16 間に入りたいわけじゃない

 夕食後の、のんびりした時間。

 双子はもう部屋に戻ってしまっていて、食堂には、テーブルに居るチュチュと、クッションコーナーで寛いでいるエマとヴァルの3人が居た。


 エマとヴァルはただ話をしているだけなんだけど。

 それも、ただ授業でやった経済について話しているだけなんだけど。

 ヴァルがすっかり“エマちゃんかわいい大好き大好き”なんていうオーラを出してるものだから、イチャついているように見える。


 距離が近いし。


 きっとそのうち、アタシのことなんて気にせずヴァルはエマに手を出しちゃう。そんなオーラ。


 チュチュは、その日の宿題を紙にまとめるため、テーブルでむむーんと唸っていた。

 テーブルの上には冷めたミルクのマグカップ。

 文章を書いていると、ペンが紙に引っかかり、インクの染みができてしまった。

「うう〜〜〜ん」

 気晴らしに、そのイチャイチャカップルの方を眺める。


「アタシもああなりたいなぁ」

 ぼそり。小さく呟く。


 すると、そんな小声が聞こえたようで、エマがふっとこちらを振り返る。

 ちょっと照れた顔をしたので、チュチュが二人のことを呟いたのが伝わったんだろう。


「えへへっ」と笑ったエマが、チュチュに両手を差し出した。

「おいで」


「…………え?」


 満面の笑みで、エマは、チュチュが来るのを待っていた。

「ちょ……っ、違う違うっ、間に入りたいわけじゃなくてっ」


「おいでよ」


「…………っ」


 渋々、エマのそばに寄っていった。

 がばっとエマがチュチュに抱きつき、チュチュを引きずるように引き寄せた。

 きゅうっと抱きしめる。

 すぐそばで、ヴァルの呆れたため息が聞こえた。

 この二人で過ごせる時間に、わざわざ二人で居たのに、エマが別の人間とイチャつきだしたから、ヤキモチを妬いてるんだろう。


 そんなヴァルの様子を気にも留めず、エマは、

「ほらほら、ヴァルも」

 なんて言ってくれる。


「ったく」

 なんて言いながら、それでもヴァルの声は優しい。

 どこまでもエマには甘いのだ。

 ぐしぐしっとぶっきらぼうに頭が撫でられる。


 いつか、この三人で眠ったことがある。

 まだ、子供の頃のことだ。

 懐かしい。


「ふっ……ふふふふ」

 なんだかこの状況に笑えてくる。

「間に入りたいわけじゃなかったのに」

 顔を上げると、エマの「ふふっ」と笑う顔が、すぐそばにあった。

 星空のような瞳が、キラキラと輝く。

「ちょっと……アタシも、恋人っぽいこと、誰かと、してみたいなぁって思っただけ」

 そう言うと、エマが、意味ありげに、

 と復唱した。


「そう。



◇◇◇◇◇



この本編の主役二人がイチャついているのはいつものことなので、学園のみんなは居心地の悪さを感じません。邪魔しているとも思わない。

もうこの二人はイチャついているのが自然な姿なのです。

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