第三章《4》
4は特別編でお送りします。
静目線。
この話は、合宿が終わった後すぐの夏休みの話。
今は合宿の時のメンバーで作ったグループチャットを使って、夏休みに遊ぶ為の予定の話し合いをしているところだ。
「それじゃ、とりあえずこの夏休みに行きたい場所を挙げてー!」
そう言って率先して意見を募るのは摩耶ちゃん。
「うーん…じゃあさ、無難な所で夏祭りとかはどう?」
それに対して最初にそう提案したのは佐藤君だ。
「却下!」
なのに即座に却下されてしまう。
「え、ちょww」
「涼しい場所で昼寝が出来れば良い。」
そして次に意見を提案したのは中川君。
と思ったけど…。
うーん…これは提案で良いのかなぁ…。
「もっと却下!」
同じく即座に却下されてしまう。
「えー、じゃあ海とかプールとか?」
また佐藤君が提案する。
「ま、確かに夏の定番っちゃ定番ね。」
それに今度はまんざらでもなさそうな反応を示す摩耶ちゃん。
「いや…その前にお前足付くのか?」
そしてそれを見てそう返すのは中川君。
「海は浜辺の方で泳げば良いし、プールは子供用もあるし大丈夫だろ?」
それに佐藤君が返す。
「ま、多少深くても浮き輪がありゃ大丈夫だろうがな。」
「馬鹿にすんな!あんたら…覚えてなさいよ…!」
あぁあ、怒られちゃった…。
「う、うーん楽しそうだけど水着はちょっと恥ずかしいかなぁ…。」
せっかくの楽しそうな提案だけど、やっぱりちょっとそう言う抵抗はある。
「そ、じゃあ却下で。」
申し訳ないながらそう提案すると、即座に承認してもらえた。
「逃げたな。」
「うん、逃げた。」
そんな反応を見て中川君と佐藤君は順番にそう返す。
「うるさい!次よ次!」
うーん…図星だったのかなぁ…。
「あ、前に摩耶ちゃんが言ってたカラオケはどうかな?
私まだ行った事ないから行ってみたい。」
ここで、初めて摩耶ちゃんとカフェに行った時の事を思い出す。
あの時話をしてからまだカラオケには行けていないな、と思って恐る恐る提案してみる。
「お、カラオケ!良いわね、楽しそう。」
すると摩耶ちゃんも同意してくれた。
「うーん、まぁカラオケも良いけどさ。
季節的に夏祭りとか良いと思ったんだけどなー。」
最初に却下されたのが気になったのか、佐藤君がそう聞いてくる。
「迷子が出るからだろ。」
そしてそれに摩耶ちゃんの代わりに中川君が答える。
「うるさいうるさいうるさーい!」
「ま、外だと暑いしそれならカラオケで良いか。」
ひとまず佐藤君がそう言って話を纏めた。
「カラオケは騒がしいから寝られねぇんだよな…。」
と思ったら中川君がそう口を挟む。
「お前は寝る気満々かよ…。」
「ま、とりあえずカラオケにしましょ。
日時はまた改めて決めるって事で!」
とりあえず摩耶ちゃんがそう改めて話を纏め、私達はカラオケに行く事が決まった。
そして当日。
「早く着き過ぎちゃったかな…。」
友達と遊びに行くと言う経験が恵美ちゃんとしかなかった私が、まず迷ったのは着ていく服だ。
あまり深く意識した事がこれまでなかったし、そもそもそれを意識する機会もそんなになかった。
クローゼットを開け、種類が少ない自分の私服の中から無難な物をチョイスする。
とりあえず半袖のブラウスに水色のスカートにしてみた。
「変じゃないかなぁ…。」
一応着替えた後に鏡で一度確認しながら呟く。
とは言え不安だったものの、余裕を持って家を出たかったからそれに決めてから家を出て、今に至る訳だが…。
どうやら余裕を持って出過ぎたらしく待ち合わせである駅前に着いてもまだ誰も来ていなかった。
とりあえず近くの椅子に座って待つ事にする。
考えてみれば恵美ちゃんと遊びに行く時は近所だしお互いが直接家に行き合うから、そもそもあまり人と待ち合わせをすると言う事が無かった。
だからこう言う風に友達と待ち合わせすると言うのも初めての事だ。
だから余裕を持って出たのだけど…まぁ遅刻するよりは良いかなぁ…。
とは言えこうして一人で待つ時間も、なんだか楽しくてワクワクする。
友達と待ち合わせって良いなぁ。
「あら?静、あんた来るの早いわね。」
そう言って二番目に来た摩耶ちゃんは、普段の長い髪を今日はシュシュでポニーテールに結んでいる。
涼しげな花柄のワンピースにピンクのリボンがついた白のハットの組み合わせがとても良く似合っていた。
「お、ごめんごめん!」
その次に来た佐藤君は青のシャツに茶色のズボンでその後ろからついてきた中川君は黒のカッターシャツにジーパン。
皆おしゃれだなぁ…。
「さっさと行こうぜ。」
全員揃ったところで、早速欠伸をしている中川君。
「お前はマジに寝る気かよ…。」
それに佐藤君が呆れた表情で返す。
「ま、こいつの事はほっといて行くわよ。
予約してる店はこの近くだから。」
ため息を吐きながら、摩耶ちゃんもそう返す。
今回、カラオケのお店選びから予約まで全部摩耶ちゃんがやってくれたのだ。
グループチャットを作る事を提案してそれで作ったのもそうだし、その場でも仕切ってくれたり、今日こうして集まれたのは本当に摩耶ちゃんのおかげだと思う。
「摩耶ちゃん、今日はありがとう。」
「そうだな、色々ありがとう。」
私がお礼を言うと、それに佐藤君も続いてお礼した。
「ふん、別に良いわよ。
私も行きたかったし。」
そう言いながらも嬉しそうな摩耶ちゃん。
「寝る場所を提供してくれて。」
それに中川君も…。
うーん…これは続いてるのかなぁ…?
「あんたは黙ってなさい。」
それを呆れ顔で摩耶ちゃんは切り捨てる。
そして私達は摩耶ちゃんの後に続いてカラオケに向かった。
店の前に着いて早速中に入ると、初めて見る景色が広がっていた。
「わ、カラオケってこんな感じなんだ…。」
受付の向こうには沢山の部屋。
ドリンクバーのサーバーに、エレベーターの近くにはUFOキャッチャーまである。
「あー、静は初めてなのよね。
私が色々教えてあげるから。」
「あ、うん。
ありがとう。」
「あ、予約してた小池ですけど。」
そう言って摩耶ちゃんが受付に居た店員さんに声をかける。
「はい、四名様フリータイムでご予約の小池様ですね。
お待ちしておりました。 」
簡単なやり取りを済ませ、摩耶ちゃんがマイクと伝票の入ったカゴを受け取る。
「えっと、部屋は二○四ね。
エレベーターを使いましょ。」
先頭を歩く摩耶ちゃんに続いて四人でエレベーターに乗り、二階で降りる。
「わぁ…。」
エレベーターを降りると、また沢山の部屋がズラリと並んでいた。
「あ、ここだわ。」
二○四の番号が入った部屋を見つけて、摩耶ちゃんは立ち止まる。
摩耶ちゃんが扉を開けると、また初めての光景が広がっていた。
大きなテレビの上と下には、同じく見た事のない機械がそれぞれ設置されている。
佐藤君が電気を付けてから、それぞれ椅子に座った。
「はい、これで歌いたい曲を探すのよ、こうやって。
てかまずは誰か一番行きなさいよ。」
私にやり方を教えながら佐藤君と中川君の方に目を向けて摩耶ちゃんが言う。
「お、それなら俺行こうかな。」
それに佐藤君が応え、曲を入れて歌い始める。
歌っている曲は私にも聞き覚えがある男性ボーカルの夏らしい歌詞のアップテンポな曲だった。
「わ、すごい、上手い!」
曲が終わって、思わず拍手する。
「へー、中々やるじゃない。」
摩耶ちゃんも素直に関心しているみたいだった。
「ははは、ありがとう。
まぁ、カラオケは普段からよく行くからさ。」
言いながら照れくさそうに頭を掻く佐藤君。
「よく付き合わされるな。」
隣に座っている中川君が、ため息を吐きながら皮肉を言う。
「いつもありがとうございます!」
「よし!じゃあ次は私!」
佐藤君が全力でお礼した後、今度は摩耶ちゃんが曲を入れて歌い始める。
人気女性バンドが歌う名曲で、摩耶ちゃんもすごく上手かった。
「摩耶ちゃんすごい!」
佐藤君の時同様に、精一杯の拍手を送る。
「ふふん。
ま、こんなもんよ。」
それに摩耶ちゃんは得意気な表情でそう返した。
「へー…なんか意外だな。」
そしてまた中川君が口を挟む。
「は?何がよ?」
それに怪訝な表情を見せる摩耶ちゃん。
「いや…日曜朝の美少女戦士の曲でも歌うのかと…。」
「あ、確かに…。」
中川君の言葉に佐藤君も同意する。
「あんたら喧嘩売ってんのか!?買うわよ!?」
「まぁまぁ…。」
「せっかくだし高橋さんも何か歌いなよー。」
ムキになる摩耶ちゃんを宥めていると、佐藤君がそう提案してきた。
「え?あ、うん…。」
どうしよう…緊張するなぁ…。
二人のように上手く歌える自信が無いし、何を歌えば良いのかもよく分からなくてとりあえず自分の好きな歌手を検索してみる。
「あ、これなら…。」
その歌手の曲の中で一番よく聴いた曲を見付けて摩耶ちゃんに教えてもらった通りに曲を入れると、その曲のイントロが始まる。
「あ、これ知ってる。」
それを聴いて摩耶ちゃんが反応した。
上手く歌えてるかな…。
不安だけど精一杯歌う。
「おー、高橋さん良い感じじゃん。」
「そうね!」
なんとか最後まで歌いきると、佐藤君と摩耶ちゃんが拍手してくれた。
「あ…ありがとう。
これ結構緊張するね…。」
ハンカチで汗を拭きながら、お礼を言う。
「ま、最初はそんなもんよ。」
それに摩耶ちゃんがそう言ってフォローしてくれた。
「おいヤス、お前もなんか歌えよ。」
と、ここで佐藤君が隣の中川君に声をかける。
…かけたのだが。
中川君はその隣りで寝息をたてていた。
「ヤスー!!」
「あ、そうだ。
せっかくだしなんか頼まない?」
佐藤君が眠っている中川君を揺さぶっていると、摩耶ちゃんが皆にそう提案した。
「お、そうだね。」
言いながらひとまず揺さぶるのをやめてメニュー表を開く佐藤君。
「わ、食べ物も色々あるんだね。」
そこには、前に家族で行った時にファミレスで見たメニュー表と同じぐらい沢山の種類のメニューがあって驚く。
「まぁそうね。
軽く食べれるのとか普通にガッツリ食べれるのとかパーティ用の複数向けメニューみたいなのもあるわよ。」
「じゃあせっかくだしこれは?ロシアンたこ焼き!」
メニュー表を眺めていた佐藤君が、一つのメニューを指さしながら言う。
「へー、面白そうじゃない。」
「え、ロシアン?」
佐藤君の提案に摩耶ちゃんは乗り気みたいだ。
でも私は聞き慣れない単語に困惑して返事が出来ずにいた。
「…まぁ簡単に言うと何個かの内何個かがハズレで、ハズレは唐辛子が入ってたりするって感じのやつだな。」
すると、ようやく目を覚ました中川君が教えてくれる。
「え、そうなんだ…。」
うーん…確かにちょっと怖いけど面白そうではある。
「お、この店は普通のと辛いのの比率を選べるみたいね。
いっそのことニ:ニにしない?」
ロシアンの意味が分かったところで今度は摩耶ちゃんがそう提案してきた。
「そうだな、面白そう。」
「うん!」
それに佐藤君も同意し、私も同意する。
「まぁ、俺はどっちでも良いけど。」
一方の中川君はあまり興味なさそうにそう返す。
「よし、じゃあ決まりね。」
摩耶ちゃんが注文してから少しして、店員さんが運んできた。
「じゃ、良い?同時に行くわよ?せーの!」
その後の摩耶ちゃんの先導で、それぞれが自分のたこ焼きを決めてから同時に口に入れる。
「かっ…辛っ!」
それとほぼ同時。
ハンカチで口を抑えながら悶絶する摩耶ちゃん。
「わ…摩耶ちゃん大丈夫…?
あ、私は普通だ。」
慌てて摩耶ちゃんの方に身を寄せながらも、自分のが普通である事を確認する。
「俺も…普通。」
佐藤君も口を動かしながらそう口を挟む。
「あー俺も。」
一方の中川君も表情一つ変えずにそう一言。
「な…なんで…?二個あった筈なのに…。」
それに一人悶絶する摩耶ちゃんが納得いかないとばかりにぼやく。
「あ、もしかしたら俺のかもな。」
「あっ…そうか。
辛党…。」
中川君が口を動かしながら呟くと、佐藤君もそれを思い出したように呟く。
「何それムカつく!!
同じハズレの癖に!!」
これには摩耶ちゃんも今度こそ納得行かずに不満の叫びを上げる。
「全然気にならなかったぞ?」
そんな摩耶ちゃんの態度など何処吹く風、相変わらず涼しい表情でそう言い切る中川君。
「何なのよ…この差は…。」
私が持ってきたジュースを飲みながら、摩耶ちゃんはその後も不満げにぼやいていた。
ちなみにその後怒った摩耶ちゃんに無理矢理歌わされた中川君もすごく上手くて、その後採点勝負でも負けた摩耶ちゃんの機嫌が余計に悪くなったのだが、この日はそれも含めて良い思い出になったのだった。
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