ゴールデンウィークのご予定は?
「そういえば一年生諸君! キミたちはゴールデンウィーク、どう過ごす予定なんだ?」
部活が終わってみんなでフードコートに向かっている途中、部長こと川崎先輩が問いかけてきた。俺達一年生組は顔を見合わせる。
誰から言おう、的な雰囲気の中、最初に応えたのは山本君だった。
「僕は学校に残るつもりです。兄もそうするって言ってましたし」
「なるほどな。それじゃあ、ゴールデンウィーク中も部活に参加する感じか?」
「はい、そのつもりです」
うん? 「学校に残るつもり」ってどういうことだ? 全員そうじゃないのか? ……もしかして?
「え、ひょっとしてゴールデンウィーク中って実家に帰ったりできるんですか?」
「? そりゃあ、もちろん。せっかく一週間連続で休みなんだし、ホームシックな人は実家に帰るだろうな。この学校、ゴールデンウィークの中日も休みだろ? それは『特に一年生でホームシックになっている人が、一度実家に帰れるように』って意味なんだよ」
「へえー! そういう事だったんですね」
ゴールデンウィーク中に微妙に一日平日が混ざっている時、高校までは普通に登校日となる。しかし、大学では時として休校になったりする。(そもそも大学だと、授業があっても参加しない奴が多いけどな)で、社会人は当然中日も仕事だ。
それで、この学校の方針はどうかと言うと、なんと大学のように中日は休校日なのだ。初めは「ああ、フォルテメイアって大学も併設されてるしな」くらいに考えていたが、なるほどそう言う事情があったのか。
「そういう事なら、僕は一度帰りたいですね。家族に『元気にしてるぜ』って直接言いたいです。……あ、もしかして残った方が良い感じですかね? なにか部活関係でイベントがあるならそっちを優先します」
「ああ、いや。家族を優先して全く問題ない。特に部活でイベントをしたりとかは決めてないし。精々、魔法杯の練習的な事をするくらいだ」
「なるほどです」
「うーん、私も一回実家に帰りたいなって思ってます。やっぱり実家って寛げますし。宮杜さんは?」
「わ、私ですか。……。私は学校に残ろうと思ってます」
「そうなの? 実家、遠かったっけ?」
「ま、まあ。はい、そうです。結構田舎なので……」
「なるほどねえ」
帰るが2票、残るが2票か。
「先輩方はどうなんです?」
「俺は残るぞ」「俺も残るかな」「私も残るー」
川崎先輩はさっきの口ぶりからも予想できたように学校に残るらしい。で、山本先輩と宮崎先輩のカップルは共に学校に残るみたいだな。
ふむ、三年生だと残る割合が高いようだ。
「私も残るぞ。迷宮で特訓したいからな」
「え、加奈ちゃん残るんだ! 私は帰るかな~!」
桜葉先輩は残る組、暁先輩は帰る組か。
◆
その日の夜。俺は穂香とビデオ通話していた。
『あーあー? お兄ちゃん、聞こえてる?』
「聞こえてるぞ~。俺の声はどうだ~?」
『うん、お兄ちゃんの声も聞こえてるよ~!』
「おっけ。今日も何事も無く元気に過ごせたか?」
『うん、特に面白い事なく終わったかな……。あ、そういえばさ。今日、国語の授業中に塾の課題をこっそり解いてたある男子生徒が、先生に見つかってガチギレされててさー』
「うわ~。それは可哀そうだな。こう言っちゃなんだが、国語の授業って真面目に聞こうが疎かにしようが成績には影響しないからなあ。サボりたくなる気持ち、よく分かるぜ」
『そうそう! そりゃあ、ちょっと注意するんならまだしも、何十分もかけてグチグチグチグチってさあ。しかも、これ見よがしにカタカナ語とか四字熟語とか入れて話すんだよ~』
「あー、あれだな。『こんなにも賢い自分がしているこんなにも素晴らしい授業を聴いていない生徒なんて許せない』とか思っちゃう、ナルシストな先生だな」
『そうそう! もう、クラス中が恐怖で無言になったの。で、そんな時に学級委員をしている真面目ちゃんがさ。なんていったと思う?』
「なんて? 『授業を再開してください』とか?」
『惜しい! 『あの、先生。今の侃々諤々の使い方、間違ってますよ』って言ったの』
「わーお。凄い……な」
『で、そのタイミングで丁度チャイムが鳴ってさ。教室の空気が凍ったまま、休み時間に入ったとさ』
「あはは……。でも、大丈夫なのか、その二人? 内申点とかさ」
『二人とも成績は良いし、他の先生からは好かれてるからね。たぶん大丈夫だと思うよ。で、私の方はこんな感じ。お兄ちゃんの方はどうだったの?』
「俺か? そうだなあ、俺の方は本当に何もなかったぞ。けど、ゴールデンウィークに、一度家に帰っても良いって聞いたんだ」
『そうなの?! え、帰ってくるの? 帰って来るよね?』
「って言われると思って、『帰るつもりです』って友達に言ったよ」
『おお~! え、いつからいつまで? どういう予定なの?!』
「今の所4月の29日から5月の7日までかなって思ってる。5/7の昼に学校に戻ろうかなって」
『やった~! 一か月も会えなくて、本と寂しかったんだから! その期間はずっと一緒に居ようね! そういえば、フォルテメイアは中日も休みなの?』
「そうそう」
『じゃあ、私も学校休もうかな!』
「いや、ダメだろ……!」
『お母さんに聞いてくる~! …… 良いって言って貰えた~!!』
マジかよ! あー、まあ。なんとも物議を醸しそうな事態になったなあ。
俺が中学生の頃は、「家族で旅行に行くから、中日は休むぜ~!」って言ってる奴を妬ましく感じていた。で、そんな事を言っている奴の事を見下していた。あいつは不良だって思っていた。
けど、今になって思う。悪い選択では無いのではないか、と。
中学生、高校生と学年が上がるにつれて、友達と遊んだり部活に行ったりする時間が増え、家族と過ごす時間が減る。それは当然の事であり、子供の成長であると言える。
けど、大人の記憶を持ちながら、もう一度子供時代を経験して思ったことがある。それは「一番の親孝行は、親とどれだけの時間を共有できたかではなかろうか」って事だ。
子供にとって親と過ごした
だから……
「そっか。じゃあ、ずっと一緒に過ごそうな!」
俺は画面の向こうにいる穂香に向かって笑いかけたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます