六話 匂いは気にしなくても良い

モンスターとの戦闘を許可されてからのクランドは、飛躍的に強さを増していた。


モンスターを倒せば、相手の強さによって得られる経験があり、それによってレベルが上がる。

レベルが上がれば、主に身体能力や魔力の総量などが向上。


接近戦で戦うクランドにとって、レベルアップによる身体能力向上の恩恵は非常に有難い。

魔力の総量上昇も、以前から魔力の使い道は考えているので、これも有難い。


鍛え、実戦を経験すればするほど強くなり、強敵と戦える。

強敵を倒す……それは前世の目標と、なんら変わりなかった。

それを実行できることがまた嬉しく、クランドは日々のトレーニングなどをサボることはなく、手抜きをすることもない。


そんなクランドだが……一つ、珍しい趣味を持っている。

それは料理だった。


「どうかな」


「……う、美味い」


本日は前世の記憶を思い出しながら、餃子を作った。


ライガー家に仕える料理長は高級料理店で働いていた経験もあり、その前は色んな地域を旅していたこともあり、料理の知識は非常に豊富。


そんな料理長でも知らない料理を、子供のクランドが次々に提案。

最初の頃はクランドの言葉を料理長が実行していたが、厨房に立てるぐらい大きくなったクランドは、自分で造れそうだと思った料理を作り始めた。


「今回の料理も、俺の知識にはない料理です……クランド坊ちゃん、今回の料理も旦那様に報告しましょう」


「あ、うん。分かった。諸々のあれは、そっちに任せるよ」


この世界にも特許はあり、それは料理にも存在する。

故に、その特許で発生するお金は……発案者であるクランドの元に入ってくる。


(こんなことで大金が手に入って良いのか…………他人のアイデアを盗んだって気がしなくもないんだよな)


この世界では存在しない料理なので、全く持って問題はない。


「クランド兄さん、また新しい料理を作ったの?」


「あぁ、そうだよ。アスク」


厨房にお付きのメイドと一緒に、クランドの弟であるアスクが訪れた。


「食べるか?」


「食べる!!!」


兄が考えた料理はどれも美味しいと解っている為、アスクは迷わず食べたいと答えた。


「分かった。ちょっと熱いから、冷ましてから食べろよ」


「うん!」


皿に移した餃子を「ふー、ふー」と冷ますアスクの隣で、お付きのメイドがもじもじとしていた。


「……食べますか?」


「いえ、大丈夫です! ただ、その……」


「なんですか?」


「その、新しいスイーツはいつお作りになりますか?」


前世でも同じ趣味を持っていたので、一般的な料理やスイーツであっても、材料さえ揃えば作れる。


そしてライガー家の女性に限らず、スイーツは女性にとって重要なエネルギー元。

そんな女性たちにとって、クランドが制作したスイーツはどれも思考の一品と思える程、食べると幸せな気持ちになる。


「あぁ……今は特にアイデアが出ないので」


「そ、そうでしたか」


露骨にがっかりするメイド。


頭を捻れば思い出せないことはないかもしれないが、前世で趣味として作っていた料理の大半は一般的なもの。

スイーツに関してはそこまで力を入れていなかった。


(正直、スイーツを作る方がお金がかかるというか……いや、気にしなくても良いんだろうけど)


料理の特許によって、正直クランドの懐はウハウハ状態。

ライガー家の取り分と別けても、お金は増える一方。


そしてクランドはその収入を、全て料理関係にしか使っていなかった。


「クランド兄さん!!! とても美味しいよ!!!」


「それは良かった。ただ……女性陣には、少し注意してもら……わなくても大丈夫か」


餃子にはニンニクを使っているので、食後……口臭が少々気になる状態になってしまう。


しかし、生活魔法のクリーンを使用すれば、ニンニク臭い口臭も消すことが出来る。

匂いに度合いによっては効果がない場合もあるが、一般的なニンニク程度の匂いであれば、消臭することが可能。


「クランド坊ちゃん、これを今日の夕食に出しても良いですかね」


「勿論良いよ。ただ、餃子を出すならお米も一緒に出してもらって良いか」


「分かりました!」


この世界にも米という前世と変わらない食材があると知り、料理の特許で得た金を惜しみなく使用し、ライガー家の家に大量の米が確保されている。


(さて、まだ夕食までは時間があるな)


軽く体を動かそうと思い、アスクの方に顔を向ける。


「アスク、この後予定はあるか?」


アスクがお付きのメイドの方に顔を向けると、メイドは顔を横に振って特にないと伝える。


「ありません」


「それなら、俺と模擬戦でもするか?」


「っ! 良いんですか!!??」


「あぁ。折角美味い夕食が待ってるんだから、二人でがっつりお腹空かそうぜ」


「はい!!!」


アスクは本当に嬉しそうな表情を浮かべ、クランドと共に訓練所へ向かった。


努力は一切怠っていないのに槍技のスキルを習得出来ない……にも拘わらず、その事実に切望せずに強さを求め続けるクランドに、アスクは強い憧れを持っていた。


そんな兄は、普段はライガー家の中でも特に強い騎士とマンツーマンで訓練を行っていることが多いため、あまり手合わせしたり、一緒に訓練を行う機会が少ない。


「しっかり準備運動するんだぞ」


「はい」


という訳で、久しぶりの手合わせになるため、初めての餃子の美味さを堪能した時よりもテンションが上がっていた。


「それでは、始め!!」


戦闘も行えるお付きのメイドが審判を務め、夕食の間まで二人は体を動かし続けた。

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