第30話 番外編 ざまぁは必ずやってくる

この話は、本編の主人公:山田優希が高校でイジメられる原因となったクラスメイト藤生竜弥視点の話です



--------------地球に彗星が衝突するまであと3日あたりの話--------------



もうすぐ地球は消滅する。

地球に彗星が衝突するらしい。

彗星からの小隕石が落下する程度なら、運良く滅亡を免れる国(土地)もあったかも知れないけど、今回は小隕石を引き連れた彗星との衝突コースなんだって。


TVはもう映らない、画面いっぱいにザザザーっと横筋が流れている。

ネットはたまに、何かの拍子に繋がる。

1週間前にTVで総理の会見があってから、『白い穴』の事がネットで騒がれ始めた。

白い穴の先に別の世界がある、あの穴は異世界に通じてるのでは、と。

「隕石が落ちてくる前に異世界へ」と、白い穴へ飛び込む人がここ数日増えた。

まぁ、ネット情報なのでどこまでが本当かわからないけど。



白い穴の先……、本当に異世界と繋がっているのかな。

どうせ地球が終わるなら……。


でもうちでは『白い穴』の事は禁句になっている。

その理由は、前の学校のクラスメイトが白い穴に落とされたからだ。

クラスメイトの山田優希くん。


僕は前の学校でイジメにあっていた。

机や教科書に「シネ」「クズ」「ヘンタイ」などとマジックで書かれたり、お弁当は毎日ぶち撒けられてた。

殴られて鼻血が出た事も数回、アザはいっぱいあった。

体操服や靴は何度も無くなり、お母さんに言えなくて自分のお小遣いで買い直してた。

うちは親が共働きでいつも帰りが遅かったし、お父さんとお母さんがよくケンカをしていたのでとても相談できる雰囲気じゃなかった。


でもある日、山田くんが転校してきて変化が起きた。

山田くんが僕へのイジメを学校に報告したのだ。


「親や先生に言ったらどうなるかわかってるんだろうな」


僕はどうなるのか怖くて先生に相談出来なかったが、山田くんは違った。


「先生に言ったらどうなるかわかってるんだろうな」

「どうなるの?」

「ああ?」

「どうなるかわからないから言ってこよっとー」

「おい!待て」


山田くんは本当に言いに行ったらしい。

しかも校長先生に言ったらしい。

すぐにうちの親と一緒に呼び出され、話を聞かれた。

まぁアザだらけだったし疑う余地もなかったんだけど、何と山田くんは証拠の写真もスマホで撮っていた。


ただイジメのリーダーが三年の沢渡という人で、かなり問題のある人物だそうで、校長先生から転校を勧められた。

「関わるよりひとまず逃げた方が…」という勧めで僕の転校が決まった。

学校からの帰り道に、「面倒な事に巻き込まれやがって」とか「もっと上手く出来なかったの」などと親には怒られた。


あの頃だよな?

地球のあちこちに白い穴が出来始めたのは。

事件は僕が転校した直後に起こった。


山田くんが沢渡達に白い穴に落とされたのだ。

それを知ったのはうちに事情を聞きに来た警察の人からだった。

僕を庇ったせいで山田くんはあの後から田上や宮崎にイジメを受けたそうだ。もちろん主犯は三年の沢渡だ。

その三人が山田くんを白い穴に突き落とした動画を自分達で上げて喜んでいたそうだ。


山田くんが落とされた穴に行こうと思ったが、うちに警察が来た事で親の機嫌がさらに悪くなり、うちでは『白い穴』は禁句になった。


僕は転校した学校にも通えなくなり、部屋に篭って毎日を鬱々と過ごした。

両親はもとからあまり僕に興味がない感じだったので、僕が部屋から出なくても全く気にしていないみたいだった。

ただ、妹の宮古(みやこ)だけは僕を気にしてくれていた。

コンビニで買ってきたお弁当やお菓子を部屋に差し入れてくれた。



僕はずっと白い穴に落とされた山田くんの後を追って穴に飛び込もうかと悩んでいた。

自殺とかそんな意味じゃなくて、助けに、僕に助けるなんて事が出来るかわからないけど、助けに行きたかった。


そんな時、彗星衝突の発表があった。

珍しく家にいた両親に思い切って相談した。


「穴に入るぅ?何を考えているんだ!馬鹿馬鹿しい!」

「ふざけないでちょうだい!いつまで迷惑かければ気が済むの」

「子供は呑気でいいよな」

「で、でも…このままいても彗星が…」

「国がなんとかするでしょ!もう穴の話はやめて!それでなくても警察が来てご近所さんに噂されて恥ずかしいのに」

「そうだぞ。うちでは穴の話はするな!」

「でも…」

「五月蝿い!」


それから両親は家を出て行って戻ってこない。

お父さんもお母さんも別の人と付き合ってるみたいだったし、その人の家に行ったのかな…。



「お兄ちゃん…」

「みやこ、大丈夫だから。一緒にいような」



彗星衝突まであと3日になった時、妹の宮古に思い切って切り出した。


「みやこ、あのさ、お母さんたちもいないし、あと3日で世界は終わるし、あの、あのさ…」


「うん!賛成ぇ。白い穴に行くんでしょ?」


「何で…」


「お兄ちゃん、ずっと穴に友達を探しに行きたいんだろうなって思ってた。行くならみやこも行く!」


宮古に背中を押されて即決まった。

決まったら早かった。

リュックに手当たり次第に必要そうな物を詰めてスマホを持って家を出た。

実はうちから行けそうな場所に次の穴が今日出現しそうという情報を掴んでいた。

ふたりで自転車に乗って走った。


お昼過ぎにはかなり近くまで来れたと思う。

穴の場所は、出現して誰かが発見してネットに上げてくれないとわからない。

途中のコンビニでトイレを借りて、あと棚に並んでいたスナックも貰って食べた。

店員さんはいなかったけど「ご自由にどうぞ」の紙が貼ってあった。

その店内で穴情報が上がるまで待機した。

スマホが繋がり難くてサイトを開くのにも一苦労だ。


「あがった!」


繋がったサイトを見ていると表示された穴はここから割と近い場所だった。

宮古と一緒にコンビニを出て自転車を走らせた。


穴の近くまで行くと、穴の前に数人の人が立ってるのが見えた。

僕らと同じように穴に入る人かな。

自分たち以外にも人がいた事にちょっとホッとした。

自転車から降りて宮古と近づいて行く足がピタっと止まった。


穴の前にいたのは、田上と宮崎だ!

僕をイジメてた元クラスメイト。

その他に男女がひと組……。

女子は、官兵さんだ。彼女も同じクラスだったが、官兵さんは三年の沢渡の元カノって噂があった。

って事は、男の方は、たぶん沢渡だ。

僕をイジメてた主犯、そして山田くんを穴に突き落としたやつ!



「沢渡さん、本当に行くんですか?」

「ほら、グズグズしないで飛び込めよタガミぃ。それともミヤザキ?お前が先に行くか?」

「え、いや、その」

「あ、あ、あの、俺、家族がその家で、あの」

「ああ? 聞こえねぇなあ。どっちでもいいから飛び込め」


4人から少し離れたところで立っていたが、沢渡に肩を抱かれていた官兵さんがふとこっちを見て、僕らに気がついてしまった。



「ねぇねぇ、ほらあそこ」


官兵さんの指差す僕らに沢渡も気がついた。


「おい、タガミ。あいつら連れてこい」

「え?あ、はい! おおう、ふじぃちゃんじゃん。久しぶりだねぇ」


ちょっとホッとした顔の田上が近づいてくる。

宮古を連れて逃げようとしたけど、いつの間にか近づいていた宮崎と田上に宮古が腕を掴まれて沢渡の方へと連れて行かれた。


僕も宮古を追いかける。


「ナイスだね藤生ちゃん、俺ら今から穴に入ろうか迷ってたんだけど藤生ちゃん代わりに飛び込んでくれない?」


沢渡は俺を見ながらニタニタと笑いながら言った。


「そ、そうだよな。沢渡さん、こいつが代わりに飛び込みますから。俺ら勘弁してください」


田上が宮古を沢渡に差し出した。

沢渡は嫌がる宮古を抱き込む。

宮古を取り戻そうとしたが、宮崎に突き飛ばされて穴へダイブした。

ヤバい、宮古!宮古を助けないと。

と思っていてもあっという間に白いモヤの中に落下していった。




--------------宮古視点--------------


目の前でお兄ちゃんが白い穴に突き落とされた!

お兄ちゃんの後を追いかけようとしたが、この沢渡というやつにガッチリと掴まれていて身動き出来ない。


「ギャハハハハハ、見事な背面ジャンプだったな。背中からいったぞ」

「そ、そですね」

「で? 次はどっちだ?」

「え?あ? あの、藤生が落ちたから俺はもう…」

「何言ってんの、ほらどっちだ?」

「お、おれ、おれは藤生を落としたから免除で」

「何言ってるんだよ。お前! お前が落ちろ!」


どっちがタガミかミヤザキか知らないけど、ふたりが穴の近くで押し合いを始めた。


わああああああ


「お、ミヤザキが落ちたっと」


私を掴んでいた沢渡が嬉しそうに穴を覗きこむ。

その隙に逃げようとしてたタガミを沢渡は見逃さなかった。

掴んでいた私を離した手でタガミの腕を掴んで大きく勢いをつけて穴目がけて投げ込んだ。

タガミが白いモヤに吸い込まれていった。


私は沢渡から放れたこの瞬間を逃さずに穴に飛び込む。

お兄ちゃんを追いかけるのだ!


が、沢渡は穴に飛び込んだ私の足をすかさず掴み、私に引き摺られて一緒に穴に落ちてきた。

沢渡に腰を抱かれていた女子も一緒になって三人は白い穴へとダイブした。



--------------藤生竜弥視点--------------


穴のモヤの中に落ちるとまるで重力を感じないかのように前後左右上下がわからなくなった。

ただモヤが頭の方へと流れて行くので、足の方が下なのかな?

それに想像してたよりずっとゆっくり落下してるようにも感じる。


地上に残してきた宮古が気になり、上へ向かって平泳ぎのようにモヤを掻き分けるが上へ登れるわけもなく、下へ下へと落ち続ける。

何とか戻れないかと上を見上げていると、何かが聞こえてきた。


ギィヤアアアアアアアアアアァァァァァァ


目の前のモヤが乱れて、そこを凄いスピードで通り過ぎていったモノが見えた。

宮崎だった……。

しかも、全身火だるまの宮崎が、俺を超えて落ちていった。

地上で何が起こったんだ!

宮古!宮古は無事か!!


するとまたしても頭上から叫び声が通り過ぎた。


ギャアアアアアアツいアツいアツいアツいぃぃぃぃぃ


同じように火だるまの田上だ。

何で燃えてるんだ!沢渡が火をつけたのか!


さらに頭上から声が聞こえてくる。


ぃぃやああぁぁアツイ、タスケテ、ァァァァアアアアアアァッイぃ

離せ!エリコ!オレも燃えるだろお!ハナセよ

痛い痛い痛い!足が千切れるー!


宮古!最後の声は宮古だ!

田上達よりは遅いが俺よりは速いスピードで三人が落ちてくる。

沢渡の腰にぶら下がってる下半身が燃えてる官兵さんが見えた。

その官兵さんをぶら下げた沢渡は、何と宮古の右足の足首を掴んでいた。

官兵さんと沢渡に引っ張られて一緒に落ちてくる宮古。


沢渡が空いてる方の手で官兵さんを殴ったり蹴ったりして、堪えきれずに官兵さんが沢渡の腰を離したようだ。

全身火だるまになった官兵さんが僕の横をすり抜けて落ちて行った。


離せ離せ離せ!

宮古がジタバタと沢渡の手を足から外そうとしてもがいている。


「宮古!宮古!ここだああ」

「お兄ちゃん!」


沢渡の重さに引きづられて僕の横を落ちて行く宮古をキャッチした!

今までゆっくりとした落下だったが沢渡の重さで僕の落下速度も上がったようだ。

沢渡の手を外そうとして宮古の足先見ると、沢渡がもうひとつの腕を伸ばしてきた。

両手で掴まれたら外せなくなる、そう恐怖した時だった。


伸ばしてきた沢渡の右手が突然捻れ始めた。


ウギャアアアアアイテェええええええ


見ると沢渡の下半身もぐるりと捻れ始め、足先から燃え始めた。


ギャアアアアアアアアアアア


沢渡が堪らず宮古の足から手を離した途端、僕の落下速度がゆるやかになった。

沢渡はあっという間に捻れて燃えながらモヤの中へと見えなくなって行った。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「宮古…大丈夫か?」

「お兄ちゃん」


宮古が僕にギュっと抱きついたまま、僕らは白いモヤの中を落下していった。

僕らはモヤに守られたまま無事に地面へと着地した。

そこは森のような場所で、周りにはたくさんの人達がいた。


僕らより先に落ちていったはずの、田上や宮崎、官兵と沢渡の死体はなかった。

燃え尽きた……のだろうか?



それから少ししてから、何と僕は山田くんと再会できたのだ!


「良かった良かった良かった!生きていてくれて。ごめんね、ずっと謝りたかった」

「何を謝るんだよー、藤生くんもこっちに来てくれて嬉しいよ」


山田くんは聞きたくないかも知れないけど、僕らが落ちた時の話、沢渡達の話をしたら、


「うぅむ、この世界は神がかってるからねぇ。武器とか石化するし、悪い奴は燃えて消滅するんだね、きっと。そういえばそうだよね。犯罪者とか来たら嫌だもんなー」


いつも前向きは山田くんはここでも明るく前向きだった。



【完】

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