第16話 第一村人発見?村人ちゃう

東へ出発するのは翌日にして、その日は出かける準備をして早くに就寝した。

俺たちは陽が登ると直ぐに出発した。


東へ。


テント地を出発して1時間半、西の拠点を通りかかると広場の中央に幾分かの荷物が落ちていた。

ミシェルが惣菜パンの袋をめざとく見つけて拾った。

物資を片付ける暇はないのでパンだけを持ち、他はそのままでさらに東へと森の中を進んだ。

しばらく進むと今度は東の拠点に着いた。

ぱっと見、腐りそうな物は無かったのでそのまま通り過ぎた。



東へ。


森の中は引き辛いカートや台車も5人いると結構ラクに移動ができた。

昼過ぎには森の東の端に着いた。

そこに帰りの食糧を備蓄する。


「どうする?このまま行けるか?」

「俺は大丈夫」

「僕もダイジョウブだよ?」

「うん、少し安めば問題ない」

「私も大丈夫よ」


ミシェル達3人は一昨日まで死にかけていたのに大丈夫なのかな?

心配そうに3人を見るとクラさんがパチリとウインクした。

うわぁ、美人な女性からウインクなんてされたの始めてだよ。

TVとか画面越しでない近距離のウインクって攻撃力がハンパないぃぃ。

俺は顔に血が昇ってくるのがわかり下を向いた。


肩にポンを手を置かれたので顔を上げると、ミシェルが僕にウインクした。

……男のウインクは攻撃力はゼロだな。

いや、むしろマイナス?

おかげで冷静さを取り戻せたよ、アリガトウ、ミシェル。


俺たちは食事とトイレ休憩で1時間ほど森の東端で過ごした後、東の草原へ足を踏み出した。



草原の彼方を見つめるがまだ森は見えない。

と言うか、西も南もそうだったけど、この草原って小さな小山というか丘が多くて、しょっちゅう登り降りするのだ。

なので遠方の確認が難しい。


ジャパンフォレストがわりと低い位置の森だったのか、まずはゆるやかな登りの草原が続く。

それが過ぎるとデコボコの草原地帯って感じだ。

アメリカもフランスも割と低く降りたとこに森があったし、お互いが見つけ辛い立地だな。



そんなデコボコな草原を移動して、陽が暮れる前に野宿となった。

寝袋が3個しか無かったけどそこまで寒くないので全員がそこらに寝転がった。

銀色のガサガサした防災グッズはなんか山ほどあったので各自それにくるまって寝た。

一応火も起こして順番に見張りをした。


草原に寝転がって暗くなった星いっぱいの空を見ながら考える。

ここが地球じゃないって。

地球の月も金星も見えない。

北斗七星もオリオン座も見えない。

天体に詳しくないから俺が知ってる地球の夜空はそのくらいだ。


というか、星が多すぎてその中に金星が混ざっていてもマジわかんないな。

地球でも日本でも、場所によっては山ほどの星や天の川とかが見えるだろうけど、ここは地球じゃないと言える。


昼間も太陽の両脇に月があって驚いたけど、今は満点の星の中に月…?が、8個。

北斗七星ならぬ北斗八月。

いや、あの並び方じゃないけど大小8つの、地球の月より大きなやつが密集してる。

引力どうなってるんだろう?

1番おっきいやつな月面のクレーターみたいのが肉眼でも見える。


地球じゃないとこに、来てるんだな。俺。

そう思いながらいつの間にか寝ていた。



火の番が明け方だった俺が起こされた時は皆んなも起きていた。

火が消えないように枝を少しだけ加えて火の調整をしているとライアンがお湯を沸かし始めた。

俺の前の番だったパチェラが寝ている間に朝食の準備をしていく。



その後、パチェラを起こして朝食を済ませ、俺たちはまた東へと進んで行く。

小さな丘を登り、下り、登り、下り、途中休憩を取りつつ東へ。



東へ。



草原2日目の午後2時頃、目の前は横に長い丘があった。

今までの小さな丘ではなく、高さはそこまで高くないがかなり横に長い壁のような丘だ。

ぱっと見では丘の端っこが見えないくらい細長い。


まぁ、どんな形でも俺たちはとにかく東に進むのみ。

高さは今までの丘より多少高いようだ。

台車を2名で引き、カートはふたりで引き、ひとりは押す。

5人で何とか丘を登り切り、そこに座り込んだ。


「うへぇ、この丘はキツかったな」

「はぁふぅはぁ、つ、つか、れたぁ」


転がった俺にジョリーが顔を擦り付けて来る。


「ジョリー、ちょっと待って。ちょっと休ませて」


ワフン!


ジョリーは遊んでほしいのか俺の顔を何度か舐めた後、走って少し離れたところに行き、そこからこっちにむかって吠えた。


ワンワンワン!


「ごめん、待って。今は遊べない。休ませて」


ワンワンワンワンワンワンワン


ジョリーがずっと吠え続ける。

どんだけ遊んで欲しいんだよ、仕方ないな。

と、俺はヨロヨロ立ち上がりジョリーの方へと歩いていった。


「若い子は元気だなぁ」


ミシェルが転がったまま笑っていた。

ライアンとクラは座って水をのんでいた。

パチェラはうつ伏せに寝ていた。


俺はジョリーのもとまで行った。

ジョリーがいたのは俺たちが登った丘の向こう端、つまりこれから下って行く予定の『東』だ。

東の森が見えないかなぁと思いつつ、丘の下を見た。


そこに人がいた。

いちにい、さん、し…4人。


え?え?東の森から来た人?

地球人?

その4人も俺を凝視している。

どこの国の人だろう。

服や帽子をガッツリ着込んでいて判りづらい、けど日本人とかアジアっぽくない服装だ。

欧米人ぽくもない。


マント羽織ってる、アラブの人?

あれ?腰に剣ぶら下げてる…。

うわ、俺、世界史とか国際情勢とかマジ疎いんだけど、戦争中の国の人だったらヤバくね?


どうしよう、ライアン達を呼びたいけど、今動いたらコロされそうで…どうしよう、どうしよう。


冷や汗がタラリと落ちて来る。

ひとりは杖なんて持ってる。

マントに杖。


え? マントにつえ?


あれ?

よく見ると他の3人は、頭をすっぽり覆う皮っぽい帽子と、鉄っぽい胸当て、腕と足の脛と膝に何か巻いてて、

そして腰に…剣。

これ、どっかで……ゲームでよく見た冒険者の格好に似てる。


まさか、この人たち…、だいいち、むらびと?

この世界の人なんじゃないか?

俺は思い切って話しかけてみた。



「あの……こんにち…は、言葉通じてます、か?」


「あ、あぁ」

「驚いた!」

「どこから来た? その格好、まさ…か、落ち人か?」


「え?あの? あ、落ちてきたから落ち人か。ええと、冒険者の人ですか?」


この世界に冒険者がいるのかわからないけど、初めて出会ったこの世界の人がゲームに出てくる冒険者の格好に似ていたので思わず聞いてみた。


「ああ、そうだ。俺たちは冒険者だ」


うわああああ!

冒険者来たあああああ!

第一村人すっ飛ばして第一冒険者に遭遇したああああ。


「うわあうわあ、この世界、冒険者いるんだ!もしかして魔法とかあります?あ、杖持ってるから魔法ありですよね!」


「あ、あぁ」


俺のテンションに四人は引き気味だった。


「あ、俺、ゆうきって言います!あっちの森に落ちてきました!」


後ろを振り返り西の方角を指差した時にライアン達を思い出した。


「ライアン!ライアーン、来てぇ、この世界の人がいた!ミシェルぅ、皆んなこっち来てぇ」


俺の大声でライアン達が慌ててやって来た。

ライアン、ミシェル、パチェラ、クラ、俺を真ん中に挟んで4人の冒険者達。

しばしお見合いをした後、おずおずと話始めた。




この草原の東側、草原を抜けた先に街があるそうだ。

彼らはその街で冒険者をやっている。

冒険者ギルドでは定期的に森探索の依頼を出すそうだ。


冒険者ギルド!冒険者ギルドあるんだ!


この草原はかなり大きな草原で、東側にはキルメという王国があり草原に隣接した街はメリサスという街だそうだ。

メリサスには冒険者ギルドがあり、定期的に森探索の依頼を出しているそうだ。



「定期的と言っても数年に一回だがな」

「そう、今年依頼が出たのが4年ぶりか?」

「5年だよ、5年ぶり。俺たちがギルドに登録した前の年だったから」

「そうだ、そうだった。で、この依頼は危険だが人気なんだ。探索で何も持ち帰れなくても最低限の報酬が出る」

「そう、それと万が一、何か持ち帰れたらかなりの額の報酬を貰えるんだ」

「今回は落ち人5人だ!俺たち大金持ちになれるぜ」


「ちょっと待て、この依頼が危険ってのは何でだ?」


「ああ、あんたらよく無事に草原を渡って来れたな」

「この草原は魔物が出るだろう?森の中に入れば安全なんだがそこまでの草原が危ない」

「街に近い草原はまだ弱い魔物だから俺たちでも簡単に倒せるが、草原の奥に行くほど魔物は強力になって行く。俺たちが倒せる魔物は街に近い3つ、4つの森がせいぜいだ。それ以上向こうには行けねぇ」


「え、でも俺たち、魔物どころか獣や動物に全然会ってないよな?」

「うん。それどころか蛇とか虫とか鳥も見てない」


「ああ、小動物や虫は魔物が食っちまうからな。だが、小動物を見てないって事は近くに魔物がいたはずだ。よく無事だったな」

「そうだな、全く見てないってのはどういう事だ?」

「今も全然寄って来ないぞ?一応警戒はしているが」

「もしかして、クシャの実を塗ってる?」


「クシャの実?」

「なんだ?クシャの実?」


「魔物が嫌ってる実が森の中にあるらしい。森に探索に入る理由のひとつにクシャの実摂りがある。あれは良い値で売れる」


「いや、持ってないよ?僕は」

「私も持ってないわ。木の実なんて摂ってないし」

「俺も持ってない」

「俺も…あ」

「ゆうき?」

「もしかして、これかな?」


俺はポケットから実を出した。

この世界に落ちた初日に食べる物を探して森の中で見つけた実だ。

齧ると恐ろしく酸っぱかったやつ。

上から物資が落ちて来るようになってからは不要になったが、実はあの酸っぱさが癖になってたまに齧っていた。

齧るたびに全身の毛穴から汗を放出していた。



「それだ。それがクシャの実」


「あら、美味しそう実」

「齧ると半端なく酸っぱいよ?」


「……齧ったのか?」


冒険者の人達が俺を凝視した。


「クシャを齧る強者がいるとは」

「さすが落ち人ですね」


ミシェルが手を伸ばしてきて俺の手の平からクシャの実をひとつ取り自分の口に運んだ。


シャク…


「ウワアアアア!ッペッペ、何これ、酸っぱいどころじゃない。水、水くれ、ペッ ウエエエ」


ミシェルが地面に這うようにえづいていた。

すぐにクラがペットボトルの水を渡した。

見てるだけで口の中に唾液が貯まる。

レモンとか梅干しなんて目じゃないくらい酸っぱいのだ。

ポケットに入れていた実がまだ3つあり、それを冒険者に渡した。



「これのおかげで魔物に襲われなかったんだろう」

「齧ったならなおさら、数日は魔物はよって来ないさ」

「街で売ってるのはこの実を削ったやつだ。少量持っているだけでも魔除けになる」


「あ、それあげます。どうぞ」


「いいのか? 街で売ると高いぞ?」


「はい。その代わりお願いがあります。俺達を街まで連れて行ってくれませんか?」


「もちろん、そのつもりだ。落ち人を見つけたらギルドへ案内するのが決まりだ」


「あと、街とかこの世界の事も教えて欲しいです」


ライアン達の意見も聞かずに言ってしまってから慌ててライアン達を振り返ると、皆んなも首を縦に振ってくれていた。

良かった。

とにかく、この世界に人がいる事がわかった。

街や国がある事がわかった。


その国が良い国か悪い国かはわからないけど、とにかく自分達だけでないって事に安堵した。

他の森も気になるけど、まずは街に行きたい。


俺たちは4人の冒険者に先導してもらい東へ、メリサスという街へ向かった。

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