七十七話 まさに手刀

迫りくる拡散型ブレスに対し、クランドは右手を左手で包み……居合の構えを取った。


次の瞬間、キャントの声と共に、炎を纏った……まさに手刀と呼ぶべき一線を放つ。


「「っ!!??」」


逆鱗状態のワイバーンが放つ火のブレスを、まさかの手刀で両断。

その光景に、接近戦をメインで戦う男二人は、信じられないものを見る目で、驚きが全面的に顔に出ていた。


「っ、冗談みたいな、存在ね」


斥候タイプの女性も、目の前で実際に起った光景は、にわかに信じ難い。

だが……それでも目の前の青年は、炎を纏った手刀で火のブレスを斬り裂いた。


それは、紛れもない事実。


(流石です)


内心、そんなアホで無茶な行動はしないでほしいと思いつつも、手刀でブレスを斬り裂くという芸当を行った主人に、賞賛を送らずにはいられなかった従者。


「ギャッ!?」


当然、自信満々に放ったブレスを斬り裂かれた本人、ワイバーンも驚かずにはいられない。


「カバディ」


「ッ!!!!」


キャントを口にするだけで攻撃を仕掛けず、手招きされて挑発を受けた怒れる亜竜は……当たり前だが、容易にその誘いに乗ってしまう。


その顔、腕、胴体、脚。

全て食らい尽くしてやると言わんばかりの形相で滑空。


そのスピードだけでも十分脅威だが、食らい尽くさんとする牙と顎も非常に恐ろしい武器。

強化状態のクランドであっても、食われる可能性は十分にある。


(あれを、試してみるか)


容易に挑発に乗ってくれたワイバーンに感謝しながら、クランドは軽いステップで咬みつきを回避。


「カバディ」


その後、細かいステップで一瞬だけ体重を前に移動。


「っ!?」


次の瞬間には、ワイバーンから十メートル近く離れていた。


「……えっ。うそ、終わり!?」


斥候タイプの女は、動かなくなったワイバーンを見て、戦闘が終わった……と解ったが、直ぐには信じられない。

何故なら、最後のクランドの動きが全く見えなかった。


いったい何をしたのか、全く分からない。

おそらく、何かしらの攻撃を行い、ワイバーンに大ダメージを与えた。

それは解る……それは解るが、どんな攻撃を行ったのか見当が付かない。


しかも、移動先はワイバーンから十メートル近く離れていた。


「バック、ですね」


「バック?」


「クランド様は、紙一重でワイバーンの攻撃を躱した瞬間、細かいステップで重心を前に移動。その際に放つ攻撃に重さを乗せました。そして左手で首を触り……衝撃を与え、骨を破壊」


まだ完全に死んではいないが、リーゼの解説通り、ワイバーンはクランドの攻撃によって首の骨を破壊された。


ワイバーンと人の身体構造は違うが、特殊な体質でなければ、首の骨を破壊された時点で勝負は終ったも同然。


「本来、敵対した相手に背を向けるて一時退却というのは、相手からすればふざけた行動だと思われるかもしれませんが、クランド様であれば背後からの攻撃にも対応出来ます」


「そ、そうなのね……はぁ~~~、まさかそんな一瞬で逆鱗状態のワイバーンを倒すなんて……本当にびっくりする強さね」


ほぼ他人の者に仕える主君を褒められ、悪い気はしないリーゼ。


「どうやら、息絶えたようですね……申し訳ありませんが、少しの間護衛をお願いしてもよろしいでしょうか」


「それで助けられた恩が返せるとは思わないが、是非ともやらせてもらおう」


護衛の意味を理解し、青年たちは直ぐに周囲の警戒にあたった。


クランドは青年たちに感謝し、直ぐに血抜きを開始。

亜竜とはいえドラゴンであるワイバーンは、血でさえ錬金術の重要な素材となる。


一滴も無駄にせぬよう回収し、今度は鱗や肉、骨の解体を行う。


体はかなりの大きさだが、それでも解体に慣れている二人が全力で集中すれば、三十分も掛らず終わる。


「俺たちは戻るけど、どうしますか?」


「一緒に帰らせてもらおう」


四人はクランドたちと一緒にアブスタへ戻った。


道中、クランドは様々な質問をされたが、答えられる範囲で返していると、あっという間にアブスタへ帰還。


そのまま冒険者ギルドへと戻り、クランドは受付嬢に本日起こったことを全て話した。


「しょ、少々お待ちください!!」


素材鑑定の担当である受付嬢は、自分より鑑定スキルのレベルが高い先輩を呼び、魔石の鑑定を頼んだ。


「……確かに、ワイバーンの魔石ですね」


「「「っ!!??」」」


受付嬢の小さな声を拾った冒険者たちは、すぐさま魔石を取り出した人物、クランドに注目。


「こちらは、クランド様がお一人で?」


「えぇ。とはいえ、こちらの四人を助ける形で交代したので、万全な状態のワイバーンを倒したわけではありません」


確かな事実を伝えるクランド。


だが、そこで助けられたリーダーである性能直々に、当時の状況を追加説明する。


「途中までは俺たちが戦っていたが、クランドと戦っていた時のワイバーンは、明らかに逆鱗状態だった」


「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」


青年の追加説明に、冒険者だけではなく受付嬢たちギルド職員たちまでもが驚き、中には腰を抜かしそうになった者もいた。

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