第24話 セミダイレクトと金箱アイテムの鑑定結果

 一階層のフロアボス戦で、俺たちは金の宝箱――金箱を手に入れた。

 金箱の中身はナイフで、俺が持ち上げられたことから★4以上が確定だ。


 金箱は、俺がナイフを取り出すと光の粒子になって消えてしまった。

 だが、ナイフはしっかりと俺の手の中に残っている。


 ナイフは革製の鞘付きで、グリップにも革が巻き付けてある。

 鞘から抜くと刃渡りが二十センチほど、片刃の美しいナイフだった。


 俺たちは、一旦地上に戻ることにした。


 経験者の沢本さんが、初心者の俺と御手洗さんに指導する。


「ボス部屋の奥には、次のフロアへ続く階段があるんだ。あれな!」


 沢本さんが指さす先、ボス部屋の奥には下へ向かう階段があった。

 家にある階段と同程度の幅で、ちょっと狭い。


「一回、下のフロアに行くぞ!」


 沢本さんが先頭に立って、二階層へ続く階段を降り始めた。

 階段は土や岩を削って、木材で固められた無骨な作りだ。

 階段の途中には松明が灯されているが、所々暗くなっていて不気味さを醸し出している。


 俺と御手洗さんは、おっかなびっくり階段を降りていく。


 最初、御手洗さんは、俺の服をつかんでいたが、暗いところに来たら、俺の腕にしがみついて来た。

 御手洗さんの装備は、巫女の衣装なので、胸の柔らかさがセミダイレクトに伝わってくる。


(やっ! これは……! お化け屋敷的なラッキー!)


 腕に押しつけられる柔らかい感触を堪能しながら、階段を降りた。


「で! ここが次の階層だ!」


「「おおっ!」」


 二階層も一階層と同じ、岩や土がむき出しの坑道だ。

 階段を降りたところは、広くとられていて、左、正面、右の三方向に坑道が広がっている。


「それから……あった! あった! ここから一階層の入り口近くへ戻れる!」


 沢本さんは、キョロキョロと何かを探していたが、すぐに階段横の壁に走り寄った。

 階段横の壁は、うっすらと光り輝いている。


「これは? ワープポイント?」


「そうさ!」


 ダンジョンには、違う場所や違う階層へ転移出来る場所があり、この場所を冒険者たちは、『ワープポイント』と呼んでいる。


 ワープポイントは様々で、壁、床、井戸、ドア、机の引き出しなど色々だ。


 ダンジョンのフロアをつなぐ階段そばにあるワープポイントは、一階層と行き来できるワープポイントであるとリーダー研修で習った。


 鉱山ダンジョンのワープポイントは、壁のようだ。


「じゃ、地上へ戻ろうぜ!」


 沢本さんは、うっすらと光る壁に手をつくと、そのまま光の壁の中に入ってしまった。


「うえっ!?」


「キャッ!」


 ワープポイントだと頭では分かっているとはいえ、人が壁の中に消えていくのはビックリする。

 俺と御手洗さんは、軽く悲鳴を上げた。


 ダンジョン省の片山さんが、俺と御手洗さんの様子を見てクスクス笑った。


「大丈夫ですよ。ワープポイントは人体に悪影響を及ぼしません」


「そ、そうですよね!」


 俺は片山さんの指摘に、苦笑いするとワープポイントの壁に入ろうとした。

 すると、御手洗さんが俺の服をつかんで離さない。


「御手洗さん?」


「天地さん……。怖いので、手をつないで一緒にお願いします……」


 御手洗さんの眉毛がへの字になっている。

 ああ、御手洗さんは、ジェットコースターやフリーフォールがダメなタイプだ。

 こういうの本当に苦手なんだな。

 才女御手洗さんの意外な側面を見た。


 俺は御手洗さんの柔らかい手を握ると、一緒にワープポイントに入った。


 一瞬、クラリとする感覚があり、目の前が暗くなる。

 すぐに視界が戻り、出口側のワープポイントにいた。


「ここは?」


「オーイ! こっちだ!」


 一階層の入り口近くの壁が、ワープポイントの出口だった。

 沢本さんが、地上へ続く階段の上から手招きをしている。


「オマエら、なに仲良く手をつないでるんだよ! ええ!? カケルとシズカって、そういう関係!? えっ!? マジなの!?」


 地上へ戻ると、早速沢本さんに冷やかされた。

 俺と御手洗さんは、慌ててつないでいた手を離す。


「ちょっ! これは! 御手洗さんが怖いって言うから!」


「そ、そうですよ! 初ワープが怖かったから、天地さんに助けてもらっただけです!」


 俺と御手洗さんは、必死で言い訳するが、沢本さんはニヤニヤしながら聞いている。


「へー、そうなんだ……。じゅあ、俺がカケルとイチャついても、シズカは文句ねえな? カケル! 行こうぜ!」


「へ!?」


 沢本さんは、強引に俺と腕を組む。

 柔らかい胸の感触が、セミダイレクトで腕にあたる。


 今日はセミダイレクトの日!

 俺は太陽を見上げて、神様、仏様に諸々感謝した。



『H市第一ダンジョン(仮称)退場 16時20分』



 *



「いらっしゃいませ~!」


 お隣の家の庭に設置された臨時のプレハブ買取所を訪れると、昨日と同じ女性の店員さんがお仕事をしていた。

 買取所の中はダンボールが積み上げられていて、まだ、整理がつかないみたいだ。


 俺は、買取所の窓の外から声を掛けた。


「すいません。アイテム鑑定は出来ますか?」


「出来ますよ! 私は【アイテム鑑定】のスキル持ちなので、すぐわかりますよ」


 店員さんは料金表を取り出し、買取所に設置されたテーブルの上に置く。

 料金表には、アイテム鑑定の費用が記されていた。



 ◆―― アイテム鑑定料金 ――◆



 売却する場合:無料!


 魔物のドロップアイテム:五百円

 フロアボスのドロップアイテム:千円


 宝箱:五百円

 銀箱:千円

 金箱:一万円



 ----------



 この買取所に売却するならアイテム鑑定はタダだが、自分の物にするなら有料になるシステムだ。

 俺は料金表の『金箱』を指さした。


「金箱からのドロップです。有料でお願いします」


「おお! 金箱が出ましたか! 初回ボス討伐ですか?」


「そうです」


「初回ボスは銀箱以上が出ますが、金箱はレアですよ! 幸運ですね!」


 どうやら金箱が出るのはレアなことらしい。

 やはり俺のスキル【ドロップ★5】が良い仕事をしたのだろう。


 俺は心の中でスキルに手を合わせて感謝しながら、金箱から出たナイフをテーブルに載せた。


「おっ! これですか! じゃあ、鑑定しますね」


 店員さんは、ナイフを鞘から出して歯の長さを測り、ノートパソコンに入力した。

 続いて、ジッとナイフを見つめ意識を集中し『鑑定!』とつぶやいた。


 ナイフが淡い光に包まれる。


 店員さんは、ナイフから手を離すとノートパソコンに色々入力し、俺のスマートフォンを読み取り機に置けと言う。


「はい。鑑定が終りました。そちらのスマートフォンにデーターを移して、鑑定料金一万円を引き落としましたので、ご確認下さい」


 俺はスマートフォンの冒険者専用アプリをチェックする。

 お知らせマークが点滅していたので、タップすると鑑定結果が表示された。



 ◆―― アイテム鑑定結果 ――◆


 鑑定担当:若森


 種別:ハンティングナイフ

 刃渡り:20cm

 ランク:★4

 銘:縦横無尽

 効果:攻撃力小上昇

 特効:素早さ上昇、天井や壁を走れる



 ----------


 俺は特効――特殊効果を見て、思わず声が裏返った。


「天井や壁を走れる!?」


 一体どういうことよ!?

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