第25話 三人で
「コーゼ……また、攻めてくるんだろうか」
日も暮れかけた夕方。サポナ村の家へと戻った私たちは再び椅子に座る。全員分の食料を分け合って空腹を満たし、まだまだ話足りていないとばかりに、誰ともなく話題を持ち出していた。
「ステフ?」
「コーゼとカミュートの間でいつ戦いが起きるかわからないんだ。いつ始まってもおかしくないぐらい、険悪だって」
「ステフ、その話詳しく教えて!」
「兄さん、僕もよくはわかっていないんだ」
「そっか。そしたら、やっぱり情報収集だ」
「そうだよね。明日には僕も街で話を聞こうと思う」
「ステフ、私たちと一緒に来るか?」
「本当?! 良いんですか?!」
「あぁ。そうすれば、先ほどの様に犬に追いかけられることはない」
「うんうん。一緒に来いよ。獣はアイシュタルトが倒してくれるから」
ルーイが得意げな顔でそう言った。
「兄さん。兄さんは? 何してるの?」
「俺? 隠れてる」
はぁ。ステフがルーイの顔と私の顔を見比べながらため息を吐く。
「アイシュタルトは、それで良いんですか?」
「あぁ。それでいい。後ろで隠れておいて欲しいと最初に伝えてある。そうでなければ、守ることができぬからな」
ステフがルーイの真似をしながら、私の名を呼ぶことに、嬉しさを感じる。顔が綻ぶのを誤魔化しながら、そう答えた。
ふと、ルーイからの視線を感じる。そちらに目をやれば、ニヤニヤとよくないことを考える顔で私を見るルーイがいた。私の声が途中でうわずってしまったことに、何かを感じ取ったのだろう。
先ほどあの様に煽ったのは、やはり失策であったか。
「ぼ、僕は一応旅ができる程度には鍛えてあります! お役に立てるかわかりませんが、連れて行ってください!」
「戦うというのか?」
「はい!」
「ククッ。わかった。そしたら肩を並べてもらおう。ただし、無理はするな。手に追えないと思えば、すぐにでも後ろで隠れていろ。ルーイと共に、私が守ってやる」
ステフのその真っ直ぐな気持ちは、何とも微笑ましかった。犬程度からは逃げる必要がないぐらいには、剣を教えてやろうか。そうすれば、再び旅に出る時に少しでも役に立つであろう。
「わかりました」
「ステフも何か武器を持って旅してるの?」
「い、一応剣を持ってはいるけど……使ったことなくて。いつもはその辺に落ちてる木の棒とか」
「何故使わぬ?」
「重たいんです。一振りにかなり力が必要で、使わなくなりました」
「見ても構わぬか?」
「はい」
ステフが荷物の中から、一本の剣を取り出した。私が手にしてもずしっと重く感じるこれは、もっと大柄な男を想定して作られたものであろう。
「これ、買ったのか?」
「いいえ。元は商品の一つです。獣に襲われた時ように武器を探していたので、ちょうど良いと思ったんですが、まさかこれほど重たいとは思いませんでした」
「ステフの体型には合わないだけだ。街へ着いたら、新しいものを一本作らせると良い。木の棒よりは役に立つはずだ」
「でも……」
「偽物だと思っていた金貨を使えば良いだろう? それで十分だ。足りすぎるぐらいだ」
足りなければ私が出せば良い。私と離れても、自分を守る術を持たせておきたかった。
「ずるい! 俺も欲しい!」
「兄さん……」
「ルーイが剣を使うのか?」
「ううん。剣はいらねぇ。でも、何か欲しい!」
「ナイフを持っていたではないか?」
ルーイを捕まえた時のことを思い出す。ルーイはナイフを振り回していたはずだった。
「あれは! アイシュタルトに捕まえられて、どこかに飛んでいったよ」
「あぁ。そうだったな。それならば、ナイフを買えば良い」
「捕まえって……兄さん、何やったの?」
ステフの顔色が悪くなる。私たちの出会いを話してやろうか。いや、そうすれば兄の威厳が失墜するか。二人を見比べながら、笑いを堪えた。
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