは違う力とやらを探す。
ラノベを読んだ時、「んな都合の良いモンあるかよ……」なんてバカにしていた行為に、全神経を傾ける。
──すると、ポワリとした暖かいモノが、ちょうどヘソの下の部分にあるのを感じた。自分の
これが魔力なのかと誰に尋ねるも無く問うと、トクンと心音が返ってきた。そうか、これが魔力なんだな。
自分の中に魔力があった事に、ジーンと心が熱くなり思わず頬が緩む。こんな場面で無ければ、跳び上がって泣いて喜んでいたところだが、今は感動してもいられない。まだ、第一段階を確認しただけだ。
──魔力はあった。なら次は魔法だ。
多くのファンタジーでは、魔法ってやつは魔力だのマナだのを行使する事で発動するのだそうだが、あいにくと俺はその行使の仕方ってやつを全く知らない。
その方法の一つが詠唱なのだろうが、この世界の詠唱はおろかその言葉すら知らない。──なら、最初に必要なのはあのスキルだ。
痛みと熱でぼやける視界の中、ステータス画面の【異世界を識る者】スキルを注視する。
どう扱うのか全く分からないスキルだが、その横に5/5と書かれている事から、【取得可能スキル】と同じ要領で、スキルが五個会得出来るってことだろう。だが──
「どうすりゃ、良いんだ、よ」
取得可能スキルと同じ様な一覧はどこにもなく、使い方も会得方法も解らない。
黒くよぎる絶望と、こん棒でパシパシと手を叩きながら近付いてくるゴブリンが「もう諦めちまえよ?」と言っていた。ここまで、なのか……?
「──いや、まだだろうがっ!」
歯を噛み締める!
冗談じゃねぇ! 勇者がこんなところで簡単に死ぬわけないだろ!
それに思い出してみろ! 俺が大好きな勇者たちは、どんな時だって諦めないで最後まで戦ってきただろっ! なら俺も、彼らの様に最後まで立ち向かうんだ! 考えろ! どうすりゃ良いのか考えるんだっ!
「スキルの名前が、関係すんのか? 異世界を識る、だろ。異世界を識る者っていうのなら、俺の知る異世界の知識でも、イメージすりゃ良いのか──?」
迫るゴブリンの恐怖を何とか追いやり、目を瞑る。
イメージする材料は頭の中にたくさんある。それこそ、今まで触れてきた異世界物語の全てだ。
──すると、何故かその中から必要な物が勝手にピックアップされ、やがて何かの正解に触れた気がした。
恐る恐る【スキル一覧】を見る。
するとそこには、【無詠唱(ノンストレッサー)】という文字が表記され、【異世界を識る者】の数字が4/5になっていたのだった。
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