すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
第1章 誕生編
第1話 能力“ワンオペ”
「騎士団アイン、突撃!!」
「うおおおおお!!」
号令の直後、全身鎧に包まれた百体の騎士が鎧馬を操り巨大樹の林立する森を駆けていく。
いきなりネタバレすると、この騎士団、全員俺である。
俺こと、“
それだけならとっくにモンスターの餌になっていただろうけど、何故か魔法が使えるようになっていたんだ。
それがこの鎧兵を召喚する能力、仮称“ワンオペ”。初めは五体だけだったが、使えば使うほど増えていくらしく今では百体まで同時に召喚できる。
「前方に目標確認! オークです!」
誰が誰に言ってるかって? もちろん俺が俺にだ。大学時代演劇サークルに入っていたこともあり一人芝居は嫌いじゃない。こうやって騎士団の一員を演じることで現実逃……じゃなかった恐怖に支配されないようにしているのだ。
恥ずかしさも当然ない。大人になっても中二病を患ったままの俺には羞恥心など皆無よ。クククッ、右眼が
「グオオオ!!」
オークの雄叫び。ひぇ。急に叫ぶなよ。びっくりするだろ。こりゃ右眼が
この世界では全てのモンスターが大きい。岩のように巨大な虫や、高層ビルのように高い獣が盛りだくさんだ。故に歴戦の戦士の擁する練度の高い軍隊でさえ一頭すら倒せないのが普通らしい。
目の前のイノシシみたいな四足歩行のオークも城砦のごとく巨大で、人間なんて蹴られるだけで内臓をぶちまけてお陀仏だろう。怖や怖や。
「第一大隊は左へ、第二大隊は右へ展開!」
分隊を五体、小隊を十体、中隊を二十五体、大隊を五十体として運用している。
今は俺本体の護衛に数体回しているので大隊は若干少なめ。要はほぼ半分ずつに分けたということ。
統率の取れた動きで獲物を左右から挟み込む。誰一人遅れることなく無駄がない。そりゃあ精神は俺一人だもんな。どんな軍隊よりも心は一つよ。
そんな見た目だけは強そうなこの騎士団アインには問題がある。結論から言うとポンコツなのである。
攻撃魔法も使えなけりゃ、鎧が特別硬いわけでもない。踏まれれば押し花みたいにぺちゃんこになるし、噛まれたらポテチみたいに砕け散る。
ちゃんと命令しないと壁に向かって延々と走り続けたり、崖から転がり落ちたり、池に沈んだりもする。
「ぐわぁ!」
「ひぇぇ!」
「無念!」
さっそくオークに五、六体の鎧兵がスナック菓子を大人喰いするかのごとく一気にボリボリ噛み砕かれた。美味そうに食べやがって。お腹減ってきた。
鎧馬も食われているがこれも能力の一部で召喚したものだから本物じゃないので安心だ。遠慮なく馬刺しになってくれ。
ところで断末魔は誰が言ってるかって? もちろん俺である。暇なんだもん。
そんなことする余裕があるのは壊されても安心だからだ。破壊された鎧兵は、本体の半径五メートル以内にランダムに
本体さえやられなければ無敵の力だ。逆に言えば本体を狙われれば凡人の俺は瞬殺されるだろう。なので俺自身は木の影に隠れて指示を出している。
見えにくそうだが大丈夫。空中に三枚のモニターと、手元に打鍵感ばっちりのキーボードを出せるので遠くに居ても鎧達をゲーム感覚で操作できるのだ。
「今だ!」
無惨に粉々になった鎧達が飲み込まれる瞬間、無傷の鎧兵一体が敵の口内に飛び込んだ。
「よし、勝ったな」
最近編み出した必勝法。何体かを特攻させて食われた瞬間を見計らい、攻撃用の兵を体内に忍び込ませるというもの。名付けて“自己犠牲アタック”だ。
タイミングがシビアなのでコツを掴むのに何日も掛かった戦術。今回は一発で成功した。運がいい、じゃなかった、狙った通り完璧だな。俺天才。
さて、モニターの映像を切り替えて、と。敵体内にいる兵の主観カメラに変更した。
忍び込んだのは騎士団No.99“ポテト”だ。体中にドリルを付けたクリーム色の鎧兵。
ポテトが山賊をしていた頃、騎士団アインの団長ゼロと出会い、そのカリスマ性に魅了され改心して入団した。という設定であり、実際は何のバックボーンもない。名前の由来は俺の好きな食べ物の一つだから。ただそれだけ。他の兵も設定があるのだがここでは省略する。
ポテトのロマン武器である
「ひゃははははは! 死ねっ死ねぇ!!(CV.俺)」
ドリルスピアを振り回して内臓を切り裂いていく。うーん、グロテスク。多少慣れたとはいえ、嫌悪感は拭えない。薄目で見ながら操作していく。
「ギャオオオオオン!!」
オークは天まで轟く叫びを上げて苦しみ、のたうち回る。そして泡を吹き、白目を剥き、ついに動かなくなった。直後、ポテトが巨躯を突き破ってドリルスピアを天に掲げる。
「勝ったぜ! ひゃはははは!」
「うおおおおおお!!」
この歓声、もちろん俺である。便利なもんで加工することでいろんな声が出せるのだ。他にも『わーわー』『やんややんや』『ぶーぶー』などシチュエーションに合わせて使いたい放題だ。パーティーが有ったら是非盛り上げたいところ。
とまぁこんな感じで狩りは終わり。一日で終わるとはね。最短記録更新だ。
「さてと、これで女王様も納得してくれるかな」
遠くに
マルクト王国を見つけたのは一ヶ月前。小国がすっぽり入るほどの木の幹上部にそれはあった。
巨大樹自体は遠目にずっと見えていたのだが、木のモンスターを何度か見かけたこともあり危険と判断して近づかなかった。
だけど、ふと見上げた時に人影を見つけたんだ。それで勇気を振り絞って近付くと、人間が居て樹上に引き上げてくれた。
ただ、鎧兜を脱がない怪しい集団をすんなり国に入れてくれるわけもなく門の前で追い返された。本体だけなら入国出来るかもと考えたが、どんな人間か分からない奴らに顔を晒すのはリスクが大きいので辞めておいた。
そこで一計を案じて巨大モンスターを倒す代わりに入国を認めて欲しいとお願いしたのだ。でも一頭倒しても二頭倒しても難癖をつけられて拒否される始末。
こりゃあ無理だなって諦めかけた時、国の女王様が現れて、もう一度巨獣オークを狩ってくれば入国を認めると言ってくれた。そういう訳でこうして戦いに来たというわけだ。
頼むぜ女王様。俺は安全地帯で平和に暮らしたいんだからさ。
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