第3話 ポンコツ聖騎士団員を紹介するぜ(CV.全部俺)
女王との謁見が終わり、騎士団全員が案内人に連れられて城の外に出ると、太陽光、でいいのかは分からないが日差しが眩しい。
ここマルクト王国は“神樹セフィロト”という巨大樹の幹の上部にある平坦な場所に位置している。そう聞くと樹冠が光を遮ってそうだが、そうではない。大樹を外から見ると緑の葉っぱと茶色の枝だが、内側から覗くと半透明になっていて遮るもののない青空が広がっており、なんとも不思議な光景になっている。
付け加えると、葉や枝は仮に切り落とされても一瞬で雪のような粒子に変わり、落下してくる事もないため人や建物が押し潰される心配もない。もちろん、粒子は人体に無害。その代わり何かに利用することも不可能。
巨獣に関しても奴らにとって葉、花、樹皮、樹液などどれをとっても毒であるため登ってくることはない。うーん、素晴らしき世界。
まるで聖母の腕の中のような、人間に優しい奇跡の場所だ。まぁ考えてみたら地球に住む人間も空気があって、住みやすい陸地があって、天敵らしい天敵もおらず奇跡のような環境にいる訳だしこんな場所があってもいいだろう。
そんなことを考えながら、体を伸ばしていると野次馬平民が集まっているのが目に映った。
さてと、演技しますか。
前にも言ったが俺の能力、仮称“ワンオペ”は鎧兵を召喚し、自由に動かせる能力だ。
こっちに来た時から何故か使えるようになっていた不思議な魔法。初めは五体だけだったのだが、どうやら使い続けることで数が増えるらしく、今では百体扱える。
この力の最大の弱点が“本体がやられたら終わり”ということ。
そこで俺は人里を見つけた時のために考えていた。全員に名を与え、個性を加えることであたかも中に人が入ってるように思わせることを。
それじゃあポンコツ聖騎士団を動かしていこうか。
「ふぅ、やはり外の空気は格別だな」
聖騎士団アインNo.0の“ゼロ”に喋らせた。黒い鎧を着て死神のような鎌を使う。この騎士団の団長。
「ホントだぜ! オレに陰気くせー城内は似合わないぜ!」
No.1“ファイア”。大剣を使い、炎のような真っ赤な鎧を着ている。かといって火の魔法が使えるわけではない。ただ赤いだけ。大体一番に突っ込んで刻んだ唐辛子みたいになって死ぬ。CV.俺。
「黙れバカ」
No.2“アイス”。青い鎧。クールな槍使い。ファイアと仲が悪いが、いざとなると協力して戦う。そしてめちゃくちゃ強い。という設定。実際戦うと他と変わらずすぐ溶けたアイスクリームみたいにグチャグチャにされる。
「んだぁてめぇ!」
「ふん、やるか?」
「上等だコラァ!」
ファイアとアイスに小競り合いをさせてみた。俺本体の持つスイッチで、ある程度自由に操作できるのだ。
「あわわ! ちょっと、二人ともやめなよぉ!」
止めに入るNo.3の“ウォーター”。水色の鎧の女性。杖を使って回復魔法を唱えられ——ません。残念!
アイスに片想い中で、あわわが口癖。女キャラだが声はスイッチひとつで女ボイスにも変えられるので心配ご無用なのですわよ。
「いやぁ、若いもんは元気で羨ましいでごわすなぁ」
No.4“ドロダンゴ”。恰幅のいい土色の鎧を着た斧使い。火、氷、水と来たので何となく土だなと思い、名前をアースにしようとしたがアイスと若干被るので辞めた。ただでさえ聖騎士団“アイン”だし。
「ドロダンゴもそんな年変わらないだろう? 気の持ちようさ」
No.5“エアロ”。緑の鎧の弓使い。キザで女好き。謎の草を
「ウェーイ!」
No.6“サンダー”。
「あらあら、うふふ」
No.7“ライト”。真っ白な鎧のメイス使い。女性。ほぼ『あらあら、うふふ』しか言わない。ただ、女王が『のじゃのじゃ、うふふ』とか言い出したのでアイデンティティが消失しそう。
「ホッホッホッ、ふむ、いやしかし、だがあるいは——」
No.8“ダーク”。ゼロと同じく黒い鎧の軍師。怪しい雰囲気を纏う裏切りそうな老人。もちろん俺なので裏切らない。更に意味深なことを呟くが特に意味はない。一人でいるとブツブツ呟く徘徊老人に間違われそうなので注意が必要。
「アンタ達、おだまり!」
No.9“ポイズン”。毒々しい紫の鎧を着たムチ使いの女性。女王様気質で、口癖が『おだまり』。コイツを使って男を尻に敷いてやりますわよ。……やっぱり女の子にしますわよ。
残り九十体いるがここら辺にしておこう。やろうと思えばキーボード的なものを出して全員操れるが、さすがに今は目立つ。後は事前にプログラミングしておいた通りに動いて貰えばいいだろ。ランダムで突然頭を掻いたり、あくびをしたり、叫んだりなど。……叫んだりはちょっとヤバい奴に思われそうだな。頻度を少なめにしとこう。
さーて、民衆の反応はどうかなー? 大絶賛だろうなー? 鎧の集音機能を強めて周囲の反応を窺う。
「うわぁ、何だアイツら変な喋り方の奴ばっかじゃねぇか。気持ち悪りぃ」
「カラフルな鎧着て巨獣と戦うって……。危機意識が足りないのでは?」
「自分達がよそ者だって自覚してるのかな? 普通、他者の視線気にして目立つ行動は控えると思うんだけどなぁ……なんていうか育ち悪そう」
「うんこー!」
何だコイツら、SNSの捨てアカウントが呟きそうなことばっか言いやがって。めちゃくちゃ傷付いたじゃねぇか。褒めてくれる奴はいねぇのか? 逆方向を探ってみる。
「結構人間味あるじゃん。もしかしていい奴らなんじゃね?」
「緑の草頭に生やしてる奴。アイツは多分いい奴」
「土色の鎧の人好きだわぁ。食べちゃいたい」
「水色の鎧の子かわいいよぉ。ハァハァ」
「うんこー!」
うんうん、こういうのでいいのよ。ただ、こっちにもウンコマンいるね。まぁいいけど。もう少し褒めて欲しいなー。最後に正面に聞き耳立ててみようか。
「悪い人ではなさそうね」
「きっと彼らは巨獣からワシらを守ってくれる救世主様じゃよ」
「善か悪か判断するのはまだ早い。こちらに被害が出たわけでもないし、もう少し様子を見よう」
「うんこー!」
うんうん……こういうので——ウ・ン・コ・マ・ンは、帰れっ!! 何が悲しくて三方向から汚物の名を聞かなきゃなんねぇんだよ! しかも無駄にハモるから音が立体的に聞こえるんだよ! 3Dウンコやめろ! NO MORE UNKO!
……コホン、さて落ち着いたところで、肝心の俺本体はどこにいるかというと先頭の少し後ろに潜んでいる。馬型の兜を被ったNo.19“オウマ”さんに化けていた。クックックッー、ここなら前後左右どこから狙われても大丈夫なはずだ。我ながら天才だな。
「あー! お馬さんがいるー!」
突然の野次馬からの声。
ひぇ! 本体がバレたのか!?
見ると、金髪の三つ編みをした六、七歳くらいの少女が俺本体を指差していた。
「かわいー!」
どうやらバレたわけではなさそうだ。安堵したら怒りが込み上げてきた。
これだからキッズは! 本体がやられたら終わりなんだぞ! 注目を集めるんじゃないよ! 凄腕暗殺者に狙撃されたらどうする! お兄さん泣いちゃうよ!?
怖いので少女を無視してとっとと去りたいが、それはそれで怪しいので手を振ってやった。俺って優しい。
「あれー? お手手、お馬さんのじゃないー?」
おい、掘り下げるな! 手は人間でいいんだよ! 浅いキャラ設定しか考えてないんだから! ……いや、本当は深ーい設定があるんだよ、えっとそう、人間になりたかった馬が、そのアレだよ……そう! 呪いによって顔だけ馬のままになっちゃったんだよねぇ。いやー深い! マリアナ海溝よりも深いわー!
……ハァ。もうやだ、少女怖い。急いで逃げよう。と思って全員の足を早めると。
「あれー? 歩くの早くなったー?」
目ざとい! 少女目ざとい! 先生、寿命が縮まりました! 次あったらお尻ぺんぺんしてやります! お、覚えてなさい!
と、心中で捨て台詞を吐きながら、そそくさと女王の別邸へ向かった。つーか民衆怖すぎだろ。上手くやっていけんのか俺。
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