三十四話 一つ上からスタート
「ここがハリストンか」
数日かけ、ようやく目的の街……ハリストンへ到着。
それなりに立派な外壁が街を覆っているが、自身の領地には同じ……もしくはそれ以上に立派。
王都の物も見たことがあるので、特に驚くことはない。
そして軽い検査を受けて街の中に入る。
「んじゃ、まずは冒険者ギルドに行くぞ」
「はい」
門兵に冒険者ギルドの場所は事前に聞いているので、二人は迷うことなく冒険者ギルドに到着。
「ここだな」
中には入ったことはないが、狩りから屋敷に戻る時に何度も外装は見たことがあるので、ここでも二人は特に驚かない。
ただ……中に入ると、少々驚きが顔に現れる。
(ここから、俺の冒険者生活が始まるのか)
木製で出来ており、独特な匂いに浸るクランドだが……大半の匂いは、併設されている酒場から漂ってくるエールの匂い。
だが、それはそれで嫌いではないクランド。
既に酒を合法的に呑んで良い年齢であり、既に実家で何度か飲酒済み。
両親であるオルガとエリカはそれなりに酒が強く、その遺伝はしっかりとクランドに引き継がれていた。
「あれだね。ジロジロ見られてるな」
「そうですね。黙らせましょうか?」
「止めてくれ。変に目立つのは良くない」
屋敷で働いていた時はメイド姿だったが、現在はそれ相応の格好をしている。
一般的な前衛よりも動けるリーゼだが、本職は後衛で力を発揮する魔法使い。
(つっても、リーゼの見た目で注目されないってのは無理がある話か)
ローブを身に纏っている為、普通なら体の凹凸が分かりにくい。
しかし……リーゼのナイス過ぎるバディは隠せず、リーゼに視線を向ける男性たちは、殆ど鼻の下を伸ばしていた。
加えて、クランドもパッと見で貴族と解らせる見た目なので、視線を集める要因の一つとなっていた。
「冒険者登録をお願いします」
「畏まりました」
列に並び、ようやく二人の番が回ってきた。
登録は綺麗どころから選ばれた受付嬢が対応してくれる。
確かにどの受付嬢も、野郎たちにとっては魅力的な美女。
クランドは美女が多いな~という印象を持ったが、自分の従者であるリーゼには敵わないなと思い、特に目を奪われることはなかった。
「こちらの用紙に記入をお願いします」
受付嬢から渡された用紙に、二人はササっと記入していく。
その後、用紙を受け取った受付嬢は少々驚きながらも、平常心を装ってルーキーになった二人に詳しいルールなどを伝えていく。
既に内容を知っている二人だが、適当に聞き流すのではなく、再度頭に叩き込んだ。
「以上となります。何かご質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「大丈夫です」
「では……一応Eランク昇格の戦闘試験を受けることが出来ますが、どうなさいますか?」
この受付嬢に言葉に、ギルド内に残っている冒険者たちがざわつき始めた。
「お願いします」
当然この制度は知っており、二人はその日の内に受けると決めていた。
先程の記入した用紙には、自身が所持しているスキルを記入する欄がある。
そこで一定の条件を満たしていれば、いきなりEランクからスタートすることが出来る。
二人は受付嬢の案内に付いて行き、地下の訓練場に到着。
「それでは、少々お待ちください」
そう言われて待つこと数分後、先程の受付嬢と一人の男が現れた。
「その二人が戦闘試験を受ける二人か」
「えぇ、そうです」
「そうか……まっ、わざわざ試験を受ける意味はないと思うが、形だけでもキチンとやらないとな」
現れた男性は、元Cランク冒険者の職員。
普段は職員として雑務をこなしているが、戦闘試験などが行われるときは、こうして駆り出される。
そして……この元Cランク冒険者の男性職員、イザルクはクランド・ライガーという言葉に聞き覚えがあった。
こうして対面したことで、確信へと変わった。
「お前、先日王都で学生最強をボコボコにしたクランド・ライガーで合ってるよな」
「ボコボコって、一応名前はクランド・ライガーで合ってます」
「だよな。今回はEランクに上がれるだけの実力を示せば良いだけだから、ほどほどにしてくれよ」
学生最強と言われていたブラハム・ダグレスの強さを耳に入っており、そんな学生最強を倒したクランドが本気で来られたら、死んでしまうと確信している。
「分かりました」
クランドとしても、無駄に怪我を負わせてしまうのは良くないと思い、キャントは封印。
勿論、鬼心開放も使わない。
「それでは、今から戦闘試験を始めます……始め!!!」
模擬戦などの審判慣れしている受付嬢が開始の合図を行い、戦闘試験が始まった。
絶対に全力で掛かって来ないでくれと頼まれているので、使用するスキルは身体強化のみ。
(っ!!! 噂はマジのマジだったみたいだな!!)
イザルクは木製の大剣を使って対応するが、クランドのスピードとパワーに圧倒される。
伊達に元Cランク冒険者ではなく、初っ端から良い一撃を貰って戦闘不能……なんてことにはならない。
ならないが、無理して攻勢に出ようと思えない強さを感じていた。
「よし、終わりだ」
魔力を纏わせた大剣で思いっきり振り、クランドと距離を取ってから、終了の合図を告げた。
結果、当然クランドのEランクスタートが認められた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます