十七話 皆優秀だが、愚痴もある
「彼は……クランド君は、今でも槍の鍛錬を続けているのだろう」
「毎日欠かさず続けているよ」
五分や十分、軽い運動程度ではない。
毎日四十分から一時間程費やし、基本動作の反復や応用、模擬戦でも使う。
既に槍技のスキル習得しているリーゼは、槍技のスキルを持たないクランドにまた、槍対決で一度も勝利を得られていない。
「そうか……何故、あれ程の腕を持ちながら、スキルを得られないのか……不思議でならない」
スキルを待たない段階での腕前は、他家の槍の扱いを得意とする家の者たちでも、クランドの腕に関心を寄せていた。
「……実は、昔クランドに言われたことがあるんだ」
紅茶を一口飲み、当時の事を思い出しながら……槍に対してこれじゃない、という感覚があると告げられた日の事を話し始めた。
当時、オルガはそんな事を言いつつも、槍技を習得するのは時間の問題だと思っていた。
しかし……それからクランドが槍技を習得することはなく、代わりにカバディという今まで歴史上に存在しなかったスキルを習得した。
「ほぅ、そんな事があったのか」
「クランド君は、今よりも幼い頃から、その現実を受け入れていたのかもしれないね」
「そうなのだろうな……」
槍を扱い才など必要ない程、己の五体を使って戦うことに優れていた。
オルガ以外の三人も同じ答えに至ったが、ならば良かったじゃないか……なんて言葉を掛けられるわけがない。
「しかし、そのクランド君も異性にはあまり興味がない、みたいだね」
「三人とも他のことに関心が強いというか、決してそれが悪いことではないが、もう将来のことについて少し関心を持ってくれと思ってしまうよ」
槍技を習得できないクランドは、二人と比べてモテない訳ではない。
一時はクランドから離れる令嬢も多かったが、先日の一件で評価は百八十度覆った。
あまりにも酷い手のひら返し、そう思うかもしれないが、クランドはそんな令嬢たちの行動を否定するつもりはない。
それが人間であり、貴族らしい部分だと認識している。
ただ、一部の令嬢は槍技を習得出来る、出来ない関係無く、クランドという一人の男子に惹かれている者もいる。
「はっはっは! 特にロ二アス君は、もう少しその点に関心を持った方が良さそうだね。しかし、影響力を考えると、やはりクランド君はロ二アス君より上回っている部分があると感じるよ」
クランドは以前、社交界で好みの女性のタイプを尋ねられた。
その際に……容姿うんぬんは一先ず置いておき、料理が出来る女性と答えた。
まだまだ前世の感覚が抜けておらず、そのような発言をした。
一般庶民なら女性が料理を行うのは当然だが、貴族の女性が料理を行うことは、まずない。
だが、当時としては優良物件……現在も料理で得た財産を考えると、そこら辺のイケメンより優良物件なのは間違いない。
「少し前に特許を取った餃子、だったかな。あれも美味しかったよ」
「うちの娘はクランド君を狙っている訳ではなさそうだが、ここ数年で料理に強くを興味を持っている。最近では料理長に頼んで、厨房に立つこともあるぐらいだ」
お菓子作り……なんて可愛らしいレベルではなく、がっつり料理に取り組む。
次々に新しい料理を生み出すクランドの発言によって、令嬢たちの中で料理ブームが到来していた。
「良い流れなのか悪い流れなのか……難しいところだな。ただ……良縁を断ることになるかもしれない発言は良くないと解っているが、クランドは冒険者としての道に進む」
「強者と戦い、勝利する為、だったか。まさに漢の中の漢と言いたいが……うむ、そうなると、どの家も娘を送り出すことに、やや抵抗感があるだろう」
この場にいる者たちは、誰一人として冒険者という職業を……冒険を続ける者たちを、侮ってなどいない。
それでも、貴族に生まれたが故のプライドが、愚かな偏見を持つ要因となる。
ただ……クランドがその様な険しい道に進もうとしていても、彼に惹かれる令嬢は少なからずいる。
三兄弟の話はここで終わったが、まだまだ自分の子供たちの自慢話は続いていく。
オルガにとって三兄弟だけではなく、ミラルたちも十分誇れる存在だが……三兄弟と同様に、愚痴を漏らしたくなる点があった。
オルガが友人たちと愚痴をこぼしながらも楽しく話している頃、クランドはリーゼを連れて狩りを行っていた。
「「「「「ギギャギャッ!!!」」」」」
「カバディ」
クランドに襲い掛かるのは、五体のゴブリン。
モンスターの中でも貧弱な存在ではあるが、侮れば痛い目を見る。
まだその痛い目を体験していないが、クランドの目に侮りはなく、攻守ともに舞う様に戦う。
「凄い……」
五対一という状況での戦いは、初めて見る。
確かにランクはFと最弱だが、年齢を考えればある程度の脅威。
そんな脅威に臆することなく、高い身体能力を遺憾なく発揮し、魔力を器用に操り、たった十秒ほどでゴブリンの群れを仕留めた。
「す、凄いです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、多少の慣れがあるからな」
この言葉にリーゼだけではなく、護衛の騎士たちも頭を傾げた。
今までの戦歴を考えれば当然の反応だが、前世のクランド……#単語__レイダー__#攻撃手である大河にとって、多数の敵に挑むのは、日常茶飯事だった。
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