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 カチ、コチ、カチ、と時計の針が進んでいく。


 少しだけ、コーヒーの匂いがした。


「ジャックさん、住民カードを持っていますか?」


「住民カード?」


 ジャックは尋ねた。


「持っていません」


 ジャックに、ダンカンさんが言った。


「では作りましょう。名前の他に、住所と、年齢を教えてください」


「住所は、ありません。旅をしています。もともとは川上から来ました。川を上ってずっとずっと行ったところにある小さな村、ポルケというところから来ました。年齢は……」


 ジャックは言いよどんだ。


 ジャックは、自分がいつ、どこで生まれたのか知らない。


「年齢は、わかりません。自分が生まれた時の事を知らないんです」


「なるほど、そうですか」


 ダンカンさんの片眼鏡モノクルがキラリと光った。

 


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