第31話 フレのフレに会ってみた
「次は『聖都ハイディア』を目指せか……」
領主に報告を終えた俺はメインシナリオを確認していた。次に行くのはあの三騎士が戻って行った『聖都ハイディア』らしい。
と、そこへコールが入った。マリンからだった。
「アオイさ……ん! 今お時間宜しいですか?」
「ん? どうした?」
「友達も『Lunatic brave online IV』を始めたので一緒に狩りを手伝ってくれませんか?」
ふむ、なるほど。友達か……しかし、俺なんかじゃモンスターを倒すのも一苦労だし、役に立てるかどうか……
「まあ、良いけど……俺でいいのか? アンバーの方が……」
と、言いかけた俺に被せてマリンが答えてきた。
「アオイさんが良いんだったら是非!」
「まあ、だったら……」
「ありがとうございます!」
俺の答えを最後まで待つことなくマリンは感謝を述べてきた。コールが終わってすぐにマリンからパーティー申請が届く。許可をして確認すると、マリンも『セフトの街』にいるようだ。もう一人も一緒にこっちに向かってきているようだ。
まもなくマリンともう一人が俺の元へと駆け寄ってきた。背は俺より高く、緑色の長い髪の中性的な若い男性だ。ま、こういうゲームだし、中身は知らんけど。
「宜しくお願いします! ファーストです!」
勢いよく頭を下げて挨拶をして、男性はファーストと名乗った。好印象な青年だ。
「俺はアオイだ、こちらこそ宜しくな。で? 狩りって何をすれば?」
俺は早速本題に移った。狩りを手伝って欲しいとのことだった。俺に頼むからには理由があるのだろう。
「おんぶに抱っこで申し訳無いんですけど、この子『ビー』を狩りたいって……『はちみつ』が欲しいみたいで」
「ネット漁ってたら、『ビー』の『はちみつ』は『リバイブⅠ』の材料になるし、売ってもお金になるからって情報を見かけたので……お願い出来ませんか?」
マリンの横でファーストも俺に頼んできた。まあ、パーティー申請許可した時点で、俺が出来る限りは手伝うのだが……とは言ってもだ。
「なるほど。でも、マリンは良いのか? 『ビー』で」
マリンは攻撃が当たらずに凄まじく落ち込んでたばかりだ。下手したらトラウマになりかねないレベルで。大丈夫かな? と俺は心配し、マリンに尋ねた。
「え、ええ……私は役に立たないですけど……」
「まあ、ならいいか。じゃあ行くか」
と、俺たちは『セフト平原』の花畑まで向かった。
到着するとすぐさまファーストは杖を構えた。その様を見て俺はファーストに話しかけた。
「お、魔法職か?」
「はい! マリンはSTR極ですけど、僕はINT極で行ってみようって」
「初期魔法は買ったのか?」
武器は最初に杖を選べるが、だからといってすぐさま魔法が使える訳じゃない。杖を殴打する武器として使うことも出来るからだ。魔法を使う為には、魔法を購入する必要がある。
「それはマリンに恵んで貰って。それくらいのお金ならあるって」
まあ、店売りの魔法だし、そんなに高い訳じゃない。『はちみつ』を売ったお金で余裕を持って賄えたのだろう。
「初期魔法は持ってるのか。まあ、魔法によっては命中に補正があるからいいけど、魔法は魔法で難はあるぞ?」
『Lunatic brave online』では魔法によって必中のもの、そうでないものと二種類あった。特に初期で使えた簡単な魔法は武器とさほど命中率は変わらなかったはず。『Lunatic brave online IV』でも同じ可能性は高い。
「あと、命中もだけど、何しろ詠唱時間もあるからな」
そう、魔法には個々で詠唱時間が存在する。つまり使用してから発動するまでのタイムラグがあるということ。しかも、その間に敵に攻撃されたりして妨害されると、発動しなくなる。魔法の最大のデメリットはこれだ。『Lunatic brave online』ではなかなか難易度が高く、ソロは装備が揃った上級者やパーティープレイ前提だった。
「ええ、わかってます!」
と、勇んでファーストは『ビー』に魔法繰り出す。が、やはり『ビー』になかなか当たる様子はない。見たところ二割か三割くらいか。マリンよりは見込みはあるが、これでは倒すのも一苦労だろう。
「うーん……マリン! ちょっといいか?」
ちょいちょいと俺はマリンを手招きした。そして、近づいてきたマリンの耳元で小さな声で話しかけた。
「マリンの『殻の鎧』貸してやれ」
「え? 良いんですか?」
俺の言葉にマリンは驚いていた。まあ、無理もないか。
「アンバーには内緒だけどな。そもそも魔法にも《千発千中》が効果あるかわからんし、あってもマリンみたいに攻撃が当たらない可能性もある。そうなると効果があるかどうかの検証も出来ないけど。だからとりあえずマリンの貸してみて試してみたらって」
「わかりました!」
今度マリンがファーストの元に駆け寄って何やら話している。ウンウンと頷いている様子を見ると特に問題は無さそう。しばらくするとファーストは再度杖を構えて魔法を放つ。今度は先程より魔法が当たるようになっていた。とは言っても五割以上……といったところか。それでもファーストは飛び上がって喜んでいる。
「おー! マリン! ありがと! なんだこれ! さっきより全然当たるな!」
俺はウンウンとにこやかに頷いているマリンの横に立って、ポンッと肩に手を置いた。
「じゃあ、はい。『殻の鎧』」
「え? え? なんで?」
「アンバーには売るなって言われたけど、元々マリンには売ってないし知ってるんだから、マリンに俺がまた渡すのは文句は言わないだろ。で、マリンは別に止められてないし。俺がマリンに渡すのは自由。マリンが誰かに渡すのも自由。ほーら何も問題ない」
俺は肩を竦めてそう言ったけど、マリンは深刻そうな表情をしている。
「良いんでしょうか……だって3億……」
あー、仮にファーストがアンバーが3億払って《千発千中》を手に入れたと知ったら、マリンみたいになっちゃうかもな……
「あー、それは黙っておいた方がいいかもな。あと、絶対に公言しないこと。バレたら俺がアンバーに怒られちゃう」
「それは勿論言い聞かせます!」
「ほら、なら行ってきな!」
再度マリンはファーストの元へと駆け寄って何やら話している。俺はそんな二人を後目に『ビー』たちに向かって何本もの矢を放ったのだった。
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