本当の化け物
金曜日の夜は会社帰りに何駅も前に降車して家まで歩いた。
持久力をつけたくて半年前くらいからランニングやウォーキングを続けている。
電車を降りて歩いていると、かつて職場であったビルの前を通った。
僕の勤めている会社の本社ビルを建てている間だけ働いた仮庁舎で、今は商業施設まで入ったオシャレな高層ビルに変わっていた。
僕がこの場所で働いたのは15年くらい前で、当時はレトロな雰囲気の四角い石造りの建物だった。
外観はレトロで良い雰囲気だったが、中は昼間でも暗く、地下倉庫などは一人では行けないくらい不気味な雰囲気を醸し出していた。
ある時、建物の裏口に小さな祠があることに気づいたが、ビル管理の方に「絶対にそれには触れるな」と注意されたことがあった。
理由を聞いたら、かつてこの場所は戦争中の野戦病院で多くの人が亡くなっていて、怪奇現象が起こるというので裏口に祠を建てたらしい。
ビル管理の方が祠を建て直して近くの神社の神主に御霊を入れてもらうから、それまではここに近づかない方が良いと言われた。
「へぇ~」
と思って、昼休みに同僚にその話をしたら、「故障中」と紙が貼られていたシュレッダーが勝手に動きだし、同僚と顔を見合せ、この話を続けるのを止めた。
その後も事務室のドアがノックされて、開けてみると誰もいないとか、奇妙なことが度々起きていた。
当時は残業も多く、深夜まで働くこともあったので、事務室で一番最後になると、なんとなく嫌な感じを受けたのを思い出す。
ある時、総務部の知り合いが「明日、あの祠に御霊入れやるから大丈夫だよ」と言ってきた。
知り合いはその担当者だったので、近くの神社に連絡して儀式を取り行った。
それから数日して総務部の知り合いが出勤拒否をしているという話を聞いて、さすがにちょっと怖くなった。
それから一年後くらいに新しく建て直した本社ビルに移り、その場所へ行くことはなくなった。
そんな恐怖を覚えた場所がいともあっさりとオシャレな商業施設に変わっているのを見て、ある意味ぞっとした。
「本当の化け物は、人間の欲望だ……」
人間の商魂逞しさに恐怖した夜だった。
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