第27話 山頂に足を踏み入れてみた

 マップを確認すると『アルデス山頂』とある。やはりここが、『アルデス山』の最終マップのようだ。


 中心には大きな岩が鎮座している。クエスト表を確認すると、どうやらあの岩の近くまで行かなければシナリオが進まないみたいだ。


 俺が指示に従い大きな岩にあと数メートルくらいのところまで近づくと、空気がざわめきだし、巨大な咆哮が辺りに響き渡った。

 すると、紫色の昏い雲がその巨大な岩に収束していく……


 周囲が晴れていくのと同時にその岩に亀裂が走りだす……そして、ピシピシと音を立てて崩れていく……


 ガラガラと崩れ、砂煙を上げる巨大な岩だったもの。その砂埃の中から段々と巨大な紫色のドラゴンが姿を表す。


 俺はその禍々しさはからそのドラゴンは聖なる存在ではないと直感した。


 ドラゴンが巨大な産声を上げる。それは先程まで聞こえていた咆哮と瓜二つだった。岩に封印されたドラゴンが出していた咆哮だったということなのだろう。


「おい! なんだこれは?」


 背後から人の声が聞こえ、振り返ると三人の人物が立っていた。三人とも顔が見えない兜を含めて全身鎧で装備を固めている。その出で立ちは騎士……と言ったところだろうか。


 三人は即座に駆け出し、俺とドラゴンの間に割って入った。


「ここは我らが引き受ける! 時間を稼いでいる間に早く逃げろ!」


 一人の騎士の叫ぶ声と共に、ドドンッ! と俺の目の前に画面が表示された。


『アルデス山頂から出ろ』


 逃走しろというイベント戦闘だ。恐らくこれもチュートリアルの一種なのだろう。ボス戦でもマップ切り替えポイントに達することが出来れば逃げて仕切り直すことが出来る。それを教える為のイベントだと思われる。


 知らなかったのか……? 大魔王からは逃げられない……


 みたいなことは『Lunatic brave online』には無かった。しかも序盤で実際にこういうイベント戦闘はあった。

 強制逃走イベントは逃げれば終了し、シナリオは進む。そういうものだ。このマップから出ればいいだけ。ただ、だからこそ俺にはやってみたいことはある。


 と、俺は一本の矢を番えた。


 やってみたいこと? それは抗うこと。ゲーマーなら誰もがやったことはあるだろう。

 様々なゲームで強制負けイベントといわれる物が存在している。それは負けることや逃げることによってシナリオが進む。と言った類の物だ。

 で、大抵の人間がこう思う。仮に勝ったらどうなのか……と。ほぼ全てのゲームで負けたと同様にイベントは進む。そんなのは誰もが知っている。それでもやるのがゲーマーとしてのsagaというもの。


 とある人は、序盤で緑色の髪の毛の召喚術士の『女の子』を倒す為に延々と『さいしょの村』付近で何百時間とひたすらにレベルを上げる。


 別のとある人は、とある牢獄で出てくる数ターンで強制的に眠らせてくるボスに、それ以前の地点からノーセーブでクリアしてクリア後にしか手に入らない特技を全員に覚えさせて挑む。


 そうやって乗り越えるべきでない壁を無意味に乗り越える。そんな人はゲームの世界に存在している。


 今目の前にはその・・強制逃走イベントが転がっている。ならやることは一つだけ。


「どうせゲームだし死ぬ訳じゃない。なら、やってみるだけだな」


 俺はそう呟いて番えていた矢をドラゴンに解き放った。

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