第2話 咲かぬ徒花

 狭山ヶ丘国際大学の校舎は山の上にある。

 ここへ通う学生の半数は多分、バス通学だと思うのだが、最寄りのバス停が山の麓にあるものだから、校舎へ行くのにおよそ10分の山登りをすることになる。

 自家用車を持っていれば山の中腹の駐車場に停められるのだがな、生憎なことに俺は車を持っていない。

 よって今日も軽く登山だ。


 急ではない坂道だが10分歩くのはキツい。

 俺は身長168センチ、体重170キロだからな、一歩進むごとに膝が悲鳴をあげているようだ。


「やぁ、シロタン!」


 俺を背後から呼び止める声がした。

 振り返るとそこにはジージョさんがいた。


 ジージョさんは俺と同じ大学二年生だ。

 年齢は俺より一つ上だが、ニ年留年しているから22歳だと思う。


「ジージョさん、おはようございます。今日は何か講義あるんですか?」


「今日は二限から経済の講義だよ。シロタンもだろ?」


「そうですね、一緒ですね」


 ジージョさん、本名は確か菊田だったと思う。

 異名の由来はトッポジージョに似てるとされ、略してジージョだと聞いた事がある。

 ジージョさんは年上だが、先輩風を吹かすわけでもなく、穏やかさを絵に描いたような人なのだがな…


「それよりもシロタン、また新しいの入手したから、講義終わったら家で見ていかない?」


 早速、こう来たか。

 ジージョさんのお決まりのパターンであり、ここで言う[新しいの]とはエロDVDの事だ。

 ジージョさんは新しいエロDVD等を入手すると、俺に見せようとしたり貸してくれようとするのだがな、正直なところ俺には全く響かないのだ。

 ジージョさんは温和な雰囲気で性格も穏やかな人なのだが、性のことになるとサディスティックに豹変する。

 よってエロDVDの内容もその性癖がかなり、かな〜〜り反映されており、しかもロリコンなのだ。

 このご時世だからなぁ、ジージョさんからエロDVDを借りたくないのだ。

 この人はいつかお縄に掛かるんじゃないかと思う。

 だから、ジージョさんとは性的な貸し借りはしたくないのだ。


「すみません。今日は講義の後にちょっと用があるので」


「そうか。残念だけど次の機会に僕の家で見ようよ。

シロタンもきっと気にいると思うんだよね」


 そこから聞きたくもないジージョさんのエロDVD解説が始まった。

 ジージョさんにしてみたら、同好の士への親切心なのだろうが、俺にはわからない趣味だし余計なお世話でしかない。

 そして何よりもジージョさんは解説しているうちに興奮してきて、声が大きくなるのだ。

 それはどんな状況においても、今まさにその状況である。

 今、俺は大学への通学路を歩いている。

 まわりには女子も多いから、悪い意味で注目を集めてしまう。

 それでもジージョさんはお構いなしなのだ。

 いつもの事とは言え、これにはいい加減にうんざりしてくる。


 そんな中、俺の横ギリギリを電光石火の如く、赤い影が駆け抜けていった。

 俺はその危険な運転に思わず舌打ちが出る。


「危ねえな!」


 その赤い影は猛スピードで山の中腹にある駐車場の中へ入って行く。


「“奴”の車だね」


「ですね、“奴”ですね」


 その赤い車の主は通称、“奴”

 名前は知らぬのだが、俺とジージョさんの間ではそれで通じる。

 “奴”は多分、俺やジージョさんと同じ学部の同じ学科だと思われる。

 “奴”はいつも赤いスポーツカーに乗って現れる気取ったいけ好かない野郎だ。

 いつも助手席に女を乗せて同伴通学していることから、俺やジージョさんのような大学でのカースト最下層から一身に憎悪を浴びる存在なのである。


 俺たちが駐車場に差し掛かった辺りで、赤いスポーツカーから“奴”と女が降りて来るのが見えた。


「シロタン、今日はペヤングだよ」

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