第8話 オンリーワンの詰め合わせ
快晴。
雲ひとつない青空はグラウンドに光を燦々と注ぎ込み、くっきりと校舎の輪郭をなぞる。
アナウンスで集められた新入生193名は、各クラスごとに集まって準備運動をしていた。
学園のグラウンドはかなり広く、1番近くのクラスでも数十メートルは離れて集まっている。
俺とガンスがグラウンドに来てから数分後の光景である。
ちなみに先程、もう一度アナウンスが聞こえた。今度はルール説明だった。
どうやらこれからチーム戦でのテストをするらしい。目的はおそらく・・・。
いやはや、それにしてもギャラリーが多い。
俺は校舎の方を見る。点々と設置されている窓からは、大勢の生徒がコチラを嬉々として見物していた。
「おいアスト!あの子可愛くね?」一方ガンスは嬉々として女子の見物をしている。・・・女の子遠くね?
「バカ、声デケェって。俺を巻き込むな」俺は他人を装い、小声で反応する。
あとポンポンと肩を叩かないでほしいな、俺も同類だと思われるからさ。・・・まぁでも、ふと俺はガンスが差している方向を見る。
ウィーン、ズームアップ!
「・・・たしかに可愛いな。大人っぽいというか、なんか余裕を感じる」
俺はガンスの後ろに隠れて批評しておく。男としての最低限のマナーだ。
「だろ?いいなぁ・・・俺がヒールしたら惚れてくれるかなぁ?」
バカだけどいい奴なんだよなぁ。
ガンスはまだ、人を癒す心得だけは忘れてない。
その時点で最高のヒーラーと呼べるんですよ。この世界のヒーラー、大半の奴が守銭奴なもんでね。
「ちょっと二人とも!真面目に作戦考えて!」と女子生徒の声。
あっ、同じクラスの女子ですね。
俺はD組がグラウンドに集まった時の自己紹介を思い出す。
名前はたしか『ニーナ』と自己紹介していた。
正面からツカツカと歩いてきた彼女は三つ編みに眼鏡をつけた、典型的マジメちゃん。
腕を組んで威風堂々としているが、俺たちよりひとまわり小さい。
効果音を付けるなら『ちょこん』って感じのニーナちゃんですね。
そんな彼女はご立腹のようで、リスみたいにお口を膨らませています。
「アストくん!ガンスくん!このテストで挽回する気あるの?私たち『最底辺』なのよ!」
彼女は『最底辺』のところを強く発音して強調して言った。彼女がザッと踏み込んだ足にも力がこもっている。
そしてすぐさまニーナは「こっち来て!」と言って、俺たちをクラスのもとへ引っ張って行った。
彼女に引っ張られて向かった先では、クラスメイトがなんとなく輪を作っていた。当然俺たちも強制的に加わることとなった。
この輪の中でもニーナが指揮をとる。
「いい皆んな?今回のテストはチーム戦。D組の私達にも勝算があるの」
確かに勝算はありそうだな。
さっきアナウンスされたルール的に、むしろ今回は公平なテストと言っても過言ではない。
しかしその言葉を聞いたクラスメイトの中で1人、首を傾げる者がいた。
そりゃもちろん『ガンスくん』である。
「おいおい、そりゃどういう事だよ?俺たちでも勝てるってことか?なんでだよ?」ガンスはニーナに言葉で噛み付く。
しかしながらニーナは動じない。
「ガンスくん、さっきの放送聞いてた?今回のテストのチームはA組とD組、C組とB組に別れるって話よ」
「おお?つまり・・・強い奴らが仲間になるってことか!」ガンスは少し考えた後、自信満々に答えてきた。
「えらいぞー。大正解だよガンス、でも次からは放送聞こうな」
俺はガンスに「うるせぇ」と右肘で小突かれた。
「2人共いい?話を戻すわよ。私たちA組とD組は人数が少ないの。今ざっと計算するけど・・・」ニーナは顎に手を当てて思考している。
同時に『ガンス以外』のクラスメイトも考え事をしているようで、しばし無言の時間が流れた。
ガンスは1人退屈そうに周りを見ている。
えーっと、入学式の説明会の記憶を掘り起こしてみると・・・。
A・D組は各クラス7名で、B・C組は25名とか言ってたかな?そして俺が追加でDクラスに入ったからプラス1人分で計算して・・・。
だから・・・その・・・うん。
計算が終わったニーナさんは口を開く。
「私たち、全学部を合計しても43人。向こうは150人。どう?」
「おお!勝てそうな気がしねえなぁ!」
1人退屈していたガンスがテンション高めに答えた。
イイっすねえ、ガンスくん。そういう素直な所を長所と呼ぶんだよ。
ニーナは深刻そうに自身の考えを続ける。
「そうよ。しかも私たちD組はB・Cの連中と1対1でも負ける。つまり戦力はA組だけになるわね」
「え?それじゃあ・・・」とクラスメイトはヒソヒソと話し顔を曇らせていた。
表には出していないが、皆んなの士気が下がっているようだ。
そんな中ガンスだけは手を広げて不服をアピールしている。
「はぁ!?俺らいよいよ出る意味ねーじゃん!」
「まぁ、俺も表面上はそう聞こえたな。ニーナ、ガンスにも分かりやすく教えてくれないか?」
俺はニーナと目を合わせた。目線で彼女との会話を試みる。
──ニーナ、このテストの目的は?
──うん。分かってる。
ニーナは軽くうなづいた後、俺にホワイトウルフのような力強い目線を返してきた。
その後視線をガンスに向けて話し出す。
「でもガンスくん、テストの勝利条件を思い出してみて?」ニーナはガンスを諭すように語りかけた。
「俺覚えてねぇ・・・。あれか?全員ぶっ倒したら勝ちとか?」
「はぁ」クラスメイト全員のため息が揃う。
そりゃあコイツ、さっきから女子以外見てなかったもん。
当然ながら、アナウンスなんて聞いてるわけないよな。
「いいガンスくん?一回しか言わないからね?」ニーナは人差し指をガンスの目の前にピンと差して強調する。
「おう!」とガンスが良い返事をしたところで彼女は口を開く。
ニーナはガンスにテストの『勝利条件』と『学園の目的』を全て話した。
「そういうことか!つまり俺たちが強くなるチャンスってことだな。ようやく理解したぜ」ガンスは大きくうなずく。
残りのクラスメイトも同じような反応を見せて、ニーナだけが得意そうにフンッと鼻を鳴らした。
でも相変わらず腕を組んで『ちょこん』としてるんだよなぁ。
そんなことを考えていると、またニーナは口を開いた。
「次、作戦を考えたから聞いてね」
その後もニーナは作戦を皆んなに伝達したり、グループ分けをしたり、リーダーシップを振り回す。
そして誰も意義を唱えることなく従って、俺たちは準備を着々と進めて行く。
結果、試合開始の直前にはこうなっていた。
俺たちD組は二手に分かれて、それぞれA組の『攻撃学部』、『防御学部』と合流する。
その過程で他のD組と出会えば、そこと協力してA組を目指す。
もしB・C組と接敵した場合は全力で逃走。
このテストは『脱落者の合計人数』を競っているため、戦力を持たない俺たちは生存を重視している。
そして現在、推定ではあるが目的も分かっている。
おそらくこのテストは『各クラスの担任を決めるため』に行われている。
状況証拠だけではあるがその理由として、
『入学式に担任との対面がなかったこと』
『今日も担任らしき人物と出会っていないこと』
が挙げられる。
もしこの仮説が正しければ『良い教師』から回復学を学べるかも知れない。
──ピーンポーン
「試合開始の時刻になりました。各クラスの生徒は勝利を目指して頑張ってください」
──ピーンポーン
どこからともなく聞こえて来たアナウンスが開戦を告げた。
俺たちは全員杖を握り締めて体を強ばらせる。
ヒュルリと吹く風が、妙な緊張をグラウンドに張り付ける。
こんな状況でも俺たちのリーダーは頼もしい。
「皆んな生存を優先してね!負傷者の治療も忘れないこと!しばし解散!」
俺達は『攻撃学部』の方面へ向かい、作戦を共有します。
同行するのは同じクラスの女子生徒3名。
ニーナさん曰く、『アストくんは生存能力高そうだから3人を守ってあげて』だそうです。
タッタと走りながら彼女たちが挨拶をしてきた。
「アストさんですよね!頑張りましょう!」
「私、足だけは引っ張らないようにするんで・・・最悪置いていってください・・・」
「アスト!ヤバくなったらウチの後ろに隠れなよー」
3人の面子は、『ファン?』と『ネガティブちゃん』と『アネゴ』って感じ。
でこぼこパーティに『無能力者』も加わってます。
よーし、頑張るぞ!
──続く
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