第11話
「ねえ、次はどうするの?」
ついつい楽しくなってきて、マリンソフィアは先を焦ってしまう。声にも新しい
「次はですねー、一番濃い色を、まつ毛のキワに重ねます。濃いめの水色が今回のカラーになりますね。細いチップで徐々に塗っていく方が塗りやすいのでおすすめですよ!!」
「ふぁわわ!!きれい!!」
「驚くのはまだ早いです!!」
そう言いながら、店員さんは次のメイク道具を取り出す。
「まずはラメ色を、下まぶた全体にのせ、涙袋をぷっくりさせていきます。その後、まぶたの上にも乗せます!!こうするころでお客さまのサファイアのような綺麗なお目々を、大きく印象的に見せることができます!!いやーん!とっても綺麗!!」
銀色のラメを乗せ終わった店員さんは、身体をくねくねとさせてマリンソフィアの目元を褒めた。いつもは、社交界のうざったい男どもにお世辞で褒められるくらいしか容姿を褒められないマリンソフィアは、下心なしに純粋に褒めてくれるのが嬉しくて、満面の笑みを浮かべる。
「これでアイシャドウは完成?」
「はい!次はまつ毛に移ります!!マスカラは髪と同じ白を使いますねー」
店員さんはうっとりとしていた顔をシュッと引き締め、メイク道具を手に取った。
「僕には感想を求めないんだね………」
「ーーーアルフレッドにはメイクが終了後に求めるわ。だって、途中経過を見られるのってなんだか恥ずかしいもの」
「………分かった」
変な理屈だが、始めてのメイク完成後を1番乗りで見せてくれるということだと認識したアルフレッドは、渋々頷いた。
「じゃあ、始めますねー。まず初めに、ビューラーでしっかりまつ毛をあげたら、マスカラ下地をまつ毛全体に乗せます!!こうすることでマスカラのもちや伸びがよくなります。簡単に言うと、メイクのもちが格段に良くなるってことです」
「そうなのね。社こ、………ごほん、お友だちの中にもよくメイクが崩れちゃっている子をよくみたのだけれど、そういうのはこういうし下地をきっちりとしていないせい?」
マリンソフィアは社交界の化粧がぐちゃぐちゃになったご婦人たちを思い出して、苦々しい思いで質問した。化粧お化けのおばさま方の中でも、化粧の崩れたおばさま方がマリンソフィアは1番怖かった。なんだか、顔面崩壊しているようにしか見えなかったのだ。
「しっかり見てみないことには断言しかねますが、下地をしっかりと作っていないせいというのもあるかと思います。メイクって素人がお勉強せずに見よう見まねですると、結構大変なことになることがあるんですよね………」
「そうなのね」
マリンソフィアは化粧お化けな中でも大嫌いな意地悪おばさま方のお顔を思い出して、
『あらあらまあまあ!お化粧の仕方すらまともに知らないのですわね。そんなことで、ご婦人が務まるなんて、あなたの旦那さまってとーってもご婦人に甘いのですわねー』
と嘲笑ってやった。散々貶してきた報復だ。身分がない平民がやっていいことではないと言われようが、実際にお口に出して言っていないのであれば、問題ないはずだ。
マリンソフィアはこれからも、彼女たちが化粧お化けでい続ける呪いがかかることを密かに願った。
「雑談はさておき、マスカラをしていきますねー。まず、マスカラををまつ毛の根元からしっかり重ねます。上ができたら、下にも重ねていきます。下まつ毛は縦にもって軽くのせていくと上手に乗せられますよ!!そして、キッドアイライナーをお目々の外側から目尻に向けて引いていきます。長さは伸ばさず、目の形に沿うようにしてください」
マリンソフィアは説明に対してふむふむと頷きたくなるのを耐え、じっと鏡を見つめた。
「下まつげの隙間は、ペンシルタイプライナー使うのが比較的良いです。濃くならないように、中心部分だけ引くことをおすすめします!!」
「へー、全部引いてはダメなのね」
「はい、濃くなりすぎるとあまり良くありませんから」
大きく頷いた店員さんに、マリンソフィアは優しく微笑んだ。やっぱり、何かに夢中になっている女性というのはとても美しくて眩しい。
「これで完成か?」
「いえ、お兄さんはせっかちですねー。でも、あと少しですよ、お麗しいお兄さん。お美しい幼馴染さんの姿を見て、さっさと跪いちゃってくださいなー!!」
「………うるさい」
「ふふふっ、可愛い幼馴染さんですね、お客さま」
「そうね。いっつも揶揄われてばかりで、本当に情けにない幼馴染ね」
耳を赤くしてプイッと横を向いた幼馴染に、マリンソフィアは『はあー』っと溜め息をこぼす。
「こんなに分かりやすい冗談を間に受けて恥ずかしがるなんて、本っ当に情けないわ」
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