・第3集【それは冷戦から始まった~赤狩りと英雄自警法が時代を決定した~」

「皆で団結し単純に右ストレートで悪党と敵を殴っていれば良かった時代が終わり、それに加えて左フックでスパイや裏切り者……そして反体制派も殴る必要がある時代が始まった。黄金時代ゴールドエイジは終わった。そう思っていた。左フックで片付く白銀時代シルバーエイジも終わる時が来るとは思っていなかった」

(白い騎士装束を纏うアメリカン・ヒーロー、ゴーストクルセイダー曰く。自宅地下の拠点・クルセイダーキャッスルに残した日記代わりの映像より)


 至極単純に英雄と悪が戦っていたと認識されていた戦中から戦後にかけてのゴールドエイジに、冷戦と反共産主義運動という最初の葛藤が生まれたのが戦後アメリカのヒーロー界でした。


 イライアス・ウォルター議員の提言による大規模な赤狩りにより、ヒーローもまた反共産主義である事が求められたのです。


(議席で熱弁を振るうイライアス議員。コスチューム姿で身を縮こめるようにして席に座していたヒーロー達が、次々と自分は共産主義者ではないと宣言していく)


 実際に共産主義陣営と接触を持ち過激な活動を行っていたとされたヒーロー集団、ECチームがこの時代【最も高潔】と称されるソルジャーステイツと並ぶ筆頭級ヒーローの一人と目されていたゴーストクルセイダーに捕縛された事を切っ掛けとし、ヒーローは国家に登録し、共産主義者ではない事と祖国・民主主義・資本主義・自由主義への忠誠とその守護を誓うべし、そう定める英雄自警法ヒーローコードが制定され、それに従うかどうかが大問題となりました。


(数珠繋ぎに縛られゴーストクルセイダーに連行されていく動物の着ぐるみじみた装束を纏うコレクター、海老人間ロブスターマン、童話を思わせる姿をしたグリムマンなどECチームの面々)


 アメイジングマンの系譜を継ぎ第二次世界大戦を戦った者が多い、アメイジングマンの衣鉢を継ぐ者という意味を込めてその本名ディ・シィから取られた名簿の名前から【ディ・シィ・コデックス】と呼ばれる者達が主に政府に従いましたが、この際大戦の英霊たるヒューマンライトのメンテナンス担当だった技師にして多くのヒーローを鍛え上げた【師匠マスター】マイリー・スタンスに育てられたこの時代【最も強い】と見なされていたヒーロー、マーベラスマンが自由・自主・自立・政府権力強化反対を唱え下野し、法的にはスーパーヴィランとして扱われる非合法ヒーローヴィジランテとなりました。彼等自身は自分達を反撃者レジスタンスと呼称し、これに従った小数のヒーローは【マーベラス・コミュニティ】と呼ばれる緩い連絡網を構築しました。


 当初あくまでディ・シィ・コデックスが圧倒的多数であり、マーベラス・コミュニティは少数派でしかありませんでしたが、この状況は60年代以降、公民権運動とベトナム戦争の中で変化していく事になります。


「もしも鉄人の生徒達スターリンズスチューデントが……超人スパイが存在しなかったら、ニコライ・フルシチョフが政権を取った事による若干の緊張緩和デタントは期待出来たかもしれません」

(冷戦終結後、当時を知る高齢のソ連元高官が語る)


 第二世界大戦後いち早く超人の国家管理に着手したソ連。スターリン死後の権力闘争に勝利したのは、鉄人の生徒達スターリンズスチューデントと呼ばれる国家所属超人達の管理をヴィサリオン・スターリンから引き継いでいた秘密警察長官パヴロ・ベリヤでした。


(スターリンの葬儀で演説を行うパヴロ・ベリヤ)


 冷戦終結後に明らかになる彼が秘密警察を率い・また個人的にも行った数々の非合法殺人行為、ソ連最悪の時代の到来でしたが、対外的にはそれは明らかに成りませんでした。


 それらの影には【組織ソサエティ】の存在がありました。第二次世界大戦時における【メトロポリス】によるドイツへの干渉だけでは無く、ソビエト成立にもまた【組織ソサエティ】の影があったのです。


 【組織ソサエティ】。嘗ての犯罪王国や犯罪帝国より遙かに巨大な、世界中を覆う悪のネットワーク。ある時はスーパーヴィランや怪人を後援し、ある時は革命家やゲリラやテロリストに力を与え、ある時は独立戦争を助けある時は内乱を助長した、様々な悪の超人達の集団。


(歴史の中で目撃されてきた、様々な【組織ソサエティ】の構成員達。アメリカンスーパーヴィランの姿をした者や機械の体を持つもの、怪物じみた姿に変身する者まで様々。その姿や超人能力は様々であるが、共通点として正体を露にした時紋章を刻んだベルトバックルを着用している事が挙げられる。この紋章は雷蛇紋と呼ばれる雷の如く抽象化された蛇を象った紋章を基礎としてそこに各支部毎に異なる様々な独自の意匠を加え二つの紋章を組み合わせたもので、追加の紋章としては日本支部ジャパンブランチの旭日色菊花紋、中露支部ユーラシアブブランチの星槌鎌紋、大西洋支部ユーラメリカブランチ北米支局アメリカユニットのペン先剣紋、同欧州支局ヨーロッパユニットの歯車塔紋等が知られている)


 機械の軍団を作るもの、人体を改造し超人を目指すもの、理想の為に人類を別の存在へと改変しようとしたもの、新たな支配種を作ろうとしたもの……


 この一見バラバラな【組織ソサエティ】の行動、各地の支部が殆ど別々の組織の如く平然と矛盾した活動を行う性質から人類は長らく【組織ソサエティ】の存在を正しく捉える事が出来ず、時に民族自決に絡み時に世界の危機を作り出す事から、今でも各国の【組織ソサエティ】に対する認識は必ずしも一つと言えない所があります。


 そんな冷戦時代の戦略において重大な要素が二つありました。核兵器と超人です。


(核実験の映像、核ミサイル、そして米軍・ソ連軍の超人兵士部隊達の行進)


 核兵器は抑止力を担い、冷戦がもし破局を迎えた時の最終的な手段でしたが、他国に潜入出来る超人は、発射前に核兵器を破壊できる手段でした。キューバの国家元首でフェルナン・カストロ議長と友情を結んだ革命怪獣ゲバラーのように怪獣が国家所属超人の代わりを務めた例もありましたが、国家所属怪獣はそういった潜入は不可能であり、より防衛的な存在とされていました。少なくとも、その当時は。


 そして第二次世界大戦において超人戦力の優越とその有用性を誇ったアメリカ合衆国でしたが、戦後、新たな超人の登用が急務となっていました。ヒューマンライトとアメイジングマンの喪失に加え、一度超人化した者は死なない限り成長する事はあっても老いる事は緩やかとなるとはいえアメイジングマンの血を使った超人輸血により大量の超人を作る方法をアメリカは喪失していたのです。


 それ故に各国は超人の確保に躍起となりました。アメリカはヒューマンライトを分析して得たデータからの機械改人サイバー機械鎧人パワードスーツの製造や超人輸血無しで超人輸血と同等以上の超人変化を起こす技術を模索して秘密裏に特殊放射線や薬物を用いた非人道的な実験を行い後の先天変異超人ミュータント時代を招き、【組織ソサエティ】の隠然たる支配下にあったソ連や中国においてはアメリカと同じ薬物や特殊放射線や機械に加え超心理学・魔術・秘術的異常訓練・超古代遺産発掘まで含めたより野放図な超人開発・在来超人狩りが猖獗を極める事となり、英国は戦中に【アルファベット】初号機のQを獲得していたのでその後継機を生産しながら次は核兵器の取得を意図し、フランスは核兵器開発と平行して薬物強化人間ヴェルリクスを開発。


 とはいえ英米による超人開発はあくまで戦中に於けるアメリカから供与された技術からの後追い的なものが殆どで数も少数でしたが、それとは別に科学結社メトロポリスの衣鉢を引き継いだ組織ソサエティ大西洋支部ユーラメリカブランチ欧州支局ヨーロッパユニットと大日本帝国の研究や高天原ラ・ムー・リアの遺産の一部を引き継いだ組織ソサエティ日本支部ジャパンブランチが、独自技術による超人開発の系統樹を発展させていく事になります。


(日本の国会議事堂の映像)


 そんな中、核兵器も超人部隊を持たないのにやたらといる在野超人の数だけで超人数が米ソに次いで多くなっていく日本が国際的な駆け引きと謀略の焦点となり、そして、後日米新安全保障条約において英雄自警法ヒーローコードの日本での施行が最大の政治問題と化すのです。

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