第三章 霞ヶ丘小女子児童自殺騒動24

 チャプター41 それから。


「どうしたんだい。浮かない顔して」

 愛が心底嫌そうに俺を見た。いや、見ているはずだ。ここ最近、こいつはずっと教室に顔を見せているからな。察してくれてるだろうってことは見なくとも分かる。

 新しい担任、

 元町先生の後釜の冴木硝子先生は、元町先生と違い結構、いやかなり厳しかった。愛は毎日保健室から引き摺られるようにして教室へとやって来る。四組ではもう見慣れた光景になっていた。

 そんなことはいい。

 問題は、これから起こるであろう災厄。

「それでは転校生を紹介します」

 そんな俺の気持ちも虚しく、冴木先生の冷たい声が教室に響く。

 扉が開いた瞬間、教室内の空気がざわつくのが分かった。

 じわじわとじわじわと、びっくりするほど鮮明に、昔経験したことが二重写しになっていくかのような錯覚に……錯覚だったらどれほど良かったろう。

「かわいい子だねえっ!」

 愛が大きな声を上げた。普段教室にいる時は決してあげないであろうボリューム。けれどそのボリュームも、今は他の子たちの声に紛れている。

 比較的容姿が優れている愛から見てもそうなのだろう。俺から見てもそうだった。クラスメイトみんながそうだった。

 たぶん、元町先生も――。

「あの子が、どうかしたのかい」

 隣に座る愛が唇を寄せ聞いてきた。

「どうかしたんだよ」

 口にするのも憚られるような、その事件の名は。


「転校生争奪戦争」


「なんだい。その馬鹿みたいな名前」

 チラリと顔を上げると、愛が小馬鹿にした表情で俺を見ていた。

「実際、馬鹿みたいな話だったんだ……」

「はじめまして」

 その声で、黒板に顔を向けた。

 転校生が立っていた。

 きらりと光る、眩いばかりの笑顔を輝かせ。

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