四十七話 おっさんではないよ

無事にコボルトジェネラルとグレートウルフが頭を張っていた群れを潰し終わり、ハリストンに戻ってきたクランドたち。


先に足の速い数名の冒険者がハリストンに向かい、討伐完了を冒険者ギルドに報告。


クランドたちが戻る頃には、しっかり宴会の準備が整っていた。


「グレートウルフは、こいつ一人で倒した」


冒険者ギルドに戻った後、ベテラン冒険者たちは隠すことなく、職員にクランドが一人でグレートウルフを討伐したと報告。

その場にいたルーキーたちが驚く中、リーゼもしっかりコボルトジェネラル戦で、見事な働きっぷりだったと報告。


素材の買取などは迅速に行われ、ギルド内で宴会が始まった。


事前に脚が速い冒険者たちが報告射していたため、途中で食材や酒が切れることはなく、夜中まで盛り上がり続けた。


「おう、クランド。まだ起きてたのか」


「そりゃ起きてますよ」


先輩からの言葉に、普段と変わらない表情で返事を返す。


ただ、頬はほんのり赤い。

既に酒は飲める年齢なので、今日の宴会では思う存分飲む……訳ではなく、事前に確認出来ている限界の半分ぐらいで抑えようと思っていた。


しかし、クランドは今日の主役と言っても過言ではなかった。

そのため、何度も何度もクランドのコップに祝い酒が入り、当然……余すことなく胃袋に入れた。


両親であるオルガとエリカがそれなりに強いこともあり、その強さはしっかりと息子であるクランドに受け継がれていた。


「いや、結構呑んでただろ」


「そうですね……本当は、もう少し抑えようと思ってたんですけどね」


前世ならアルハラだったかもしれないが、基本的に冒険者になるような連中は、普段は堅物であっても、こういう時はタガが外れてしまうもの。


クランドとしても、悪い気分ではなかった。


「それは済まなかったな……今日は助かったぜ」


「どうしたんですか、そんな真剣な顔で」


「真剣に、お前に感謝してるからな。クランド、お前が今回の討伐戦にいなかったら、最低でも数人は殺られてた」


「…………」


そんな事はない……とは言わなかった。


自分の実力が平均以上だとは自覚しているため、下手に謙虚な態度は取らない。


「クランドが一人で戦ってくれたお陰で、マジで余裕が生まれた」


「それなら、俺が我儘言ったことも、少しはプラスになったのかもしれませんね」


「はは!! それもそうだな」


クランドの我儘は役に立ったか否かは、そこまで大きな利点ではない。


クランドとリーゼを特例として今回の討伐戦に参加させた。

それを実行したベテランの冒険者たちと、上の者たちの判断があってこそ、死者ゼロという記録を出し、討伐を成功することが出来た。


誰も死ななかった……死ぬことが珍しくない職業に就いているが、大きな戦いで誰も死なないというのは、やはり嬉しい結果。


「……Dランクへの昇格、俺らが推薦しとくからな」


「え? 昇格、ですか」


「おう、そうだな。グレートウルフを一人で倒せる奴が、コボルトジェネラルとの戦闘できっちり後衛としての役割を果たせる奴がEランクってのはおかしいだろ」


ごもっともな内容だった。


実力だけを考えれば、二人は直ぐにでも上に駆け上がれる。


「まっ、それを妬む奴らもいるけどな」


「そうかもしれませんね。でも、それは仕方ないですよ」


実力がある者を、実力がない者たちは妬む。


それは前世でも経験した変わらない現実。

先輩たちのお陰で、クランドを妬むのは筋違いと解った者もいるが、理解するのと納得するのは違う。


「……お前、本当に十五か?」


「良く聞かれますけど、正真正銘の十五歳ですよ」


前世の年齢に近づいてきたこともあり、決して精神年齢はおっさんではない。


「でも、冒険者は嘗められたら終わり……あまりそれにこだわる必要はないと思ってますけど、腕力が必要だと感じたら、遠慮なく使いますから」


「そうしてくれ」


本当にこいつは幾つなんだ? と思いながら、先輩冒険者は小さく笑い、コップに残っていたエールを飲み干した。


翌日、先日規模が大きい討伐戦を終えたばかりで、酒もかなり飲んでしまったこともあり、二人は休息を取っていた。


「……」


「リーゼ、いつまで沈んでるんだ?」


「酒に溺れて気を失うなど、従者失格です」


先日の主役はクランドだったが、リーゼもルーキーらしからぬ活躍を見せ、先輩たちから祝い酒を多く貰っていた。


リーゼもそれなりにアルコールに対して耐性を持っている方ではあるが、キャパを超えてしまい、変に酔うことなく寝落ちしてしまい、宿までクランドに背負われてしまった。


クランドは全く気にしていないが、従者であるリーゼとしては、十分やらかしにあてはまる。


「寄ってダル絡みしてこなければ、俺としては文句ないよ。それに、朝は変わらず俺よりも早く起きたじゃないか」


「それが習慣ですので……はぁ~~。祝いの席と言っても、無理だと感じれば断らないといけませんね」


あの場が悪くないと感じた。

先輩冒険者からの称賛ということもあり、少々断り辛さがあった。


しかし、今後は無理だと感じたら断ると決心したリーゼ。

彼女の精神力は並ではないが……果たして、その決心はいつまで続くか。


もしかしたら、それはクランドからの勧めによって破られるかもしれない。

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