第17話 ケセド川攻略戦2・サーペント戦

 木の巨獣ドリアードを退けて兵を補充した後、今度は敵と会わずに支流同士が交わる所にある第一ダムを無事に通過。次に上流へ進んだ先の第二ダムも難なく通過。そして、そこから真っ直ぐ行った先にある第三ダムに着いた。何回ダム言うねん。……いかん、引っ込め俺の内なる関西人。


 それはともかく第三ダムの前にあるワニ巨獣の骨が見えてきた。中には白い大蛇サーペントがとぐろを巻いて鎮座していた。


「フシュルルル」


 敵はゆっくりと骨から出てきて、舌をチロチロと出しながらこちらを値踏みしている。そっちから出迎えてくれるとは嬉しいね。今回は勝たせてもらうぜ。


「聖騎士団アイン、散開!」


「うおおお……」

「やんややんや……」

「わーわー……」


 歓声キーを押してみたものの声は小さめだ。他の巨獣が出てきたら怖いんだもん。


「フシュウウ!」


 サーペントが空気を抜くような声を上げたと同時、首元が膨らんだ。かと思うと、勢いよく酸弾を発射してきた。


 甘い! そんなもの、当たらな——


「ぎゃあ! 死んだトン!」


 当たります。まぁポンコツ鎧兵にそうそう回避は無理だわな。特に豚兜のトンカツは横に大きいし。トンカツはドリアードにもやられてたし運もない。彼はもう屋敷の門番固定でいいかもな。


「木を盾にしろ!」


 右側の川沿いにある大樹ひしめく森に身を潜めながら矢を放っていく。しかし、川まで距離があるためダメージは与えられない。


「キシャアアアア!」


 敵の連続酸攻撃。樹木を上手く使いながら避ける。数分間ほど撃ち合いが続くが、お互い決め手に欠けていた。


 ま、俺からしたら時間を使ってくれた方が助かる。蟻が象に勝つにはそれなりの策と時間が必要だしな。


 ジリ貧な展開の中、先に痺れを切らしたのはサーペントの方だった。崖のように峻険な川縁を爬行はこうして登ってくる。


「お、来た来た」


 作戦その一と行きますか。騎馬隊を巧みに操り、森の奥へ奥へと引き込む。ところが、敵は途中で突っ張ったホースのように停止して追って来なくなった。


 他の角度から見ると尻尾が骨の巣から出ていない。骨から完全には出てこないみたいだな。やっぱ引きこもりが最高だもんね。分かる分かる。でも同族嫌悪でムカつくのでぶっ殺します。


 ともかく、これくらい森に引き込めば大丈夫だろ。


 俺はここに来るまでに蛇の弱点ってのを考えていた。まず注目したのが“体の長さ”だ。移動して体が伸び切った状態になれば、後ろの方は守るのが難しくなると考えた。


 案の定、サーペントは前方に気を取られて中腹辺りが無防備だ。


「チャーンス! 行け、団長と愉快な仲間達!」


 樹上に潜んでいた団長ゼロと第一分隊が飛び降りて蛇の中腹辺りに乗った。クックックー、鎧兵はそこそこ頑丈なのでちょっと高いところから落ちても平気なのだ。ところが。


「うわー、これが死ぬってことかい?」


 頭に草を生やしたエアロが乗るのに失敗して死んだ。うん、ポンコツだし、頑丈っつっても限度あるわな。しゃーない。切り替えていこう。


 残った奴らで武器を構える。


 くらえ、数の暴力! と言っても五体だけどね。


 敵の白い鱗に向かって一斉に得物を振り下ろした。そして見事に破壊——できず、全員の武器が折れた爪楊枝みたいにひしゃげた。


 あれぇ? ちょっと硬くない? 蛇ってもっとヌメッてしてそうなイメージだったんだが。大理石みたいに硬いんですけど。


「シュウウウ!」


 サーペントが異変を察知したのか真っ白な鱗を逆立てて体を左右に揺らした。おい、第二形態みたいなのやめろ。団長達がなすがままに吹き飛んでいった。


「クッ、すまないみんな。聖騎士団は任せた……」

「あとは頼んだぜ……」

「この俺が死ぬ、だと?」

「あわわ、死んじゃうー」

「無念でごわす」


 ゼロは砕いたココアクッキーみたいに、ファイアは潰したイチゴ、アイスとウォーターは割った氷、ドロダンゴは割れチョコになった。シェイクにしたら美味しそう。言ってる場合かっ!


 切り替えて、作戦その二へ移行する。次は蛇のお腹側を攻撃するつもりだ。背面は鱗だらけで硬いけど、腹は何かプニプニしてそうだしいけるだろ。と言う事で槍を持たせた第三小隊を突撃させる。


「突撃ハチ!」

「頑張りますアリ!」

「やっちゃうセミ!」

「……殺すクモ」

「勝っちゃうテン!」


 第三小隊は虫モチーフの奴ら。最後の台詞はテントウムシ。他五体の台詞は省略。安易な語尾、というツッコミは受け付けないものとする。


 その虫兵達が馬に乗って横一列に並び、槍衾やりぶすまを形成して特攻をかける。鎧兵と鎧馬には恐怖心がない。故に最高速度で突撃できるのだ!


「うおおおハチ!」


 勢いよく槍の穂先がサーペントのお腹を貫いた——ことはなかった。槍の先端が、折れた紙ヒコーキの先っぽみたいにグニャってなった。


 あれぇ? お腹も硬くない? 体鍛えてませんよと言いながらこっそり腹筋しちゃうタイプ?


「ぎゃー死んだハチー」

「そんなのアリ?」

「死んだセミ」

「……死亡クモ」

「負けたテン!」


 第三小隊は、なすすべなく敵のお腹に潰されて押し花ならぬ押し虫になった。はぁ、くそ。もうちょい頑張れよポンコツ軍団。


 仕方ない。作戦その三に移行する。続く。

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