第二章 冒険は楽しいぞ!

第15話 大混乱で大迷惑

 ――翌朝八時。


 ピンポーン!


 俺が歯を磨いているとインターフォンが鳴った。

 祖母がインターフォンに出て、何か話している。


「カケルちゃん! カケルちゃん!」


「なに? ばあちゃん?」


「冒険者さんが、来てるのよ! ダンジョンに入って良いかって聞かれたのよ!」


「えっ!? ああ、わかった! 俺が対応するから!」


 顔を洗い慌てて普段着に着替えて外に出ると、道路に人が溢れていた。

 みんな冒険者だ!

 革鎧に剣装備の剣士、ローブに杖を持った魔法使い……。


(これは……あっ! 昨日のニュースを見た冒険者さんたちか!)


 金属製の鎧を身につけている男性――インターフォンを押したと思われる冒険者が俺に声をかけてきた。


「朝早くから、すいません。ダンジョンのゲートが動かないのですが、故障ですか?」


 ゲートは、ダンジョンの入り口に設置している自動改札機のことだ。

 俺は、インターフォンを押した男性に答えた。


「いえ。ダンジョンは、まだ、オープンしていません。ゲートも動いていません。工事中です!」


「えっ!? でも、昨日のニュースで岸辺総理が、会見してましたけど?」


「こっちには、何の連絡もなかったです。総理が勝手に会見しただけですよ」


「ええ~!」


 インターフォンを押した男性の周りにいる人たちも、不満そうな顔をした。


 不味いな……。

 うちの鉱山ダンジョンに悪評が立つのは避けたい。


 俺はため息をつくと、インターフォンを押した男性たちに頭を下げた。


「せっかく来ていただいたのに、申し訳ないです。オープンしたら、また、お願いします」


「こちらこそ情報をよく確認しないで失礼しました」


 インターフォンを押した男性たちは引き上げたが、後ろにいる盗賊装備の女性が俺に同じことを聞いてきた。

 俺は同じように頭を下げる。


「オイオイ! 何!? これ!? 車出せないじゃん!」


「人がいっぱいいるー!」


 沢本さんと娘の優里亜ちゃんだ。

 優里亜ちゃんを保育園に送る時間だが、道路に人が溢れているので、沢本さんの愛車ピンクの軽自動車をうちの駐車場から出せない。


「沢本さん! この人たちは、うちのダンジョンに入りたい冒険者なんですよ!」


「マジかよ! こんなにいるのかよ!」


「車は無理です! 保育園には、歩いて向かって下さい!」


「おお! わかった!」


 すぐそこの坂を下れば保育園だ。

 歩いて五分もかからない。

 沢本さんは、優里亜ちゃんを抱っこすると、人波をかき分けて保育園に向かった。


 ダンジョンに入場出来ないことにイラついた冒険者が騒ぎ始めた。


「おい! ダンジョンに入れろよ!」


「俺は千葉から来たんだぞ! 早く入れろよ!」


 続いて、ダンジョン入り口を工事する職人さんがやって来た。


「トラックが入れないし、これじゃ工事が出来ないです……」


「すいません! 近くで待機して下さい!」


 不味い! 不味い! 不味い!

 朝からご近所迷惑も甚だしいし、工事も出来ない!


「天地さん!」


 騒ぎを聞きつけて、御手洗さんが家から出てきた。


「御手洗さん! 不味いよ! どうしよう?」


「さっき片山さんと警察に電話して対応を依頼しました。あと……、天地さんはSNSで情報発信してはどうでしょう?」


「情報発信?」


「はい。昨日のニュースで正確な情報が発信されなかったので、こんなに混乱しているのだと思います。天地さんが鉱山ダンジョンの正確な情報を発信すれば、もうちょっと騒ぎが収まると思うのです」


「わかった! やってみよう!」


 俺は、SNSでダンジョンお知らせ用のアカウントを作り、情報発信を始めた。


『鉱山ダンジョンのオーナー代理です。鉱山ダンジョンは、まだ、入場できません。入り口の工事が終っていません。冒険者さんが殺到して、ご近所の迷惑になっています。工事が終わり次第このアカウントでお知らせします。@パンイチ』


 道路に人が溢れている写真を添付して、鉱山ダンジョンがオープンしていないことを投稿した。


「天地さん……このアカウント名『パンイチ』って何ですか?」


「俺が装備品を装備出来ないから、最初はパンツ一丁でダンジョンに潜るのかと思ってたんだ」


「あ……」


 御手洗さんが、顔を赤らめた。

 はあ、和むなあ!


 アカウントには、ドンドンフォロワーが増えている。


 俺は続けて、情報を発信する。


『鉱山ダンジョンの前に冒険者が溢れているので、工事のトラックが入れません。工事をしないと鉱山ダンジョンがオープン出来ません。ご協力をお願いします。@パンイチ』


『鉱山ダンジョンがオープン前との情報が伝わっていませんでした。申し訳ありません。ごめんなさい! 昨日の政府の会見は、こちらには知らされていませんでした。鉱山ダンジョンは、まだ、オープンしていません。オープンしたらお知らせいたします。@パンイチ』


 俺の投稿にコメントや質問が、ドンドン付いてスマートフォンの通知が止まらない。

 御手洗さんが、俺のスマートフォンをのぞき込んで、ニヤッと笑った。


「成功です! 沢山の人が見ていますよ!」


「そうだね。これ質問に答えた方が良いのかな?」


「個別に答えていたらキリがないですよ。こっちが持っている情報をドンドン出しましょう!」


「わかった!」


『ご質問ありがとうございます。沢山の方から色々な質問が来ているので、個別にお答えするのは難しいです。現在までに、わかっている情報を公開します。@パンイチ』


 俺は次々と情報を入力した。

 探索したのは一階層だけであること。

 魔物、ドロップ品、買取額、宝箱について。

 現在、オーナー代理がリーダーを務める冒険者パーティーが、鉱山ダンジョンの探索をしていること。


 わかっていることを一通り投稿し終えたタイミングで、片山さんと警察がやって来た。


「駆さん! こんなことになってすいません!」


「片山さん! 助かりました! 今、SNSで情報発信をしました。とにかく道路から人をどけないと工事も出来ません」


「地元警察に協力を依頼したので、警察と協力してやりましょう!」


 その後、警察官さんたちと協力して、何とか冒険者さんたちにお引き取りいただいた。

 SNSの情報発信も良かった。

 SNSを見ると、自分から帰る冒険者も多く、駅や電車の中で引き返した人も多かったようだ。


 騒動が収まったのは、お昼だった。


「カケルちゃん! 唐揚げが揚がったわよ!」


 あの騒動の中、ばあちゃんは、唐揚げを揚げていた。

 心臓強いな……。


 ばあちゃん、俺、沢本さん、御手洗さんの四人で、こたつに入って唐揚げをパクつく。

 疲れた体に揚げ物は美味しいな!


 TVで、今朝の騒動が流れている。

 誰かがスマートフォンで撮影した映像だろう。

 うちの家の前が大混乱している様子が映し出されている。


『鉱山ダンジョンは、まだ、オープンしていなかったそうです!』


『ゲートが工事中で動かないそうです。勝手に入ると、不法侵入になってしまいますので、冒険者の方は、オープンまで鉱山ダンジョンには行かない方が良いですね』


『昨晩の岸辺総理の話だと、もう、オープンしている感じでしたよね?』


『政府や総理も、ちゃんと確認して欲しいですよね!』


 司会者とコメンテーターが、政府批判を始めた。

 まあ、これで騒ぎは収まるだろう。


 食後にお茶を飲んで、まったりしていると沢本さんが身を乗り出す。


「なあ、カケル! 一休みしたことだし、午後からダンジョンに潜ろうぜ!」


「行く?」


「ちょっとでも稼がねえと!」


「御手洗さんは?」


「行きましょう! ダンジョンは、すぐそこですから。午後からでも稼げますよ!」


「よしっ! 行こう!」


 俺たちは、装備を身につけてダンジョンへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る