プロローグ
時は1156年、
武士たちは
戦は
「なんじゃ、
「こいつは人間なのか? 奴の矢は盾すら貫く、鎧など無意味だ」
(なんという
「話にならぬ、これが平家の
「
今度は大声を上げて兄である
「兄者よ、こちらは
(何が神仏のご加護だ! 親兄弟で殺しあっているのだ、どちらも地獄行きに決まっておろう……)
しかし、先ほどの
それでも
(くそ、これ以上は持たぬか)
(もはやこれまでか……)
「為朝、もうよい! 其方は逃げよ!」
「何を言うか父上、ここで逃げれば戦は負けるぞ!」
「為朝よ、そなたも既に戦の結末はわかっておろう……。今更ながら、其方を遊女の子と蔑み、粗雑に扱ってきたことを詫びさせてくれ……」
為義はけしてよい父親ではなかった。
為朝を遊女の子として、他の子らとは同列に扱わず、為朝が13歳になると粗暴な性格を理由に九州に追放したが、実際は疎ましく思っていた。
そんな父親の本音に気づいていた為朝には、そんな為義の謝罪が意外に感じるのであった。
「父上らしくもない。そのような謝罪いらぬわ……」
為朝はクソ親父と思っていた為義の思わぬ言葉に目頭が熱くなったが、為義に見られないように顔を背けて強気な態度を取った。
「為朝よ生き延びて、いつか兄を頼れ……」
「おい、あのクソみたいな兄者を頼れだと!」
為朝は激高した表情で為義を睨みつけたが、為義は優しい表情で答える。
「あれは、源氏の棟梁に相応しい。戦も強く、頭も切れる。其方の強さを誰よりも認めているのは義朝じゃ。いずれ、一緒に戦う日も来よう。さあ、この場は父に任せて、早くいけ!」
為義はその場に踏みとどまり、迫りくる義朝の軍勢と交戦し、為朝が逃げるための時間を稼いだ。
「あの、馬鹿親父め……」
為朝は目から温かいものが流れているのを感じながら、西門内の奥に向かってひたすら逃げた。
そして、西門内に一番奥まで逃げ延びると一つのお堂が目に留まる。
(たしか、あのお堂にはたくさんの観音像が祀ってあったな……、あそこに隠れるか……)
お堂の中に入った為朝は何十体とある観音像を見て驚いた。
(これは圧巻だな。こんな場所があったなんて)
為朝が観音像を見ていると奥の方に光り輝いている観音像があるのに気づいた。
為朝が近づき、光る観音像の前に立つと急に空間全体が光に包まれ、目の前には優しそうな顔をした男性とも女性ともわからない慈悲に溢れた観音様が為朝を見つめている。
「其方は生き残りたいか? もし其方が生き残りたければ今から別の世界に行ってもらう。その世界を救うならば其方を助けよう」
観音像の口は動いておらず、言葉というより直接頭の中にメッセージが入ってくるような不思議な感覚に包まれる。
(不思議な感覚だ、温かくて安心できる)
「わかった、その世界を救おう、それ故、生かして欲しい」
為朝の言葉を聞くと、観音像の光の強さが更に増して、為朝は急に強烈な眠気に襲われ、意識を失うのであった……。
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