第45話

◇◇姑候補の完全勝利!

アンネ・フォン・グリューネは多分、来週中には実現するだろうカールの母マルガレータへの表敬訪問の事を考えていた。


一般的には表敬訪問、ご挨拶とは将来の姑に成る人へ嫁としてどうかという面接のようなものである。


女性にとっては何よりも緊張する一瞬であった。


今回、カールの婚約者候補は3人である。 その中でデビュタントを済ませているのはアンネのみである。


よって、アンネが他の二人を導かねばならない。 早速、クリスティナとアメリアを呼び出した。


「クリスティナ様、アメリア様 今回、お呼び出し致しましたのは来週には実現するであろう マルガレータ・フォン・アーレンハイト様へのご挨拶の件です」


クリスティナもアメリアもアンネの云わんとする事は充分に理解をしていた。


「はぃ! アンネ様 宜しくご指導のほどお願いします。」クリスティナは静かに頭を下げた。


「私達はまだデビュタントも済ませておりません 色々と教えて頂ければ嬉しいです。」アメリアも現状を正しく理解していた。


二人の現状認識の正しさを知りアンネも一緒に頑張ろうと答えた。


「まず、三人で歩調を揃える事です、抜け駆けは禁止します 良いですね。」二人は静かに頷いた!


「決めなければ成らないのは、当日の服装とお土産に話しの内容です。」


「服装は余り、華美にならないようにしなければなりません。 次にお土産ですがお花は当然として他に何を持っていくかです。」服装はどうしても華美になりがちであったのでアンネは敢えて指摘をした。


「そうですわね お花もマルガレータ様のお好きな花が分かれば良いかと思います。」やはりアメリアである 自分の父が昔 アグネスを部下にしようと色々と調べた時の情報が有ると皆に話した。


でも、今回の問題はアグネスでなくマルガレータである。だがアンネはアメリアの話から自分の父、クリーク・フォン・グリューネ伯爵が昔 マルガレータを部下にしようとしていた事を思い出した。


「ひょっとしたら父がマルガレータ様の趣味や好き嫌いを調べているかもしれません  確認してみます」漸くアンネの言葉で先に進みだした。


「では次の問題はお土産です。 現時点では服装と同じで余り華美な物は相応しくないでしょう 勿論 宝石や貴金属はダメです」


「難しいですわ!」 


「多分、今回はお茶会と云う形を取られると思います。 ですから そのお茶会で披露するような形に成ると思いますので。。。」


「お茶会で披露するとなると、その場で一緒に食べながら話の輪を広げるのが良いかもしれませんね」


こうして、幼いながらも三人は協力し将来の妻の座を目指す事を誓い合った。


三人ともまだ純真である、他人からの話を素直に聞いて取り入れようとする。


彼女達の母親は如何だったのかは重要な情報である。 


そしてアンネ、クリスティナ、アメリアによる秘密の作戦会議は連日繰り返し開かれていった。


そして、アーレンハイト家で行われるお茶会の当日


各自、余り派手ではない色調のドレスを選んでいた、勿論 事前の話し合いで色調が被ると云うトラブルも発生しなかった。


三人が定刻に揃って、アーレンハイト家の門を潜った。


カールは三人を玄関で出迎え、軽い挨拶の後 母の待つ、応接室へ誘った。


カールはアンネ、クリスティナ、アメリアの順番に義母のマルガレータへ紹介をした。


「マルガレータ様、カール様 本日はお茶会にお招き頂きありがとうございます。」


「マルガレータ様、カール様 お茶会にお招き、ありがとうございます 宜しくお願い致します。」


「マルガレータ様、カール様 お茶会にお招き、ありがとうございます カール様の事も含めて色々と教えて頂ければ幸いです。」


三人が三様の挨拶を交わした。


「アンネ様、クリスティナ様、アメリア様  ようこそいらっしゃいました 歓迎を致します。」


三人にとって初めての事でマルガレータが応接室で出迎えに出た事の異常さに気が付いて居なかったが、わざわざ出迎えて貰えた事に喜びを感じていた。


普通はカールが出迎え、アンネ、クリスティナ、アメリアを応接室へ招き入れた後にマルガレータが入り、紹介をするのが一般的であった。


今日は何時もの執務室ではなく応接室に三人を招き入れた。


上機嫌なマルガレータは三人に座るように促した。


三人は事前に相談をしていた、マルガレータが好む花とお土産をカールのメイド、シンディー手渡した。


こうして、第一段階は無事に突破した三人は少し緊張しながら次の段階に進んでいた。


マルガレータはカールのメイド、シンディーに云いつけて今日の為に用意した品を運び込ませた。


それは一口大にカットされたサンドイッチと紅茶だった。


サンドイッチの具材には色々な工夫が施されていた。


色々な花をモチーフにしたり飾り付けなど見た目にも工夫が施されて食べる事だけではなく見るだけでも招待客を楽しませていた。


「まぁ~~ マルガレータ様 これは何ですの? 初めて見ましたわ!」初めに反応したのはやはり王女のクリスティナだった


アンネ、クリスティナ、アメリアの三人は始めは挨拶から話の内容を進め、自分達の持ってきたお土産で話を膨らませて 自分達のペースでと考えていた。 その為の作戦を何回も練ってきたのだが、マルガレータからの先制パンチでリズムが崩れてしまっていた。


「アンネ様、クリスティナ様、アメリア様 これは当家でサンドイッチと呼んでいる物です 宜しかったら一口 どうぞ!」


三人はその綺麗に盛り付けられたサンドイッチに手を付けた。


余りの美味しさに三人は我を忘れて食べてしまった。 


妻候補と姑候補の第一ラウンドは姑候補マルガレータへ軍配は上がった。


暫くすると三人の妻候補も落ち着きを取り戻し、何事も無かった様に振舞うのだが


話の主導権は既にマルガレータへ渡っている。 何とか話を進めていると三人が選んだ花とお土産が運ばれてきた。


三人は 今 王都でも話題に成り有名な店から焼き菓子を選んできていた。


中々 センスの良さを感じさせる素晴らしいチョイスで有った。


実はお茶会に相応しい物を選ぶにはT.P.Oを兼ね備えたセンスが必要とされる。


やっと三人はマルガレータへ傾きかけた流れを引き戻せそうな感触を得ていた。


話もカールの日常や小さな時の話などから、王都での流行などの話に移り盛り上がってきた。


ここでマルガレータは本日のメインを出す事にする。 女性にとり甘くて美味しい物は別腹である、これはいくら幼くても変わらない。


カールは既に途中で退席していた。  女性同士の話の中で男性である自分が一人で居るのに耐えられなかったのである。


マルガレータはメイドに云い 新しいケーキを運び込ませた。


今回、用意させた新しいケーキはスポンジの間に何層もの果物と生クリームを挟み味にアクセントを加えた物だ。


そして 表面も白い生クリームで覆い、上にはイチゴやオレンジなどが色鮮やかに飾られていた。


アンネ、クリスティナ、アメリアの三人はまたもや動きが固まった。 言葉も発せられない!


その白い物体からは甘い香りが漂っているが正体が分からないのだ!


またもやアンネ、クリスティナ、アメリアの三人はマルガレータが投下した恐るべき威力の爆弾に完敗を悟った。「あ 。。 あのマルガレータ様 その白くて甘い香りがする物は何でしょうか?」


「あ これはアーレンハイト家ではケーキと呼ばれる物です とっても美味しいですわよ!」


誰かの唾を呑む音がした。。。。 この時、いままで存在していたケーキの事は忘れられ、アーレンハイト家が新しく作り出したケーキが主流になっていく


メイドが三人の目の前でその白くて甘い香りのするケーキなる物を切り分けている。


切られた断面にも白い層と黄色の層に果物からなる色々な層が見えている。 果たしてどんな味なのだか分からない。


切り分けられた、ケーキが三人の前に置かれた。 誰もが食べたいけど中々、手が出なかった。


「皆さん どうぞお召し上がり下さいな。」


マルガレータの声でケーキの呪縛から解き放たれた三人は小さなフォークで小さく切ったケーキを口に運んだ。


始めに食べた、サンドイッチも柔らかく複雑な味でとても美味しかったが このケーキは更に柔らかく、複雑な味わいと美味しさがあった。


三人は一心不乱にケーキを食べて 気が付いたら既にケーキは皿の上から消えていた。


マルガレータは心の中で小さなガッツポーズをし、少し澄ました声で「もし お気に召したようならばお代わりがまだ有りますからどうですか?」と三人に話した。


三人は少し恥ずかしそうにしながらもお代わりを求めた。


やっぱり 妻候補と姑候補の第二ラウンドも姑候補マルガレータへ軍配は上がったようだ。


少し大人げないマルガレータで有ったのだが、これが女性と云うものかもしれない!


このケーキで三人は完全に今回の訪問に於ける主導権を諦めた。


まぁ 実を云えば主導権自体は重要ではない 三人がマルガレータに気に入られる事が重要だったのだ


マルガレータは三人の話からカールに対する思いや、彼女たちの事を知り 今後 喧嘩をする事なく仲良く過ごせるだろうと感じた。 そのことで三人の今回の訪問は大成功と云えた。


楽しいお茶会も終了の時間を迎えた。 マルガレータは三人に素直な感想を述べ、今後ともカールの事を宜しく頼むと話を結んだ。


三人からすれば、アーレンハイト家を訪れる前の不安から想像以上の成果を迎えられ心が晴れていた。


これで、今後は堂々とアーレンハイト家を訪れる事が出来るのである。


嬉しくないはずが無かった。 そこにお土産の返礼品が三人に渡された。


返礼品は今日 お茶会で食べた、サンドイッチとケーキで有った。


サンドイッチも複数の人が食べる分が有り、ケーキもホールで渡された。


これは、各自が家に帰り家族に今日のお茶会の話をする時にとの心遣いで有った。


こうして、カールのお嫁さん候補対お姑さん候補対決は完全にマルガレータの勝利に終わったのだが、三人の心は晴れやかのまま帰っていった。

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