第14話 3番目の森

翌朝俺たちはジャパンフォレストのテントへ向かって出発した。

朝早くに出発したおかげで昼過ぎにはテントに到着した。

そこで休憩と食事をとった後、ABCの3拠点を見て回った。


人は落ちて来ていない様だったが、新たな物資が結構転がっていたので回収して回った。

ホカホカ弁の幕の内弁当があったが、残念ながら腐っていた。オーマイガッ。

結構豪華なおかずが入っていたのに何てこった。

俺はその亡き骸(腐ってしまった弁当)を広場の隅に埋めた。



今回はそれ以外は腐らない物だったのでありがたかった。

ライアンと手分けして拠点に残す物、テントに持ち帰る物にわけた。

テントに戻り、岩洞窟の中の俺らの寝床の横にジョリーの寝床をこしらえた。


その日の夜は少し豪華な食事を作った。

ジョリーが仲間に加わったお祝いだ。



食後のコーヒーを飲みながら今後の事を話した。


「ジャパンフォレストとアメリカンフォレストの間の草原に水や食糧を設置しない?そうしたらアメリカンフォレストに行きやすくなると思うんだ」


「なるほど、そうだな……。けど俺は、他の方向の探索を先にした方がいいと思う」


「他の方向?西がアメリカだったから北とか南とか?」


「ああ、そうだ。アメリカはとりあえずの手は打った。東や南北にも、もし森があるならアメリカのような最低限の手は打ってやりたい」


「そっか。世界中に白い穴は出現してたもんな。森がもっとあっても不思議じゃないか」


「ただまぁ、俺たちの足じゃ探索出来るのもたかが知れてる。そんなに遠くまで行けるもんじゃねぇ」


「うん。今回の西隣のアメリカンフォレストだって草原二日間の距離だったからね」


「ああ、俺たちに出来るのはせいぜいこの森の近隣くらいがいいとこだ。他は自力で頑張ってくれ」


「ふぅん、東と北と南かぁ。自力で生きてくれてるといいなぁ」


「そう願ってるが、どうだろうな。日本みたいに親切な国民だったらいいが……」


「で、どうするの?どこから行く?」


「そうだな、とりあえず下、南に下ってみるか」


「南か。じゃあ明日はその準備だね。そだ!明日は森の南の端っこに荷物を運んで置いておこう。そしたら、持てる荷物も増えるし多く持てる分を草原の途中に置いておけるよ?」


「おう、そうだな。そうしよう」


「あ、ジョリーはどうしよう……。置いていくのは可哀想だけど一緒に行く体力あるかな」


「連れて行こう。何とかなるさ。カートもあるし」


「ジョリー、明日からまた出かけるけど一緒に行くんだぞ?頑張れるか?」


俺の膝に頭を乗せていたジョリーに聞くと理解したかはわからないけど、キョロっとした目で俺をジッと見てからワフンと鳴いた。

可愛いのでガシガシ撫でた。




次の日はABC拠点で物資を回収した後、出かける準備をした。

森の南端に置く荷物を背負い、他に持っていく荷物はカートと台車に積んで南端まで往復した。

テントに戻って来た時は空のリュックだけを背負っていた。

そのリュックに明日の準備をして早くに寝床に入った。


翌朝、テントを出発、南端まで移動してそこで荷物の入ったカートと台車を拾って草原へと踏み出した。

南側の草原。


草原は西側とは特に違いはなく見える。

足元の草はそんなに背は高くなく時には土が見えたりしていた。

遠くを見てもやはり高い建物や街などは見えなかった。


ちょっとした岩が集まってる場所で1日目は終えた。

翌朝陽が登るとすぐに歩き始めた。

南へ南へ、小さな丘をいくつか登り降りした時、遠くにこんもりとした森が見えた。


「あったな」


「あったね… 森」


ここから森までは平らな草原で草もまばらだったので、カートと台車の移動がラクだった。

日暮れまでにはまだ時間があったのでそのまま南の森に突入する事になった。

一応、森と草原の境目あたりに少しだけ物資を置いていく。


森の中は台車やカートの移動に時間がかかるのでゆっくりとした進みになる。

南へ南へと進む。

3時間ほどで陽が落ち始めたので今夜はそこで野宿となった。


次の日の朝、食事を摂ってからまた南へ進む。

もしこの森もジャパンフォレストやアメリカンフォレストと同じくらいの大きさなら、昼前には拠点へ到着できるはず。


ジャパンフォレストもアメリカンフォレストも、中央あたりから森の端までの距離(かかった時間)を考えるとかなり円に近い森だそうだ。

頭上から見る事は出来ないのにそんな事が解るなんてライアンってすごいなぁ。

ただ、この森が俺たちの森と違った形なら南に進んでも拠点にぶち当たるとは限らない。

楕円形とか変な形とかだったら、拠点にも中央にも行けずに森を突き抜けてしまうかもしれない。


そんな事考えながら歩いていたら突然ジョリーが吠え始めた。

俺たちが進んでいた南ではなく、やや西寄りに向かって吠えている。


「ジョリー、静かに!大人しくして!」


俺は慌ててジョリーを押さえた。


「何だ?何かいるのか?」


ライアンが深刻な表情に変わる。

ジョリーは俺たちにはわからない何かを察知しているように吠えている。


敵か。

この世界に来て初めての敵……。


「ジェイソン、ゴブリンとか魔物かも」


「油断した。俺たちの森には獣も敵もいなかったからここも同じと思ってたぜ」


俺がジョリーを押さえてる横でライアンがリュックを置き、バールの様な物をしっかりと握りしめた。

それを見て俺もリュックを下ろそうとジョリーから手を離した瞬間、ジョリーが森の中に突っ込んで行ってしまった。


「ジョリー!まて!戻れジョリー!戻って来い!」



ジョリーを追おうとする俺の手をライアンが掴んで止める。


「ダメだ、闇雲に突っ込むな」


「ご、ごめん。でも…ジョリーが」


「わかってる。ゆうきは俺の後ろを少し下がって着いて来い」


ジョリーが走っていった方へライアンがゆっくり進んでいく。

俺も鍬を握りしめ着いていく。


ジョリーは少し行った先に留まっているようだ。

ウオオオーーーン

ジョリーの声が聞こえた。

吠えると言うより呼んでいるような?


俺たちはなるべく音を立てない様に進んで行った。



オオーーーン

ーどこから来たの?

ー首輪をしてる、飼い主はどこだ?お前

ーこの世界の犬か?

ーん?でもこの首輪に付いてるタグ、英語じゃないか?


人の話し声が聞こえた!

ライアンと俺は思わず顔を見合わせた。

この森に落ちた人!生きていたんだ!


俺たちは慌ててその声のする方に走った。


「ジョリー!」「生きてたか」

「わぁ!ビックリした!」「え!よかっ…」

「誰だ?どこの穴に落ちた?」「こんにちは!初めまして」

「ちょっと武器持ってる」「俺たちはもう食べる物は持ってないぞ」

「「「「「…………」」」」



……何かカオスだった。

みんなが一斉に喋り、そして突然静まった。


「あのぉ、こんにちは。怪しい者じゃありません」


「じゃあ、その武器は何だ!」


「あ、ごめんなさい。武器って言うか鍬だけど置きますね」


俺は持ってた鍬を足元に置いた。

ライアンはバールのような物を腰のベルトにぶら下げた。

ジョリーが俺の元にハフハフ鳴きながら戻って来て俺を見上げた。

まるで誉めてと言わんばかりのドヤ顔だ。



「ジョリー、勝手に走っていったらダメだろ?」


まず怒り、


「でも、他の人見つけたのは偉かったな」


そして誉めた。

頭をガシガシしてジャケットのポケットからクッキーを出してジョリーにあげた。


「あ、それ」「クッキー!もっとあるか?」「食べ物あったら分けてもらえないだろうか?」


そこにいた3人が同時に喋った。

そう、そこには男性2人女性1人の3人がいたのだ。

男性のひとりは欧米人かな?白人っぽかった。

残りの男女はアジア…人かな?

ちょっと濃い顔の日本人、あれ?日本人かな?


「水と食べ物ならある。あっちにバッグを置いてきちまったがな」


ライアンが苦笑いしながらさっきの場所へ3人を案内した。

水と食べ物を渡された3人はかなり飢えていたようであっという間に食べ終わっていた。

それからお互いに自己紹介をした。


白人っぽい男性はミシェルさんでフランス人だそうだ。

日本人ぽいふたりは、男性がパチェラさん、女性がクラさん、ふたりともタイ人だそうだ。


「って事はこの森はフランスとタイのふたつの国から落ちてくるのか」


俺が何気に疑問を口にすると即座に否定された。


「いや、僕もクラもフランスへは留学中だったから」

「そうなのよ、落ちたのはパリ大学の中よ」

「そうだよな。あんなところに穴が出来るなんてひどいよ」


聞くとミシェルさんも同じパリ大学で3人でパーティの買出しに行った帰りだったそうだ。

外国人の年齢ってわかんねぇ、ミシェルさんがもっと年上だと思った事は黙っておこう。


「いや、俺んちの玄関前ほどは酷くねぇだろ」


ライアンさんが笑って自爆していた。

自爆で笑いを取るために俺も穴に落とされた話をしたら誰も笑ってくれなかった。

それどころかギュウギュウに抱きしめられて頭をガシガシと撫でられた。

俺の扱いがジョリーと似てる…のは気のせいだろうか?



それはさておき、3人が今日まで生き残れたのは買い出しの食糧を持って落ちたからだそうだ。

それで何とかしのいでいたが、食糧は食べきり、水場も発見出来ず、いよいよ最後かと思っていたらジョリーが現れたそうだ。


ライアンはジャパンフォレストの事、アメリカンフォレストの事を話し、この森も確認しようと誘った。

3人は大賛成だった。

特にジャパンフォレストの話をした時はそっちに移動したいと言い出した。


とりあえずこの森はフランスフォレストと名付け、拠点を探しに5人と1匹で移動した。

予想通り、ほぼ同じような場所に3つの拠点が存在した。

しかし拠点に物資が落ちている事はなかった。


アメリカンフォレストの時と同じようにアチコチに書き置きや貼り紙をした。

パチェラさん達はこの森を彷徨っていた時に死体を2箇所で見たそうだ。

ひとりはおそらく餓死、特に傷があるように見えなかったからそう思ったそうだ。


「餓死というか、水場を見つけられなかったせいかな」


「そうだね。僕らはミネラルウォーターを持ってたから助かったけど」


「ジャパンフォレストは拠点から90分ほど離れたとこで小さな川を発見出来たから良かったけど、探す方向がちょっとでも違ったら見つけられなかったかも」


「そうだな。拠点は3つあったが川はそのうちのひとつだけだったし」


「そうか。そしたらこの森も手分けして拠点から90分の距離を探してみるか」


「水場があるだけでも生き残る確率は高いしな」


「地球からの助けを待つより生き残る努力を優先しましょう」


ライアンがふと思い出したようにパチェラに聞いた。


「そう言えば、ひとりは餓死と言ったがもうひとりは?」


パチェラとミシェルとクラはお互い気まずそうに顔を見合っていたが、パチェラが口を開いた。


「もう1箇所は、その、木の枝にベルトで…」


「ああ…」


ライアンは察したようで最後までは言わさなかった。

気まずい雰囲気を打ち消し、今夜はもう休む事にした。


翌日は二組に分かれて小川探しを行った。

ジャパンフォレストは西の拠点をもっと西に90分行った場所にあった。

アメリカンフォレストは東の拠点から東に行ったところで発見した。


なので今日の探索は、ここ南の拠点からは北西にあたる西の拠点、そこから西に90分の探索をミシェルとクラと俺ゆうきの3人。

北東に行った東の拠点から東に90分の探索をライアンとパチェラとジョリーのペア+1匹で。


西から西へ、東から東へと決まった場所のみの探索とした。

見つからなくても必ず戻ってくる事とした。

ちなみに南側は俺たちがこの森に入ってくる時に川は見つからなかったので除外した。


小川は見つかった。

本当に小さな小川で水量も少ないのでともすると見逃しがちだが、今回は探索ポイントが絞れていたので割とラクに発見出来たのだ。

西側の拠点から徒歩90分あたりの位置にひっそり流れていた。


翌日は小川の位置を記載した貼り紙を各拠点に貼り、それからこのフランスフォレストを脱出して一行はジャパンフォレストに向かった。


今回は人数が3人増えたので帰りの食糧が危ぶまれたが、草原やジャパンフォレストの入り口に多少の食糧を置いて来た事で何とか凌ぐ事が出来た。



全員無事にジャパンフォレストのテントに到着した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る