カバディ男の異世界転生。「カバディ、カバディ、カバディってうるさいって? 職業病みたいなもんなんだよ!! ほっとけ!!」

Gai

一話 これじゃない感が強い

(やべぇ……死ぬのか)


スポーツ大得意な男子高校生、一条大河一条大河は今、死にかけている。


スポーツの中でもカバディに超夢中であり、海外のプロも注目している有望株。

努力し続ければ明るい未来が待っている……かもしれなかったが、目の前で失われるかもしれない命に……ただ見てるだけという選択肢は取れなかった。


暴走車に引かれそうだった幼子を助けることは出来たが、頑丈な体も暴走車からの激突には耐え切れず、骨はバキバキで内臓もやられた。


(プロに、なりたかったな……)


幼子を助けたことは後悔していない。

ただ、目標を叶えられずに人生が終わったのは、心残りだった。


(……どこだ、ここ?)


人間、死ねばその後どうなるかなんて分からない。


そう思っていた大河は……意識が回復した。

しかし、今自分がいる場所が生まれ育った日本ではないということだけは、直ぐに理解出来た。


何故なら……天井が自室や学校の保健室、病院でもなく……豪華なシャンデリアがあるから。


「あなた、元気な男の子よ」


「あぁ、そうだな。ロ二アスやフーネス、ミラルと同じく、これからが楽しみだ」


視界には、見知らぬ男女がいる。


(……外国、人? 女性は黒髪だけど……顔はどう見ても、日本人じゃないよな)


とりあえず体を動かそうとする大河だが、全く持って体に力が入らない。


「ほら、三人とも。新しい家族だ」


ゆっくりと抱っこで移動され、視界には新しく三人の幼子が現れた。


(新しい家族……体に力が全く入らない……えっ、そ、そういうことなのか!!!???)


漫画はあまり読まないが、最近はそういうネタの作品が有名という情報は頭に入っていた。

だが、現実問題として……死ねば、直ぐに第二の人生が訪れるとは思っていない。


(マジか……でも、どういう世界なんだろ)


視界にはチラホラとメイド服を着た従者がいる。

それを見るだけで、本当にファンタジーの世界なのか!? 

そう思ってしまうが、まだ自分が転生した世界はそうなのか、確証は持てない。


(別の国? とかなら、まだ頑張ってカバディのプロを目指したいな)


生まれ変わっても、夢中だった競技に即目標を定める大河だったが……第二の生を受けてから一週間以内に、転生した世界が普通の世界ではないと解ってしまった。


(さっさと乳から離れたいな~)


母親が美人なだけに、大河……改め、クランドは離乳食になるまで毎日同じことを思い続けた。


そして、つい最近まで生活していた正解とは全く違う世界に転生してしまったことを悔いていたクランドだが……モンスターという存在を知り、生まれて一か月も経たないうちに新しい目標を持った。


それは……強いモンスターを#単語__狩る__#カバディ。


カバディの起源は既による狩猟。


転生前の世界ではそんな恐ろしいこと考えられないが……この世界でなら、それが出来る。


「クランド、これが槍だ」


そう言われて、三歳ほどまで成長した頃、父であるオルガから木製の子供用に調整された槍を渡された。


クランドが生まれた家……ライガー家は、槍を扱う名家。

というのが、世間一般の認識であり、当主のオルガや……令息のロ二アスたちも既に槍の名手になるため、日々訓練に励んでいる。


(……まぁ、これはこれで頑張るか)


クランドの目標は、素手で強敵を倒すこと。

とはいえ、こういった世界に転生したからには……生の武器にも当然興味を持った。


なので、渡された槍の訓練に時間を多く使うようになったが……個人的に、これじゃない感を強く感じていた。


(やっぱり、俺は素手が一番ってことだよな)


それでも……自分だけ路線を外れるのは良くないと思い、素手での戦闘訓練は続けながらも、槍の訓練も並行して行う。

元が高校生ということもあって、今の内から努力しないと、後々苦労する。

それは深く理解していたので、訓練だけではなく読み書きや礼儀作法などにも精を出し、両親や従者たちからの賞賛を集めた。


将来有望な騎士になるだろう……そう期待を寄せる者が多かった。


だが、クランドは毎日槍の訓練を欠かさず真剣に取り組んでいたにも関わらず、五歳の誕生日を過ぎても……槍技のスキルを獲得できなかった。


スキルとは、才能の証明ともいえる……前世で例えるならば、資格に近い。

体は早生まれということもあり、順調に大きくなり……同年代の中では比較的大きい。


両親や従者たちも含め、クランドは長男のロ二アスと同様に、五歳という若さでスキルを獲得するだろうと思っていた。


「クランド様なら、時間の問題ということだろう」


従者たちはそう口にするが、六歳……七歳、八歳と歳を重ねても、一向に槍技のスキルを習得出来ない。


一欠片の才能も持っていないのか?

両親であるオルガとエリカ。そしてライガー家に仕える兵士や騎士たちも、決してクランドが能無しだとは思えなかった。


訓練は五歳の誕生日を過ぎてからもサボることはなく、技術力も着実に向上している。

なのに……いつまでたっても、槍技のスキルを習得出来ない。


ダニ夫人であるレイナの子供である次男であるフーネス、長女のミラルも既に槍技のスキルを取得している。

自分だけ仲間外れ……そう思える状況が続く中、クランドが九歳の誕生日を迎える数日前……それは起こった。


そう……願いに願い続けたスキル……カバディを得たのだ。


この件に、当然だがクランドは大盛り上がり。

歴史上、そんなスキルを持つ者は一人もおらず、存在しない。

半ば諦めかけていたが、そろそろ九歳の誕生日を迎えるといったタイミングで、念願のスキルをゲット。


クランドのテンションは最高潮に達したが、当主であるオルガのテンションは奈落の底に叩きつけられた。

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