主人公②

 リンとパウ・ベアーの攻撃が衝突する度に、周囲に衝撃波が迸る。


「おいおい、あれってパウ・ベアーだよな?けど、一々地面が抉れてんだけど………」


「あの大剣、結構な業物だよな。くっー!欲しいぜ!」


「だったら挑んでみろよ。じゃねえとあいつに取られちまうぜ」


「うっせ!たかだかパウ・ベアーなんて俺でも………おい、あれってパウ・ベアーだよな?」


 戦況は徐々にリンが押されていく。


「アダマントォォ!」


 腕を電磁加速させ、雷速でパウ・ベアーの腕に深手を負わせ、鳩尾を蹴り飛ばす。だが、パウ・ベアーはリンの足を掴むと、建物に向かって投げ飛ばした。


「が、ぁ!」


 だが、リンは強引に受け身を取り、体勢を整え直した。


「ちっ!やっぱ強ぇ………」


 リンがパウ・ベアーを見ると、リンが攻撃した箇所から煙が上がり、傷が再生していた。


「やっぱ俺と同じ再生持ちか………」


 同じ再生能力持ちなら、地力がものを言う。纏った雷と未来視、そして昇華魔法によって本来の実力以上の反射神経と、細胞を活性化させようと、リンでは目の前のパウ・ベアーには劣っている。

 逆に、唯一勝る速度で翻弄しようとしていたが


(………目が、追いついて来たな)


 パウ・ベアーがリンの攻撃に反応し始めたのだ。だが、パウ・ベアーも見えている訳ではない。ただ、少しは見えているのでそれと、野生の勘で対応しているだけ。


「らぁ!」


 三本目の投げナイフを取り出し、電磁加速させて投げるも、その皮膚に粉砕される。


(やっぱ、安物のナイフじゃ無理か………)


 そもそも、電磁加速させている時点でナイフがボロボロなのだ。皮膚に当たっても、その衝撃で破損してしまう。


「ぜぇ………ぜぇ………」


 速度で翻弄し、錯乱しても、リンも人間だ。疲労にはどうしても敵わない。

 だが、リンはその程度では諦めない。


『guaa………』


 だから、パウ・ベアーも全力で答えようとするのだ。


「おい、あれ………馬鹿じゃねぇの?」


「【黄昏の絆】の幹部たちも来てるんだぞ………自分一人で倒す気かよ」


 観衆からは、そんな言葉が聞こえ、それを聞いたメロはムッとなった。

 自分の正直な気持ちに従い、己の全てを持って戦っているリンの戦いを、嘲笑われるのは嫌だったのだ。

 そして注意しようとして声のした方を見て、メロは固まった。

 全員が、侮蔑の目を向けることも無く、呆れるような視線を向けることも無く、ただただリンとパウ・ベアーの戦いに見蕩れていたのだ。


 誰も笑っていない。瞬きすることすらなく、見入っている。冒険者になって、DランクやCランクになって満足している者たちは、その光景から目を離すことができない。


 思い出すのだ。初心を。かつて英雄を夢見て、強大な敵に挑もうとしていた自分を。理解するのだ。諦めたと言っても、心のどこかではまた走り出したいと思っていたことを。


『guaaaaa!!!』


「だあああああぁぁぁ!!!」


 鮮血が飛び交う。両者は体が壊れるような戦闘を繰り広げ、潰れる度にそのからだを再生する。


「『ああああああああああぁぁぁ!!!』」


 両者の叫び声がシンクロする。

 リンの気持ちも、パウ・ベアーの心も、一緒だった。


(勝ちたい!)


 ただひたすらに


(こいつに勝ちたい!)


 貪欲に


(俺たちは、勝ちたいんだ!)


 勝利を欲する。

 原作?本当の主人公?


(そんなもの、知るか!)


 今この時だけは、リンは自分の気持ちに正直に、死闘を繰り広げる。


 と、タイマンで戦っていたリンの背後からなにかが襲ってくる気配がした。


(新手!?)


 考えてみれば当然だ。このパウ・ベアーは、巨人ギガントと一緒に侵略に来たのだ。だとしたら仲間がいて当然。


(ちっ!)


 少し痛いが魔物を迎撃しようとして


「邪魔すんじゃねぇよ!」


 観戦していた冒険者がその魔物の体を叩き潰した。


「おい、坊主!」


 その魔物を倒した冒険者はリンのことを一瞥することも無く


「勝て!」


 それだけ言うと、魔物の群れに突っ込んで行った。


「そうだ!勝て!」

「お前は集中してろ!」

「雑魚が!邪魔してんじゃねぇ!」

「おい【黄昏の絆】!あいつお前らのところのだろ!周りが俺たちがやるから、どんな戦いだったか、後で聞かせろよ!」


 リンとパウ・ベアーとの戦いで感化された冒険者たちが、本来なら挑まないような魔物達に立ち向かっていく。自分の命優先の冒険者までが、剣を持って果敢に挑んでいく。


「素晴らしいと、そうは思わないかい?テレジア」


「………どうだろうな。だが、あの少年に影響させられているのは確かだ」


 クロムとテレジアもその戦いを静かに見つめる。


「そうだ。僕は、これが欲しかったんだよ。君たちの策略を全て捩じ伏せ、絶望を希望に変えるような、そんな新時代の英雄ニュー・ヒーローを」


 強い魔物に挑むことを恐れ、Dランクで止まっていた者が。過去のトラウマに恐れ、戦いに忌避感を持っていたものが。プライドによって、本領を発揮しなかった者が。一丸となって戦っている。

 なんと美しい光景だろうか。なんと素晴らしき光景だろうか。英雄とは、斯くあるべきだ。

 導け、進め、それこそが英雄の本分。現最強が求めたもの。


「君にも、見せてあげたいよ。ロイマン」


────────────────────


リンくんの付与魔法は電気です

攻勢特化ではなく、寧ろ攻撃性能は控えめ。だけど、サポートに特化している

電磁加速とか、電気による筋力サポート、他者への電気マッサージもできます。自分で心臓マッサージできるね!

周囲に電気を溢れさせることもできるので、電磁浮遊もバッチし


ちなみにリンくんが後ろの魔物に反応できたのは、未来視で後ろから攻撃される未来が見えたからです

パウ・ベアーは、それで決着着いたらガチギレします

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