求めあい惹かれあう

「もー早く死んでよ!!」

「なに物騒なこと言ってんだ早く寝ろ」

「その前に死ぬ! もういいから!」

「なにがもういいだ。時間見ろって、ド深夜に俺の部屋に来るな鬱陶しい」

「こう見えて僕仕事中なんだよ!?君が死んでくれなきゃ僕困るわけ!」

「やかましいわ! 大体そろそろ死ぬってわかるなら余命くらい聞いてるだろ!?」

「それ教えてくれなかったんだよ!」

「なんて半端なんだ大天使様ってやつわ……」


 こんな深夜も深夜。夜の帳も二度くらい落ちたであろう深夜に言いあっている相手は自称天使。

 パソコンでゲーム中の俺の視界を、手を伸ばして邪魔してきた。お前はペットかとつっこみたくなる。

 あれからと言うもの一週間経ったか経ってないかくらいの間。心の底から腹立たしさを感じるが何か問題が起きるなんてことは避けたいわけで、彼を俺の家に泊めることにした。

 お風呂にも入らずトイレにもいかず飯も睡眠もとらずこいつはずっと俺のそばにいた。

 いやまぁさすがにお風呂には入れたしご飯をあげたら普通にトイレにも行った。ご飯は取らなくてもいいと言うだけで、食べたら人間と同じように胃で消化されて腸で水分を抜かれて……となるらしい。

 初めは三日間何も食べずにいた。だがずっと元気な彼を見ていると科学的に事を考えてしまう俺からすれば気持ち悪く感じてしまいほとんど無理やり食べさせた。

 こいつはどんなことも幸せそうにするので正直見てて飽きない。

 天使を名乗ること以外は普通の天真爛漫な少年のようだった。ただ見た目は相変わらず真っ白だが。


「なんでまだ死んでないんだろ」

「普通どのくらいで死ぬんだ?」

「早いときはすでに死んでるか今際の時で、長くても三日か四日くらい」

「え、じゃあ一週間ちかく生きてる俺すごくね?」

「あのね?普通の人は自分が死ぬってなったらすごい慌てるんだよ?」

「はぁ?なんで?今から死ぬなんて分かんないだろ」

「どうせ科学的にーとかいうんでしょ?ほんとつまんないね君」

「人間皆つまんねぇよ」


 人間は現在、時間を遅らせる方法は編み出している。アインシュタインの特殊相対性理論の光速度不変の原理によるものだ。

 光の速さは変わらないため変わるのは時間と距離の方だというモノ。

 正直これも幻想的な話で信じることは難しいが、天使とか神とかよりは簡単に信じられるだろう。何より証明ができている。

 そして今現在よりも過去に行く方法を、人類はまだ見つけていない。俺はそもそもいけないと考えている。祖父殺しのパラドックスが生じるからだと俺は考察するが……

 まぁ因果はともかくできないものはできないのだ。だからこいつが未来を知るよしもなく……

 

「ねぇ、君さぁ」

「ん?なんだ?」

「もしも今すぐに死ぬ! ってなった時、何を願う?」

「なんだその無人島に何か一つ物を持っていくみたいな現実的じゃない質問」

「君が言うなら僕の存在よりも現実的でしょ?」

「確かにな」


 そう笑って見せる。

「今すぐ死ぬなら何を願う」と言う問題。考えたこともなかったが……


「単純に一発だけでもやりたかった……的な不純な事しか浮かばないな」

「ふーん……君にしては単純だね」

「どうも。純粋な高校生なら皆こんな感じのアブノーマルな願い考えるもんだろ?」

「まぁそういうもんだね」


 そういうと自称天使は俺をじっと見つめてきた。

 パソコンに目を向けていたが気になってしまう。


「なんだよ」

「僕、使ってもいいよ?」

「はぁ!?」


 そう言い椅子を彼の方に向けると、驚いたのか一歩後ろに引き手を後ろで組んで頭を傾げる。

 俺はつま先からなめるように彼を見ると彼は照れくさそうに眼を泳がせて後頭部を掻いた。


「え、お前男じゃないの?」

「いやまぁ天使って別に交尾して子孫を残すわけじゃないから男でも女でもないんだよね」

「え、じゃあどうなってんの……」

「どっちもあるしどっちもないよ?」

「しゅ、シュレーディンガーのちん……」


 そこまで言って俺は口を閉じる。

 俺は視界だけそっちへ向けるとすぐに目を泳がせた。


「え、お前……これまでに願った人」

「みーんなしてきたよ。ほんと、全員」


 その言葉を聞くと同時に後頭部を掻く。

 なんだか、そそのかされているようで変なことを考えてしまう。

 相手は天使。『神のご加護』が使える天使様なのだ。その気になれば俺の思考も読めるだろうし……


「アルミホイル……」

「アルミホイル?」


 その言葉を口ずさんだ途端、俺はため息をついて目をパソコンの方へと向けた。

 彼は不思議そうに首を傾けると目を瞬かせた。


「馬鹿馬鹿しい。俺はお前をそういう目で見てない」

「えー、連続記録達成ならずかぁ」

「あとその記録の一人になりたくない」

「え、言ってなかったら……」

「どうでもいいだろ!早く出て行け」


 俺はパソコンの方を向いたまま言う。

 視界の端に写る彼はにやにやと笑いながら楽しそうにドアの方まで歩いていく。


「ふーん、お風呂入ってくるね」

「は?お前風呂入らなくても……」

「君に不純な気持ちがないかの確認!」

「お前ほんと許さないからな?」

「嘘だよ!ま、僕的には全然オッケーなんだけどね?」

「もういい出て行け」


 俺はそういうと椅子から立ち上がり、彼の方へと向かった。そして無理やり肩を押して部屋の外まで出し同時にドアを閉めた。


「思春期だねー」

「俺よりも先に死ぬ覚悟をしとけ」

「ごめんごめんからかっただけだからー!」


 そう言葉が聞こえると俺はため息をついた。

 「死ぬ直前に願うこと」か……

 俺はなんとなく顎に手を当て悩むとゆっくりと椅子の方へと向かった。


「友達……」


 そんなことを呟くと俺はまたゲームを再開した。

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