第138話 栗毛聖女、大火精霊復活祭を楽しむ。

 大火精霊復活祭というお祭りは縁日のように屋台も立ち並び、花火も打ち上がってそれは派手な大賑わいとなりました。


「もうすぐメインイベントだねー」

「そうですね。……そういえば今年の夏祭りはラピスちゃんたちと行きたいです」

「うん! 実は去年はね、ゲームと泳ぎの練習に必死で祭りの日を忘れてていけなかったんだよね」

「なら、ぜひ一緒に行きましょうね。もちろんアユちゃんも誘って」


 メインイベントが始まるまでは集合場所だけ決めて各々にお祭りを楽しんでいます。私とミナツちゃんはちょっと早い時間に集合場所の酒場前へとやってきて今年の夏の予定についてお話をしていました。


「ごめんー。NPCのおっちゃんが話長くて長蛇に列になってたけど、これみんな美味しいって言ってたやつだよ」

「なんか爆列岩っぽい見た目してるねー」

「そそ、その名もなな、なんと〝爆列岩風タコ焼き串〟だよ! はい、二人ともどうぞ」


 そこへ屋台に並んでいたアユちゃんが合流し、串に4個刺しされたタコ焼きを私たちに手渡してきました。


「あなたって人はまた変わったものを……」

「ゲームなんだからいいじゃんっ! それにお祭りはもっと楽しもうよー!」

「そうだね! ありがとね、アユちゃん!」

「……それもそうですね、ありがとうございます。それではいただき「まったー!」―――」

「あっ! ちょっと! 何をなさたんですかっ!?」


 ミナツちゃんが食べようとした爆列岩風タコ焼きにアユちゃんが自分の分のタコ焼きを串ごとぶすりと刺しちゃいました。


「ふっふっふ、ミナツさん、これが爆列岩風タコ焼きの醍醐味です」


 どや顔で新たにアイテム化した〝連結爆列岩風タコ焼き〟はそのまま個数が倍の8個になり、長さも私の持っているタコ焼きの倍になって……ミナツちゃんの手に持っていた方のタコ焼きが消えました。


「うぅ……私のタコ焼きが……」

「えっと……そんなに食べたかったの? はい、これあげるから」

「それではアユちゃんのが……」

「私はいいよ。リョウにでもまた同じことやってそれを貰うから」


 ミナツちゃんはアユちゃんからもらった連結爆列岩風タコ焼きを頬張ります。私も串のまま口へと運ぶとソースの匂いと香ばしい匂いが感じられました。それからタコから磯の香りが広がり、VR嗅覚システムでお腹は膨れなくても美味しいという感覚を存分に味わいます。


「美味しかったー! アユちゃん、ごちそうさまでした」

「どういたしまして~」

「そういえばさっきリョウさんの話が出てたし、せっかくだから聞きたいんだけど……アユちゃんが髪を短くしたのってやっぱりリョウさんのせい?」

「ん~~~、白状しちゃうとそうかな」

「ほふほふっ! ちょっと! 詳しく! その話、詳しく聞かせてください!」


 私たちの話を聞きながらタコ焼きを食べていたミナツちゃんは興味津々な様子で喰いついてきました。といっても、あの火山ダンジョンの温泉に入る時に髪をあげたアユちゃんをリョウさんが一言「可愛いですね。ショートヘアーも似合ったりします?」と言っただけな話ですけど。


「可愛いなんていわれたらね。嬉しいに決まってるよねー」

「アユちゃんもけっこう単純だよね」

「ラピスちゃん。アユちゃんはかなり単純の間違いではありません?」

「ミーナーツぅー? この食いしん坊委員長がぁー!!!」

「あははっ! なんかいつも通りだね!」


 そんなこんなをしているとギルドのみんなやアレスさんたちに青春アカデミーの学友たちも集まり、気付いた時にはかなりの大所帯になっていました。


「なかなかにすげーな、これもラピスの人望か?」

「あ、コータ。って、コータの知り合いも混じってるよね? 私の知らない人もいるし」

「というか、ただたんに人が集まってたから集まった騒ぎたい人じゃね? なんたって祭りだし」

「あー、そうかも。―――そういうのもネトゲらしくていいよね」

「だな」


 例外はありますけど、ギルドメンバー、パーティーメンバー、フレンド、ゲーム内での様々な繋がりはあっても私たちはお互いにほとんどリアルは知りません。それがネットゲームであり、こうやって気軽に知らない人と同じ時間を共有できるのはネットゲームの良さだと私は思います。


ラピース、アイッ栗毛聖女の眼!」

「……ちょっと止めてくるね」

「今更じゃね? それよりもほら、火山から大火精霊っぽいのが出てきたぜ」


 どうして学友さんたちはいたるところでラピス・アイを披露しているんでしょうか。私の興味を引きたいのかウインクまでみんながしてくるので笑って手を振っていましたがだんだんおふざけが過ぎるようになってきたので止めに行こうとしたときに火山が噴火し、大火精霊が現れました。


『―――愛すべき我が同胞たち、それに日御子のものたちよ。こうしてそなたらに会えたことに感謝する。宴である。我の復活は鍛冶の復活、全ての火の子らに祝福を』


 大火精霊の火の粉が町中に降り注ぎ、幻想的な空気を漂わせます。大火精霊はその一言だけ残して大気へと消えました。


「あっさりしすぎじゃない!?」

「まぁまぁ、貫禄も大事なんだよ。たぶん」

「そうね~。ラピスちゃんの言う通りだと思うわ~」

「あーしも多くは語らぬところがカッコいいと思うっす」


 宴は夜遅くまで続き、栗毛聖女の眼ラピス・アイはタンレンの町で有名になりました。……そして、数日後には生配信していたハナさんの動画を見ていた視聴者からこのゲームのほぼ全てのプレイヤーへと私の名前とともに定着していったのでした。

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