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雨の降り続く誰もいない路地で、美空の手は白い紙を枝からスッと抜き取っていた。他人の手紙を勝手に見てはいけないのはわかっている。でもちゃんと元に戻せば大丈夫。
心の中で言い訳をして、そっと紙を開こうとしたときだった、低い声で猫が鳴いた。ビクッとして辺りを見ると、垣根の下に、うずくまったシャム猫がいて、まっすぐ美空を見上げていた。
美空はあわてて手紙をレインコートのポケットにつっこんでその場を離れた。
家に走り込んでカギをかけるやいなや、路地を走る聞きなれない足音が聞こえてきた。
誰だろうと耳を澄ますと足音はまっすぐ玄関に向かってきた。
ガチャガチャと乱暴に扉をひっぱり開けようとしている。
この家にこんな扉の開け方をする人はいない。おばあちゃんは奥の部屋にいるはずだし、骨董が趣味のおじいちゃんは物を丁寧に扱う人だし、お父さんは単身赴任で遠くにいるし、おかあさんも絶対にありえない。
美空が凍りついたように動けずにいると、奥の部屋からおばあちゃんの声がした。
「美空、帰ってきたのかい?」
美空は急いで奥の部屋に駆け込んだ。おばあちゃんは、いつもと変わらない様子で新聞を読んでいた。
「おかえり。ついさっきじいちゃんも帰ってきたところだよ」
おばあちゃんは、顔をひきつらせている美空を心配そうに見上げた。
いつの間にか、扉を引っ張る音は止み、玄関はひっそりと静まり返っている。
わけを話すと、おばあちゃんはすぐに外を見に行ってくれだけど、すでに誰の姿もなかった。
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