四十二話 どちらにしろ挑む
「いや、その通りなんだが……予想出来てたってことか」
「そうですね。というか、参加出来るなら参加したいと思ってたんで」
Dランクモンスターをソロで倒せる実力を持っている。
であれば、そんな自分をギルドが誘わない訳がない。
自惚れではなく、確かな自信。
「一つ、よろしいでしょうか」
「おぅ、良いぞ」
「クランド様は、現在Eランクです。既に私も含めて、盗賊の討伐というDランクへの昇格内容は満たしていますが、それでも参加出来るのですか?」
リーゼの質問……の中に含まれていた言葉に、青年は固まってしまった。
そして数秒かけ、目の前の女性が何を言ったのか、冷静に理解した。
「二人とも、既に経験があるのか」
「偶々ですけどね。あの時はがっつり吐いちゃいましたよ」
あっはっは! と笑うクランドを見て、ますます常識離れしたルーキーだと実感。
この報告は、青年としても有難いものだった。
「そうか、そうだろうな。俺も我慢しながらぶっ殺した後、思いっきり吐いたよ。まっ、そこに関しては特例ってことでなんとかなる」
人を利用するのに便利な言葉、特例。
過去にその特例で、規格外の力を持つ新人が戦場に連れていかれることがあった。
それは決して一度や二度ではない。
「分かりました。それなら、ジェネラルかグレートウルフのうち、一体は俺に戦らせてください」
「……正気か?」
本気か? ではなく、正気か? と尋ねてしまった青年。
しかし、そう問うてしまうのも無理はない。
その気持ちが解るからこそ、リーゼは青年に冷たい目を向けていなかった。
(やはり、それが参加の条件なのでしょうね)
クランドが冒険者になった理由を考えれば、それを要求するのは当たり前。
「はい、正気ですよ。俺は強い奴と戦って勝つために、冒険者になったんで」
規格外のルーキーの口から出た言葉に、青年は開いた口が塞がらなくなる。
片方を一人で相手してくれる。
それは非常に有難い提案なのだが、さすがにルーキーに相手をさせる訳にはいかない。
だが……噂通りの人物であれば、自分が想像しているよりも、何倍もの実力を有している。
「……そっちの、リーゼは納得しているのか?」
「クランド様はこういう方なので、悩むだけ無駄だと思ってます」
半ば呆れ顔なのを見て、心中お察しする青年。
(苦労してそうだな)
パーティーメンバーである魔族の少女が反対しないこともあり、青年はクランドの頼みを承諾し、ギルドに持ち帰った。
当然、討伐戦に参加する主要メンバーや、ギルドのお偉いさん達からは反対意見が飛び出る。
色々な理由があるが、とりあえず反対という意見が殆ど。
「ワイルドボアや、ラーズンスネークを一人で倒す。そんな桁外れの実力を持つルーキーだ。しかも、自分から強敵と戦いたいと宣言してるんだ。戦らせてやるべきだと思う」
本人がそう宣言しているとしても、伯爵家の子息ともなれば、ギルドとしても死なれては立場的に困る。
「というか、クランドの場合……自分から倒しに行くぞ」
青年の言葉に、その場にいる全員が嫌な音を立てて固まった。
「仮にこの討伐戦に特例として参加させなければ、勝手に群れに突撃するだろうな」
更に嫌な音が室内に響いた。
「強者と戦って勝つために、冒険者になった。騎士になれる実力があるのに、騎士にならなかった酔狂者だぞ」
十分、クランドがちょっと異常者であることが理解出来る情報。
この場にいる者たちも、手に入る程度の情報は得ている。
そのため、渋い顔で頭を悩ませることにはなるが……最終的にはクランドの要求を飲むことにした。
そして翌日、クランドと……加えて、リーゼに特例で討伐戦に参加する命が届く。
伝えられた場所はギルド内で、周囲にはちらほらとルーキーたちがいた。
当然とは言えば当然だが、その命に上を目指すという意欲が強いルーキーたちは、青年に自分も参加したいと宣言。
「話を聞いてたんだろ。この二人の場合は、特例なんだ」
「ッ!!!」
自分はその特例に当てはまる実力を持っていない。
そう宣告されたと感じ……実質、その感じと青年からの言葉は同じ内容。
周りより頭一つ抜けた実力を持つルーキー、ぐらいの実力では今回の討伐戦に参加させられない。
一瞬……一瞬だけ、その特例として選ばれたクランドに強烈な視線を向けるが、直ぐに先日の一件を思い出し、目を伏せた。
「そういう訳だから、頼むぞ。スーパールーキー」
「きっちり仕事は果たします」
数日後、DランクからCランクの冒険者たちで構成された討伐隊が出動。
巣は一日も歩けば到着する場所にある。
その為、なにがなんでも討伐しておきたい。ま
ジェネラルやグレートウルフがその気になれば、ハリストンの人間たちが準備出来る前に、街への襲撃を仕掛けられる。
「予想通りの実力、ってことか」
「あんな子もいるのね~」
「従者の女の子の方もヤバいな。知り合いの魔族と比べて……どっちが上だろ」
道中、本当に特例として参加し、我儘を押し通すだけの実力があると証明するために、クランドは自ら戦闘を買って実力を示し、先輩たちからの信用を得た。
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