第23話

◇◇ 長男:アウグスト・フォン・アーレンハイト

マルガレータ母上から緊急に呼び出された。 アーレンハイト家に有る白金貨100枚にもなる膨大な借金を一括で返済する気である。 何処からそんな資金を得たのであろう。 気には成るが マルガレータ母上のあの性格 教えてくれないであろう。


翌日、アーレンハイト家の屋敷を久しぶりに訪れる 家令のハンスに案内され母の元に行くといつもよりご機嫌な母の姿。


「母上 突然のお呼び出し どの様な御用でしょう?」


母の上機嫌が少し曇ったような? そして母からの言葉を待つ、いつもの前振りもなく


「アウグスト 確か王国財務省で貴金属の買い取りをしていたわね?」


言葉の正確性にはうるさい母に言葉を選びながらアウグストは少し緊張気味に返答をする。


「はぃ 正確には王国財務省の中の特殊貴金属課と云う所です」


母からは思いもよらぬ言葉が。 アーレンハイト家が抱える白金貨100枚にもなる膨大な借金を貴重な金属で返済しようとしているだろうか? でも 何処から得たのだろう。。。


「いま 純金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの買取りは如何なって居るの?」


金貨での返済なら今のアウグストはその調達先を探れる。  白金貨100枚もの金額である そう簡単ではない、商家であれ何処かの貴族家であれ 早々には調達できないからである。 でも貴重な貴金属と成ると話は違う。


「母上はそれらの貴金属をお持ちなのでしょうか?」


やはり 母上は貴重な貴金属か?


「ええ 持っているわよ」


どれ位 あるのだろう 数キロ持って居るだけで 相当な額になる


「今現在の買取り金額は。。。。」


素早く売買金額を思い出し 母上に答える。


純金・・・・・・・ 100g当たり 金貨 2枚

ミスリル・・・・・ 100g当たり 金貨 5枚

オリハルコン・・・ 100g当たり 金貨 8枚 

アダマンタイト・・ 100g当たり 金貨12枚


満足そうな母の笑顔 やはり アーレンハイト家に有る膨大な借金を一括で返済する気だ!


明日の午後に、財務官数名と一緒に買取りに来ることになった。 明日は忙しそうだ!


家に戻り、食事をしながら妻のジニーへ母とのやり取りを話す。 ジニーとはフィリップとマルガレータが知り合ったのと同じで学院時代に知り合った 同級生だ 成績も同じで中の上 まぁ 平凡


「貴方 お母さまは何処から何を得て どうされる心算でしょう?」


「多分 何処からか貴重な貴金属を得たのだろう」


「でも アーレンハイト家に有る借金は膨大な金額だとお聞きしております」


「そうだ アーレンハイト家が所有する魔の森 度重なる魔物の暴走スタンビートで祖父や叔父、叔母達が亡くなった。 それに住民もだ」


「まぁ~ 恐ろしいわ 私 魔物って見た事が有りませんわ?」


「俺もだ だから嫡男にも関わらず、領地に帰らずに王都で暮らし、アーレンハイト家から出て此処でお前と暮らしている」


「アーレンハイト家はどうなるのでしょう?」 。。。。。。。


翌日、王国財務省へ出勤し財務局長のオーベルシュタイン侯爵の下に出向き昨日の母との会話を話した。


厳格なオーベルシュタイン侯爵だが、アーレンハイト家に有る膨大な借金については気にしていたのだ。


「そうか。。。。 よし 財務官数名を連れて向かえ!  あのマルガレータ殿の話だ 確かだろうからマジックバックを持って行けよ」


オーベルシュタイン侯爵より正式な許可を得て 自分の部署に戻り 午後からの準備をする。


午後 財務官数名と一緒にアーレンハイト家へ向かい ハンスの案内で母上に会う


母の執務室へ入るとそこには貴金属のインゴット! 多分 全て本物だろうが一応調べなくては


「私は母上と話がある お前達で確認をせよ!」


確認は部下たちに任せる事に、私がタッチしないのは不正が有ったのではと後から言われない為である。


部下は素早く、貴金属のインゴットを調べる。 全て純正品


母からの申告通り100㎏ずつ積まれていた純正のインゴット。。。。


昨日話した通りの相場で、母へ話す。 総額で白金貨で270枚になる、でも取引となると税金が発生する事は常識である 母に王国に対して20%の税金が掛かると話し、差し引き216枚の白金貨を渡した。


母から直ぐに帰るのかと云われたのだが、こんな貴重な貴金属を持ったまま 長居は出来ない、部下の財務官と共に早々に王国財務省へ戻る。


本当に母上は何処から? 解らん!


アウグストはマルガレータが用意した貴金属がまさか、アーレンハイト家の領地から産出したとは考えても居なかった。


アウグストにとりアーレンハイト家の領地とは魔物に溢れ危険に満ちた場所だった。


でも、これで分かった事がある そろそろ母上はアーレンハイト家の継承準備を始めたのだ!


今まではアーレンハイト家の膨大な借金では俺に継がせるのはどうかと考えていた節がある。


でもそれが解消した今 母にとっての心配事が解消した事になる。 母の思考傾向は知っているのだ 何故なら俺もまた同じだから。。。。 アーレンハイト家の継承 嫌だな。。。どうしよう?


「ジニー やはり 母上はアーレンハイト家の膨大な借金を一括で返済された これの意味する事が何か 解るか?」


「意味する事でございますか? いいえ 解りません」


「母上はついに アーレンハイト家の継承準備を始めた! 今までは莫大な借金でそれ処ではなかった 母上の性格では継承準備の前に借金の返済方法を模索する事は考えられた それが一気に返済が完了し余力が生まれたのだ」


「まぁ おめでとうございます アーレンハイト家の膨大な借金が返済されたのですね」妻のジニーは無邪気に微笑む


あ 頭が。。。 


「だから その結果が問題なのだ ジニーはあの領都に行きたいか?」


「俺がアーレンハイト家を継ぐという事はあの魔の森を含む領都に移ると云う事だぞ!」


「え~~ どういたしましょ 家を継いでもこの王都から離れなくても良い方法は無いのでしょうか?」


ジニーとしては伯爵夫人の称号は欲しい、でも魔の森に行きたくないそんな葛藤が心の中で渦巻いていた。


「方法か。。。 無くも無い!。。。。」


「え そんな方法が。。。」


「領地を王国に返納し法衣貴族になる事だ! この方法なら貴族のままで居られるし領地に戻らなくても良い しかし伯爵のままでは居られない 子爵だろうな?」


アウグストは領地返納について真剣に検討をしてみる事にした。


領地を持つ伯爵家の場合、領地を王国に返納すると代わりに子爵位と男爵位が貰えると聞いたことがある。


この場合、俺が子爵、次男のエーリッヒが男爵なら悪くは無い筈だ


元々 エーリッヒは俺の予備と考えられている。 これは一般的な貴族の次男としての位置だ


本来なら得られない男爵の貴族位を得られるとなればうれしい筈だ


エーリッヒも今の魔の森を含み定期的に魔物の暴走スタンビートで魔物が氾濫する領地が欲しいわけでも無い筈 


よし 早急にエーリッヒと打合せだな!


こうしてアウグストは王都に住む、弟たちと話し合いを持つ事にした。 初めに話をするのは次男であるエーリッヒだった。


後は三男のロベルトと四男のジャンである。 最終的には当主である父のフィリップ・フォン・アーレンハイトに話をしなければならないのだが、問題は母達である。


アウグストの生母は王都でアーレンハイト家を守るマルガレータ・フォン・アーレンハイトである 素直に話して話が纏まるとは思えなかった。


アウグストにしても元女帝と云われた3人の母達には頭が上がらなかった。


こうして、この日からアウグストは弟のエーリッヒと頻繁に逢うようになった。


初めはエーリッヒの考えを探る事から始まる。 もしエーリッヒにその気がないなら領地を持つ貴族から法衣貴族になる話などしたら、その日のうちに母達の耳に伝わってしまう


話は慎重に進められる事に成った。  幸いな事にエーリッヒもアウグストの案に賛成を表明した。


考えれば当然である。 次男のエーリッヒは嫡男であるアウグストに何かなければ貴族には成れないのである。 それがアウグストが提示した案に従えば自分も貴族の当主になれるのだ。


アウグストは次男のエーリッヒの賛同を得て、法衣貴族への転身を本格的に考え出した


これには用意周到な事前準備が必要だった。 この場合、事前準備とは関係各所への根回しの事である。 この根回しを母のマルガレータに知られないように行う事が前提条件になっていた。


何故なら母であるマルガレータの主戦場は王宮である。 この王宮に於いては母のマルガレータの方が圧倒的に優位であった。


アウグストは次男のエーリッヒと共に母であるマルガレータの目を掻い潜りながら事前準備を始めたがアウグストにはタイムリミットは余り残されていなかった


アウグストがアーレンハイト家を継承する為に問題となっていた財政と云う面がクリアーされた事で母であるマルガレータが早急に動き出す可能性があったのと、アーレンハイト家が抱えるもう一つの問題点である魔物の暴走スタンビートがいつ発生するか判らなかった事がアウグストに危機感を持たせていた。



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