十二話 天才が更に積み重ねる
「ふぅーー。いや~~、結構ドキドキしました」
それはこっちのセリフだ!!!! と大声で言いたいところだが、騎士たちはグッと堪える。
「それじゃ、また見張りお願いします」
騎士たちに見張りを任せ、解体を始めるクランド。
だが、大きさが大きさなので、解体に慣れている騎士が手伝いに入る。
「手伝わせていただきます」
「ありがとうございます」
騎士と一緒に解体を始めてから、終了するまで邪魔は入ることはなく、順調に進められた。
(倒すより、解体する方が大変かも)
モンスターと戦う様になり、解体は何度も経験しているが、倒してきたモンスター的に……がっつり全身を解体する機会が殆どなかった。
しかし、ワイルドボアは肉や骨に皮、多くの素材が使え……体がそこそこ大きいこともあり、かなり時間が必要になる。
既に解体のスキルをゲットしたが、クランドの腕だとまだまだスムーズには進まない。
「よし、次いきましょう!」
ハラハラドキドキさせられるバトルを体験し、テンションがいつもより上がっているクランドは笑顔だが、また今回の戦いの様に、嫌な意味でドキドキハラハラしなければならないと思うのかと……テンションがダダ下がり。
護衛をしてくれている騎士たちに迷惑を掛けていると解りながらも、強敵との戦いは止められない。
勿論、のちの対応は考えていた。
「父さん、俺が騎士たちに頼んだので、彼らを叱らないでください」
狩りから帰ったクランドは、本日の成果を報告すると同時に、ワイルドボアと遭遇した際に、自分が我儘を頼んだ事実を伝え、三人を叱らないでくれと頼んだ。
「うむ……解った。それなら仕方ないな」
息子が自ら一人で戦わせてくれと頼んだのであれば、部下たちを叱る訳にはいかない。
「クランド、お前が歳に似合わない力を持っているのは解るが、お前を心配する者がいるというのを忘れるでないぞ」
Dランクのモンスターと戦うとなれば、さすがにクランドの実力の高さを認めている父、オルガも心配になる。
報告を受けた母、エリカは卒倒しそうになった。
「はい、分かりました!!!」
自分が戦うことに……心配してくれる人がいる。
それは前世から知っていた。
だが、これからも強敵と戦うことを止められない。
それが目的だからこそ、冒険者の道を選ぶと決めた。
「クランド、無茶をするのもほどほどにするんだぞ」
「はい、ロ二アス兄さん!」
長男のロ二アスからオルガと同じ様なことを言われ、元気良く返事を返す。
「……本当に気を付けるんだぞ」
しかし、ロ二アスはクランドが自分の言葉を理解している……が、無茶することは止めない。
そんな意思を表情から読み取り、念を押した。
(全く、本当にクランドにはいつも驚かされる)
ロ二アスも既にDランクモンスターを一人で倒せる実力を有している。
そんなロ二アスでも、現在のクランドの年齢でDランクモンスターを倒せるかと尋ねられたら……死ぬ気で挑めばと答える。
だが、騎士たちから話を伺ったように、クランドの様に楽し気な表情で倒すのは無理と断言する。
(私も負けてられないな)
友人たちの中には、クランドの身体能力が幾ら高くとも、クランドの方が下だと認識している者がいる。
しかし……ロ二アスは毎回、その言葉を否定する。
世間一般的には天才の部類に入るロ二アス。
その才へライガー家の現当主であるオルガも認めている。
ロ二アス自身も、自分は優れた部類に入る者……と認識しているが、弟の存在を非常に強く感じている。
故に……努力する天才が、弟に負けてられないと……更に努力を重ねる。
その末にいったいどんな怪物が生まれるのか……本人すら解らない。
「ちょっと摘まもうかな」
久しぶりに休息日を作り、街中で護衛の騎士を連れてブラブラとしているクランド。
両親や従者たちからも、偶にはしっかり休んだ方が良いと伝えられ、街に繰り出す。
朝食を食べ終えたら、予定通り街に繰り出し、完全休日を楽しむ。
露店で売られている料理を昼飯代わりに摘まみながら、主にマジックアイテムや武器、防具などが売っている店を回って楽しんでいた。
素手で戦うことがメインのクランドだが、武器や防具に興味がない訳ではない。
寧ろ興味津々。
「クランド様、何かお買いになりますか?」
「……いや、いいかな」
目の前の武器に価値がない。
自分が持つに相応しい武器ではないと考えてない。
逆に、メインでロングソードや短剣、槍を使わない自分が買うのは……どうなのだろう? と思っていた。
「あちらの武器屋に寄りましょうか」
「良いですね」
現在訪れている店は、オルガが治める街の中でもトップ五に入る武器屋。
(……視線が切れたな)
当初は完全休日を楽しんでいたクランドだが、途中から自分にずっと向けられている視線に気付いた。
(中には入ってこない、のか)
何かしらの人物が、自分を追っている。
それに気付いたクランドは、護衛の体に指で「誰かが自分にずっと視線を向けている」と書き、騎士もその事実に気付いており、店員に声を掛け、一つ頼み事をした。
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