第25話 5月5日 対決(2)
まあ、そういう選択をしないといけない状態になるとは限らない。そうならないようにすればいいよな。
ヒナはそれができなかった。
そういえば、急にヒナの態度が変わったような気がする。
どうしてかは分からないけど。
急に、俺への好意に気付いたというように見えたし、タイムリープ前は、そんな様子はなかった。
その変化で、その結果ラブホに入ってエッチして……処女を貰ってしまった。
須藤先輩ではなく、俺が。タイムリープ前はできなかったことだ。
さて、考えるのは程々にして目の間の問題だ。
「今度は優理が返信全部考えてみようか?」
「は、はいがんばります」
優理は真剣な表情で返信文章を作る。優理の渾身の作品がこれだ。
『はい。経験は、その、ありません。キスもしたことがないのでよく分からなくて。色々教えてください。お願いします』
なかなかの力作だと思う。もし実在の子がこんなこと言ってきたら、ノってしまう男は多いかもしれない。しかも、とんでもない美人だったり可愛かったりする子からのメッセージだ。
もちろん、こんなに都合よい、チョロすぎる女の子は存在しない。残念だったな【花咲ゆたか】。
見ると、優理は顔を真っ赤に染めている。
なんで照れてるんだろう?
「優理、顔が赤いよ?」
「あ、その……たつやさんに言っているような気分になってしまいました」
なんだそれ? あ、いたわ。チョロい女子がここに。しかも超絶美少女で性格もいい。ついでに都合もいい女の子になりがちな子が。
数秒で返信が戻って来た。食いつきすぎだ。
『しょうがないなあ、じゃあ僕が優しく教えてあげるよ』
この文章を見て、露骨に顔をしかめる優理。
「うう、たつやさん以外にこんなこと言われるとすごく……」
「すごく?」
「え、えと……その、すごく嫌な気持ちになります。ダメですよね、人に対してこんな風に思ったり言ったりするの……悪口を言ってしまいました」
俺以外に、っていうのが気になる。俺もこんなこと言ったら、まあ言わないけど、もし言ったら気持ち悪いって思ってくれないとチョロい子は卒業できない。
優理の言葉を逆に言うなら、俺なら大丈夫って意味だけど。もしそれが本当だとしても、利用しちゃダメだよな。
「ううん、いいと思うよ? たぶんそれは普通の気持ちだと思う。そういうとき、俺はキモい、って言う」
「キモい、ですか?」
「うん。さあ言ってみて『教えてあげるなんてキモーい』って」
「え、えと。こほん」
優理は咳払いをしえ、背筋を伸ばし、おずおずと口を開く。
「教えてあげますなんて、きも……気持ち悪いです」
「……。ぷっ……」
俺は思わず吹き出した。
「うん、全然違うけど、まあ優理はそれでいいや」
「は、はい。私には難しいみたいです」
無理して他に合わせる必要ないよな。優理は優理だ。こういう、言葉使いが丁寧なところも、優理らしくていいのかもしれない。
無理に変える必要は無いだろう。
そして、すぐに次のメッセージが来た。さっきの続きだ。
『じゃあ次も、自撮りを送ってくれないかな。次は下着がチラ見えするやつ』
ほらきた。でもまあ想定内ではある。次第に肌の露出を高くしていって、もっときわどいものを送らせるのだろう。
さてどうするか。優理は露骨に嫌そうな顔をする。
「どうしましょう? まさか……お母さんにそういう写真撮って貰うのは……言い訳ができないです」
「まあそうだよな。それは仕方ないよ」
「じゃ、じゃあ……私が……頑張ります。たつやさんに見せるつもりでやれば、撮れるかもしれません」
そう言って座ったままワンピースのス裾をつまみ、めくった。白い肌が露わになり、ドキッとする。
「こ、これを、写真にとるのは……どうでしょう?」
再び恥ずかしそうに言う優理。
まあ却下だよね。
「優理、俺に見せるつもりって、送ったら【花咲ゆたか】が見るんだけど」
「あ……それは嫌です」
「うん。俺も嫌だ」
「そうなんですねっ」
なんだか、俺が嫌だと言ったことに対して嬉しそうに言う優理。
「じゃあ、どうするんですか?」
「もう、黒なのは分かった。下着がチラ見えるとか、もう間違い無いでしょ。写真を送らずに決定的な言葉を引き出そうと思う。
そこで、次はこういう文章を送る。
『あの、私大丈夫なので一番花咲さんが欲しい写真を教えてください。その写真を撮を撮って欲しいです』
それに対する返事がこれ。
『じゃあさ、胸の乳首とおしっこするところ映ってるやつ撮ってあげる。じゃあ、どこなら来れる? 迎えに行くよ』
来た。相変わらずキモいけど、もう慣れてしまった。しかもこれで確定した。間違いなく黒だ。
もう遠慮はいらないだろう。俺たちは、互いの家から離れた河川敷の橋の下を誘き出す。
「明日呼び出すよ。撮影は俺が行くから、優理は家で待ってて」
トドメになるメッセージを送り、約束を取り付ける。
『分かりました。じゃあ、河川敷の橋の下に行きます。来て下さいますか?』
『そこは家の近くだから歩いて行くよ。可愛い服を着てくれると良いな。楽しみにしてる』
完全に信じているような気がする。
可愛らしい写真がよかったのと、警戒心低めな感じが良かったのかも。
あとは明日を残すのみだ、そう決心をしていると、優理が決心をしたような面持ちに俺に訴える。
「タツヤさん、私も行きます」
「いや、これは——」
「いえ、ここまで一緒にやってきたので、私も手伝わせて下さい。こんな人が千照さんに近づくなんて……私は怒ってるのです」
最後らへんのメールを見た時から、優理の言葉が少なくなっていたのは、怒っていたからか。
むう、頑固だなあ。
でも、ぷりぷりしている優理も可愛いな。怒っててもそんなに怖くないし。まあ優理らしいと言えば優理らしいか。
「わかった。一緒に行こう」
「はい! じゃあ、明日も一緒にいられますね!」
優理はとても嬉しそうに頷く。
うーん、明日はある意味、敵と接触するから多少の危険はある。そんなに喜んでもいられない。
でも、優理の笑顔はとても眩しく、まあいいか……という気分になるのだった。
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