退廃

「……」


 楽観主義を標榜するつもりはなく、ベレトが城へ籠城しようと俺を召喚してまで、バエルの触手から逃れたいと願ったのは合点がいく。ただ、肩身を狭く生きるより、アレを異世界から取り除いて過不足ない未来を享受したい。


「大丈夫ですよ。きっと」


 自信に欠いた雰囲気を纏ってしまったのだろう。アイは俺の肩に手を置いて、励ました。


「……先ずは目下の問題を解決しようか」


 手始めに取り掛かるべき行方不明者の如何を詳らかにし、バエルに報告したい。


「あのーすみません」


 胡散臭い笑顔を浮かべながら聞き込み調査を行うドラマの警察官に倣い、俺は慣れない薄ら笑いを作り、村人の機嫌に阿る。


「なんだよ」


 ついさっきまで畑仕事をしていたであろう男は、爪に土を詰めて俺の問いかけにあからさまな不機嫌な態度をとった。


「この村で人が消えるといった話を伺ってここに来たんですが」


 要件をあけすけにし、男から証言を授かる為の土台作りに励もうとすると、俺と男の間にアイが割って入った。


「魔術師です」


 手っ取り早く信頼を獲得するには、講釈を垂れるより身分を明かした方が互いにとって、無駄な時間を過ごさずに済む。アイの過不足ない援護射撃で、男はバツが悪そうに頭を掻きだして、悲しげに俯いた。


「見て分かる通り、こんな小さな村で生涯を終えようとするのは、もう既に人生の折り返しを過ぎたような老いぼればかりさ」


 俺はどの表情が適当か分からず、真一文字に口を結び、出来るだけ神妙な面持ちを形成し、男の自虐的な吐露に耳を傾ける。


「もしおれが今より若かったなら、この村での生活を不足に思い、何も言わずに出て行くかもな」


 男は、行方不明者はあくまで自分の意思で姿を消したと推測する。だとすると、バエルが俺達を駆り出して事態の収束を図ろうとしたのはお門違いだったということになってしまう。


「……ありがとうございました」


 甲斐甲斐しく頭を働かせる為の補助に、顎に手を添え、ブツブツと独り言を吐き、上下左右に視線を泳がせる。「思案」という看板を全身で表現しつつも、頭の中はこざっぱりとしており、両手を上げて降参を告げたい気分だった。村の中で目敏くいればいるほど、行方不明者を閑却に扱う村の雰囲気を嫌悪した。


 夜の帳が空を覆う前の、地平を赤く染色する僅かな切れ間は、物憂げに浸るのに即した。


「今日は収穫なしだな」


 寂れた村の手応えのなさに、俺は城へ戻る合図としてアイの右手を握る。徒労に終わるかもしれないバエルからの指令を憂うかのような夕暮れを背負って、ここからでも目に映る城の影に向かい、宙で抜き手を切る。風をあやなす鳥の羽ばたきを目と鼻の先で捉えると、筆舌に尽くし難い幸福感が醸成され、自然と溢れる笑みを城に戻るまでの間、ひとしきり味わった。

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