第82話 王子を探しに

 私は貴女の護衛騎士ですから。そう言って姫に害をなした者への報復を誓い、再度コーゼの城へと舞い戻る。

 姫をあのような目に遭わせた張本人、コーゼ王リーベガルドを探すためだ。

 姫の手前冷静を装おうとはしていたが、悔しさに憎らしさに全身の血が沸騰するかのような怒りを覚えていた。待っていろ。必ず私が、この手で。


 クラムに跨り、姫に負担をかけぬ様にと殊更ゆっくり進んで来た道を、今度は全速力で駆け戻った。

 姫との約束は七日間。コーゼの城からサポナ村まではどうやっても途中で夜を明かす必要がある。城にいられるのは三日というところか。

 急がねば。リーベガルドはどこだ。


 

 たどり着いたコーゼの城の周りはカミュート兵が取り囲んでいるが、城門の側に座らせられている者たちは、以前より減ったように見える。


「リーベガルドはもう見つけたか?」


「ま、まだのようです!」

 

 見張りに立っている若い兵にそう尋ねれば、緊張した面持ちで返事をする。

 馬に乗り、ジュビエールのマントを羽織った私のことを、自分より位の高い兵だとでも勘違いしたのだろう。どう見ても城で直接雇われた騎士でないことぐらいわかるだろうに、少々注意力が低いのかもしれぬ。


 若い兵士たちの様はシャーノもカミュートもそれほど違いがないか。喉の奥で笑いを堪えながら城門から城の中へと堂々と入っていく。

 城門をくぐり、庭へと入り、そこから城全体を見渡した。姫を探すときにナージャから聞いた話によれば、姫のいらっしゃった客室とは反対側が王族達の暮らす区域だが。

 その様なことは既に城に入った兵達もわかっているだろう。

 それなのに何故、未だに見つけられない?


 『私は下働き専用通路にでも隠れておきます。』姫さまを連れ出すときにフェリスに言われたその言葉が、記憶の中から蘇ってくる。

 下働き専用通路……まさかそこにいるのか。王族ともあろう方がその様な通路に?

 信じられないという思いと、そこしかあり得ないという思いが私の中で交錯し、考えがうまくまとまらない。


「下働き専用通路を探すか」


 ルーイが突然自信のあることだけを口にする様に、そう口に出した。私はそちらへ向かう。自分への、他人への意思表示のようだった。

 城内へと入り込み、通路を探すも簡単には見つからない。下働きの専用通路はそもそもわかりやすい場所には造られていない。主人や客人に見られぬように動くための通路だ。そのようなもの、普通の探し方では見つかるはずもない。

 私では想像もつかぬ場所にあるのであろうな。


 シャーノの城内に暮らしているときでさえ見つけたことはない。もちろんこれほどまでに必死な思いで探そうとしていたわけではないが。

 誰かに案内させるか。もしくは見取り図でもあれば。

 フェリス! そうだフェリスならば知っているか。通路に隠れると言っていたではないか。

 私としたことが、焦りで正常な判断がつかなくなっているようだ。姫と約束した期日までに、必ずリーベガルドを討つ。そのためには一瞬たりとも無駄にはできないというのに。


 闇雲に隠し通路を探していた私は、行き先を姫のいらっしゃった客室へと変えた。

 客室へと向かう途中カミュートの兵士とすれ違うが、彼らには別の指示が出ているのであろう。私のやることには見向きもせずにどこかへ向かっていった。

 なんとも好都合だ。私がやろうとしていることを、誰かに邪魔されるわけにはいかない。あの者を捕らえるのは、討つのは、私でありたい。

 隠し通路に隠れているのだとしたら、別の誰かに見つかってくれるな。私がそこにたどり着くまで、待っていろ。


「フェリス様! ご無事でいらっしゃいますか?!」


 客室について私は、扉を開け即座に大声で問いかけた。フェリスがどこに隠れているかわからぬ。声が聞こえる場所にいてくれれば良いが。


「はい。アイシュタルト様ですね。わたくしは無事です」


 フェリスの声だけが、室内にたたずむ私の耳に聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る