終わる年と終わらない話
上海X
続くはかない勿忘草 上
あけましておめでとうございます。
大晦日に書いてるからフライングしたみたいになってるけど備忘録です。
年単位でしか書かないから書き方を忘れるって言うね。
今年はサロンが終わり研究室にも慣れ、就活が待ち受ける年。相変わらずの波乱万丈、とは言い難い(?)けれど忘れないように書いてきます。
今年の元日にあったことと言うと一番に浮かぶのは、当然ながら地震のこと。
テレビ越しに凄惨な光景を見て、思わず絶句した。
そんなことは実際の惨状を見てからいいやがれ、と言う人も現れるだろうから、深くは言及はしない。
それ以外、正月はそこまでの波乱は起きなかった。
二〇二三年にやっていたサロンが終わり、運営を担う方へと勧誘を受けていた。
サロンの中の人々とは友好な関係を築くことができていたものの、ふとした拍子で行かなくなったことを覚えている。
ゲーム会社に就職する。
それが当面の目標だった。
そのためにサロンに入り、知識を身に着けゲームを製作した。
それもサロンが終わるとぱったり手を付けなくなり、自作のゲームを作る機会がなくなった。
二月、三月と長期休みの日が続く。
学期終了のお疲れ会や、趣味に走り東京へゲームのコラボカフェに行ったりなどがあったものの、特段刺激のあることはなかった。
「皆院進だもんなぁ」
「研究室良いし」「就活したくないし」「成績良いし」
「俺だって成績はギリ良いわ」
「でもなぁ、もう推薦の募集はとうに終わったから、今からだと一般じゃない?」
「そもそも、そこの研究室院進する人居て良いのか……?」
「うっ…………」
酒の席でそんな会話をする。
正直な所、今の状況で就職できるとはあまり思っていなかった。
単純な技術不足に加え、一番入りたい企業が中途採用しか行っていない。しかもプログラマーは募集していないという散々な状況。
だからといって軽々しく院進だ、と舵を切るのは難しい。
私の研究室は、私が大学を卒業すると同時に教授が辞職してしまうのだ。
そもそも院進を考えていない学生が所属したというのもあり、困難を極める。
それに学費や生活費の面もある。これ以上親が出してくれるとは思えないし、院進ができたとて就活の時期がほんの少し先送りにできるだけだ。
それにどれだけのメリットがあるのか、結局意味のないことになるのではないか。
その時の苦悩は今でも覚えている。
「…………まぁ、ちょっと色んな人と話してくる」
「だからって俺を呼んだわけか?」
「なんかメンブレ中だから」
三月の末。
最低限の就活と、院進の想定をしながら親友と会っていた。
Eは高卒で既に働いており、実家の近くに住んでいる生来の仲だ。
どれだけ精神が病んだとしても、精神的支柱としてEがいてくれる。
勝手に俺が頼り切っているだけだが、それだけで良い腐れ縁のような存在だ。
「なるへそな」
「もう仕事があるお前が羨ましいよ」
「最近は上司をぶん殴りたくなるけどな」
人生相談をしに来た訳では無い。
ただコイツと話して、気分をリフレッシュするためにわざわざ互いの少ない時間を共有した。
「…………ま、好きなようにやれや」
「投げやりなのかよ」
「どの口で」
桜の花が綺麗な、昔遊んでいた公園を、なんともなく歩いた。
それが、四半期のことだった。
――――四月。大学四年生。結論から言うと、色々なことに決着が着いた年だった。
とある日の実家に帰って行った時のこと。
意を決して大学院への進学を検討していることを話す。
「……そう」
「金銭の工面は自分でするし、大学院の勉強もこなす。就職で有利になるのは絶対に大学院だし、今のままじゃ行きたい企業に就職できない」
当初は大学院の進学なぞ微塵も想定していなかったろう我が親。
いきなりそのことを言われたことで少し驚いたような素振りをしていた。
ウチの家族は私以外全員私立大学に通っていたこともあり、国公立の学費の少なさに意外性を持っていた一面もある。
その上、私の父親は六年制の大学に行っていた。六年の在学は異を唱えることはなかった。
「……それだったら、学費は出すよ」
「ただし、生活費は完全に自分で工面すること」
「…………っ! わかった」
それで、第一関門は突破した。
思ったより拍子抜けだったというのが所感だ。
そんなことなら初めから……と言いたい所ではあるが、今更な話だ。
「なるほど。じゃあまだ可能性はあるわけか」
「そうとは言っても、まだまだ問題があるからな……」
Aと食事をしながら、それらのことを話す。
学費の工面を押し切れた理由としても、Aが腐るほど稼げているから、というのを利用させてもらっていた。同じ境遇の誰かができるのなら自分もできる、と言えば親も合意はできるだろうと踏んだのだ。
「そいえば、SNSで新入生たちと、どこかリアルで話す機会を作ったんだけどどうする?」
「あー……。なんか言ってたな」
これまで使用していたSNS上で、当然ながら新入生がやってくる。早くもAは色々と情報を掴んでいるそうで、私にもと教えてくれた。
「それって他学部も他学年もってこと?」
「まぁ、当然」
「割と面白そうではあるけど……ほら、SNS上って言うとアイツがいるじゃん?」
「アイツって……あぁ」
アイツと言うのは、私の元彼女である。
自由奔放で神出鬼没な上、険悪な仲であるため、可能ならば会いたくない。それに、向こうには今新しい彼氏がいると聞いた。当てつけばかりに何を言われるか分かったものじゃない。
「今のところは来る気配はないな。参加のコミュニティにも載ってない」
「…………まぁ、機会があったら見に行くだけ見に行くわ。参加の枠にも載せなくていいよ」
「了解」
まぁこういったことは往々にして悪く当たるわけで。
「やっほー☆」
「げっ…………」
本当に、なんで本当に気まぐれは悪く当たってしまうのか。ほとほと呆れる。
瞬間、Aの方を覗いた。
「なんでさ!? 来る気配ないって言ってたじゃん!?」
「なんか今朝見たら入っててさぁ。つか、それを言うならお前こそ」
「っぐっ…………くっそ」
「つかなんでお前は来たの」
「タダメシ欲しさに」「なんだコイツ」
金欠にとって学食は高い癖に量が少ない。
それに、学食の前でそんな輩が集まっていれば、中々一人で入るのも微妙な感じがしたのだ。
そして、こちらの気なぞ一切関係なく、元彼女は寄ってくる。
「ねぇねぇ! 久しぶりだね」
「………………」
「話そうよねぇ。ほら」
「………………なぁ、帰っていいか?」
「お前が始めた物語だろ」「順当」「妥当」「残当」
「くそどもめ。俺今日オンライン面接もあんだけど」
「へー!! どこの企業??」
「うぜぇ……」
思えばこれが、諸悪の始まりだったのかもしれない。
最悪な別れ方をしたのは、事実だけど。
どれだけ面の皮を厚くして生きているか知らない癖によくもまぁ剥がそうとしてくることだ。
それから元彼女はずっと俺の隣に鎮座しており、新入生とのコミュニケーションの場を奪われたと言っても過言ではない。
まぁそもそも、こんな修羅場まがいのことをいきなり新入生の前で繰り広げるのも間違ってはいる。
面接の時間も差し迫り、昼飯(菓子類)も奪えたため、頃合いを見て帰ろうとした。
「帰る」
「私ついてくことにするー!」
「お疲れ様」「骨は拾うわ」「肉しかねぇだろ」
「…………はぁ……」
「楽しかったね」
「はいはいそうだな」
「あ、図書館寄って本返さなきゃだからちょっと待ってて!」
「…………」
ぱたぱたと走っていき、ソイツは図書館へと入っていく。
別に俺が待つ義理なんて全くないのに。
なんで待ったのか自分でも分からないし、なんで共に帰ろうとしたのかも全く分からない。
「…………馬鹿め」
「ただいま! 帰ろ」
「…………ん」
これ以上のことは、別のものに記してある。
それから面接が終わり、少しだけ気分が晴れた後のこと。
「だぁもうつっかれたぁ!! 誰かと一緒に外食してぇ」
一人悲しく部屋で叫び、物寂しく思う。
Aに連絡を取って、私の奢りで鳥貴族へと向かう。
「昼ぶり〜。生きてた?」
「死んでたけど生き返った。面接で当たった企業との人と話弾んで気分めっちゃいい。多分二次は確定」
「おおおめでとう。マジで奢りでいいの?」
「食え食え〜!」
財布の紐はゆるゆるで、サシでそれまであったことを話す。歓迎会がその後どうなったのかも聞いた。新入生がとにかく怯えてなくてよかったよ。
「…………? 何見てん?」
「SNS」
「なして?」
「今お前の元カノ近くにいるってよ♪」
「…………は?」
なんとたまたま行った外食の店の周辺が、ソイツの今の彼氏の家の近くだったそうで。
本当につくづく運の悪いタイミングで近くを歩いていたそうだ。
「い、いやいやいやいや来ないだろ!?」
「来ねぇかなぁ」
「それどっち? なぁそれどっち?」
「まぁとりま酒飲めよ」「おい話」
SNSに挙げた最後の晩餐は、顔の知らない人たちに目を付けられた。流石に来なかった。店の前は通ったらしい。
「飲んだなぁ」
「これ俺帰ったらアイツ居るとかないよな??」
「酔いすぎ。でも否定できねぇ」
勘繰りすぎも十分に、無事に家に帰った。
アルコールの入った状態でSNS上でボイチャを繋ぐと、そこで更に修羅場が繰り広げられたのは言うまでもない。
色恋沙汰は本当に迷惑なことだ。
色々ともやもやを抱えたまま、ひとまずは研究室の先輩や教授に院進の可能性を伝える。
「おぉ……そうか」
まぁ……当然の反応でして。
申し訳なさを満面に出しつつ、そう告げる。
元々院進の予定など無かったのだから。
だが、 二人とも私に対して嫌な顔などはは全くせず、許容してくれた。
「ははは。俺が誘っちまったみたいになっちまうけどなぁ」
「まぁでも僕がそもそも院進してるんでっ、今更ですよ」
「他(の教授)が何て言うか分からんが、今からなら一般だろう?」
「っはい。……本当に良いんですか?」
「親御さんとの相談はしてある?」
「はい、それは大丈夫です」
「なら、あとは一般に向けてやるしかないなぁ」
教授にとって、最初で最後の一般入試を受ける学生らしい。まぁ研究室に入るレベルを考えると当然の帰結か。
偶然にも、私の先輩は院進を予定していた。というか、既に大学院に入っている。
なんの偶然か、前例はあり、環境は整っていた。
運が良いといえばそれだけのことだが、それでも一縷の希望に縋る時の全幅の思いは代え難い。
教授が出ていって少しした後、ふと私は先輩に問うた。
「先輩はなんで院に進んだんですか?」
「僕? 僕はね、やらずに後悔するよりかはやってから『あぁ、やらなければ』って後悔した方がマシだったからかな」
「……なる、ほど?」
「僕は元々君等と二年違う計算になるんだ」
どちらかと言うと、今の発言の方に驚く。
「勿論、親との相談もあるし金銭的な面もあるよ。一筋縄じゃいかない。だって結局大学院でも授業はあるし研究あるし学会行かされたりでメンドい。でも、今しかできないなら今やっておくに越したことはないからさ」
本当に、今の研究室に入って良かったと心の底から感じている。
大学院に進むに必要なことは、親と教授の説得が済んだだけで、実のところやっと土俵にたったに過ぎない。
一般入試に必要な要項は、TOEICの点数と研究成果の発表。目下可能なことは、英語の勉強だった。
それらを親に伝えに実家に帰る。
すると、親は少し怪訝な様子で相談を受けた。
「…………次姉のこと、聞いた?」
「? 何も聞いてないけど」
急な話題の方向転換に悪い予感を感じながら、私は両親から次姉の容態を聞いた。
結論から述べると、それは双極性障害――――躁鬱というものに罹ったらしい。なんでも今付き合っている彼氏が同様の例を発症しており、うつされたとかなんとか。
「アイツがかかるとは思えんけど……」
「そう思うでしょ? でもほら、これ」
「……?」
写真に写っていたのは、はっきりと診断を受けた結果の書類。四月の半ばから休職届を出しているらしい。
兄弟間での連絡なぞ年に一回あれば良い我が家系では、そんなこと知る機会なんて指で数えるほどだ。
「まぁ放置したって大丈夫でしょ。いきなりケロッと回復してるかもしんないし」
「そうかなぁ…………」
無駄に考え事を増やしたくないのもあったが、それでも親心は払拭できないらしい。
『連絡来たらこっちもケアする』とだけ伝え、私は会話を閉じた。
五月―――――GW。京都と山梨の旅行。
雨の中、またもゲームのコラボイベントに参加し京都市内を歩き回った。
並行して、研究と院試の準備と就活を行う。
特段語る事項はないとはいえ、五月の下旬に行った東京以降、その年は東京に行くことはなかった。
「ゼミを休んで就活のために東京来たけど、やっぱ夜行バスの直後は朝風呂だよなぁ……っ!
硬くなった身体に沁みるぅ……!」
有明にあるほぼ二十四時間営業の温泉を見つけた。多分この先もリピートすることになるだろう。
六月、七月は延々と英語の勉強。
五月までは就活をしながら〜などと考えていたが、軽い気持ちで見事に玉砕。若干トラウマになりかけたよ。
「…………ふぅ、TOEICのテストも終わった。少しずつ始めてたゲーム制作も良いペースだし、小説も少しずつ軌道に乗ってる。あとは中間発表用の資料を――――――」
その時、次姉からの連絡が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます